私の競輪備忘録⑩

予想屋。

なんだか胡散臭い響きを感じる方も多いのではなかろうか。

現に私自信も時に恨み辛み買う因果な商売だなぁと思っていた時期があった。


今より遡る事、十数年前。


私は備忘録①でも登場した地元の苦手な先輩の半ば強引な推薦で某競輪場で予想師として2年程活動させて頂いた。

丁度、先行一車投資に見切りをつけドットコムバブルも崩壊し始めた頃だったし、なにより競輪は大好きだったので悪い気もなく嫌々というわけでもなかったが他人の銭、土俵で相撲を取るような商売というイメージがありどこか後ろめたさがあったことは今でも鮮明に記憶している。

予想屋の賃金のシステムは様々だが私の場合は場所代などの経費を引かれた売り上げの約65%ほどを頂いていた。

先輩を介していたので先輩にピンハネされていた事はまず間違いないと思う。

予想屋の予想も様々だが私のいた競輪場には大体4~5人ほどの予想屋が在籍していた。

本命予想、穴予想、バランスの良いMix型。

1ヶ月に1回当たるか当たらないかの超大穴予想のじいさんもいた。

値段はどこも1R100円。

それ以上もそれ以下もない分かりやすいワンコイン制。


私の予想形態は現在のnote予想からも見て取れるように本線予防しながら中穴狙いのバランス型。



競輪ブームにやや陰りが見え始めた頃だったがそれなりには売れた。

平日だと1日通して200枚。週末祝日だと300枚も越える日もあった。


ここで一つ話を挟みたいのが私の隣近所で屋を構えていた1ヶ月に1度当たるか当たらないかの超大穴予想のじいさん。

このじいさん、前歯どころかほぼ歯が見当たらなく風貌はよりホームレスに近い競輪場を見渡しても中々いないそれは見事な小汚さのじいさんだった。

本当か嘘かは別に自称30数年の予想屋生活らしく、じいさんの屋の周りには今までの大穴レースで的中した結果の新聞が大量に張ってあった。中には新聞が古くなりすぎて黄色く変色してもはや新聞なのか何なのかわからないものもあった。

じいさんの予想は1R5点の超大穴勝負。

買い目はバラバラで私には何故その買い目になるのか理解できないものがほとんどだった。

ある日、じいさんに聞いてみた。どんな展開予想をしていてどこまで先を見越しているのかと。

今でもその時の光景は昨日の事のように鮮明に覚えている。

「わしはなー、大穴予想やろ?荒れる思うレースはとことん真剣に荒れの荒れまで考えとるけど、どう考えても固いレースあるやろ?あんなんは落車展開ありきで考えよるき。たまにサイコロ降って決めたりする時あるでぃ。ガハハっ!」

競輪予想師ならぬ競輪妄想師もびっくりのある種、一つの世界を飛び越えた領域にいるじいさんだと思った。

その時の私はアカデミー賞も顔負けのひきつった笑顔で愛想笑いをしていたに違いないと思う。

そしてじいさんは固そうなレースがあれば大穴予想で得た売り上げの小銭100円玉をじゃらじゃらと持ち出し三連単1点1000円~2000円ほどの車券を私にいつも得意気に自慢するように何度も見せつけにきた。

「勝負師ですねぇ!」

私はいつも定型文の様にそう返していた。

じいさんは月に1回当たるか当たらないかの超大穴予想が当たった時には競輪場内を大声で当たったレースの新聞を広げながら駆け回るルーティーンがあった。

レースや配当を例えるとこう。



想像して読んでほしい。小汚ない歯のほとんどないほぼホームレスよりのホームレスっぽいじいさんが競輪場を猛スピードで駆け周りながら大声で叫ぶのだ。

「なーごーやー!!ろくーーれーすっ!!やりましたーやりましたっ!やりましたっ!!三連単っ!!
ロクッ!サンッ!!ヨンッ!!!ムサシッ!!じゅーまーーーんしゃケーーン!!!」



じいさんは自分の予想を買っていた人を探しまくっては必死におこぼれを頂戴していた。


私も最初の頃は違和感満載も、そのうち慣れるものとばかり思っていたのだがその考えは甘かった。

じいさんの予想が当たるのは月に1回あるかないか。


忘れた頃に当たりがやってくる地震のようなじいさんだった。

ある日、じいさんがいつもの様に叫び回っていた。

お、当たったのかと思ってもやっているレースの結果は三連単280円の超ガチガチ決着。

どうやらじいさん、自分の予想と自分がいつも小銭をじゃらじゃらさせて買う本命車券を勘違いしてしまったようで、

「大垣9R!やりましたーやりましたー!三連単!イチ!キュウ!サン!一休さん!!」





「にーひゃーくぅーはーちーじゅうーえーん!!」


周りの人間の反応はカオスそのものだった。

じいさんは顔を真っ赤にして屋に戻ってきたが3分もしないうちに嬉しそうに当たった車券を換金していた。あとにも先にもこんな奇妙なじいさんに出会う事はまずないと思う。





一つ軽く挟むつもりだった話が随分と長くなってしまいました。

 

ここからは私のお話。

競輪場で私の予想が当たった時には予想に乗ってくれた方からチップを頂いたりコーヒーやお茶を買って頂く事もありました。

そして今でも全く変わらないのが

「ありがとうなー」

と最高の笑顔で声をかけてもらえた時の嬉しさ。

今はsns上での予想ですから表情までは見えませんが的中報告の文面を見て笑顔を想像したりします。



問題なのは当たりが遠退いた時。


恨み辛みを言われて罵倒される事さえなかったものの軽いお叱りの言葉くらいは勿論あります。

その時には現在のsns予想と同様に私は謝罪もするのですが私の隣近所のじいさんは

「んなもん、謝ったら敗けやでー!絶対謝ったらあかん!」

といつも謝る私を小馬鹿にしてました。


考え方は人それぞれです。




私は良い時にはチヤホヤされて時にはお礼まで頂く事もあるのに悪い時には知らん顔では商売としてどうなのかと言う考えの為、悪い流れが続いた時には謝罪またはフォローは欠かさない様にしてました。

勿論、自分の予想には一片の迷いはありませんがギャンブルですので当たりはずれはもちろんあります。

私の予想屋としての見解は当たりはずれがあってありがとうがあるならごめんなさいもセットです。

ありがとうとごめんなさいを積み重ねながら時に笑ったり、時に悲しんだりを共有して共に楽しんでいける商売であれたら良いなと考えるのはちゃんちゃら甘い私の浅はかな理想論かもしれませんが。

持ちつ持たれつなんて予想屋が発言するのはおこがましいです。


はずれた時の代償は予想を買う立場の方のほうが圧倒的に大きい。

だったら予想屋というものを適度に上手く利用して盗めるものは盗んで予想屋を頼らないBETができる様になればもっともっと競輪が楽しくなると私は考えます。



良い意味で熱くなれるBETをクールにBETできる様。そんな予想を提供できる青汁自転車新聞を目指し、十数年の時を経てsnsと言う新しい世界で皆様と共に泣き笑いしながら競輪を楽しんで行きたい。そんな想いを込めて締めさせて頂きたいと思います。

Good Luck



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