感情の話はした方がいい。「幸せへのまわり道」(A Beautiful Day in the Neighborhood)

製作国:アメリカ合衆国
公開日:2020.8.28(日本)
上映時間:109分
監督:Marielle Heller

映画ポスターの煽り文に "今、私たちに必要なのはこの映画だ" というキャッチコピーがついているのだが、それは一言で言うと「僕たちはもっと感情の話をしよう」というテーマになるのではないか、と私は解釈した。

※以下、ネタバレを含む。

https://www.misterrogers.jp/

1968年から2001年にかけて放送された子ども向け番組「Mister Rogers' Neighborhood」の名司会者であるフレッド・ロジャースが物語のキーキャラクターとなる本作は、実在の人物を扱った作品ということになる。

そのためか、このフレッドはたいへんな人格者であり、まるで魔法のように(実際かなりファンタジー色の強い演出が一部効果的に仕掛けられている)次々と子ども達をカウンセリングし、やがて主人公の頑なな心を解していくのだが、ただの聖人ではなく複雑な多面性を持った人間であることが随所で強調されており、それが映画全体に重みのある余韻を残している。

プロットとして妻子を持つ主人公とその父親が「語り合えない」ことで困難を抱えているうえに、最終的にはポジティブな感情で育児にコミットするようになるという"変化"が描かれているため、明確に、男性が男性に対して人生の問題を解決する糸口を与え、幸せへの道を指し示すことが狙いであると感じられる構成になっている。

私も、この「自分の感情を他人に晒け出して相互理解に努める」という行為が非常に苦手であり、それによって人生に不必要な困難や損が生じているという自覚もあるため、非常に耳の痛いテーマである。
何で言えないんだろうな……なんかこう、私のことなんて簡単に理解されてたまるかよ!みたいな、自分の感情を特別だと思いたい願望があるせいだと思います……個人的には。

作中ではこれらの頑さが単純に愚かなもの・無駄なものとしてではなく、視聴者もある程度共感できるシチュエーションで痛切に優しく描かれており、何よりも、中盤にて主人公が自身の感情のわだかまりを「1分間」(観た人はわかる)で氷解させるシーンには強く感情を揺さぶられ、劇場にて涙した。

ここは作品の主題としても起承転結の転にあたる重要なシーンなのだが、フレッドが今までもこういった営みを、大樹が年輪を増していくかのような底知れない聡明さをもって積み重ねていたこと、それによって周囲から深い人望を得ていることが察せられる演出となっており、私はこういう、台詞で説明する以外の部分で登場人物の情報量が押し寄せてくる作品がとても好きなのである。


結論:感情の話はした方がいい。


それにしても、よくあることだが邦題は没個性的だし、個人的には「人間はそんなに直線的には幸せに辿り着けないしそれに対して受容も抵抗もしたくないな~」とも思うので、あまりピンとこないタイトルだと感じた。

(2020.9.16)

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