感動の半分は音でできている。「ようこそ映画音響の世界へ」(Making Waves: The Art of cinematic Sound)

製作国:アメリカ合衆国
公開日:2020.8.28(日本)
上映時間:94分
監督:Midge Costin

ハリウッドでの映画音響の歴史を紐解くドキュメンタリーであり、著名な監督やサウンドチームのインタビューと共に、名作映画のこだわり抜いた音作りを探求する構成となっている。

基本的に、コンテンツの解像度は高めれば高めるほど楽しめる可食部が増えると思っているので、未来の自分に役立つであろう知識を得るべく劇場にて鑑賞した。

http://eigaonkyo.com/

特に印象に残ったのは、「アルゴ」(2012)における民衆デモの音声作りである。
制作時のエピソードとして、劇中で描かれている時代の記憶があるエキストラも参加しており、声だけの収録でも撮影中に涙を流した人が何人かいたそうだ。
暴徒化寸前の民衆の怒声というものは、もはや意味を成す言葉ではなく、何重にも増幅された凄まじい音のうねりとなる。
音響のプロが土地そのものから発生する音に拘りロケ地を設定したのは正解だったのだろう、そう納得させられるほど、なにか霊的な力を感じるような音が劇場内にグワングワンと反響していた。

ところで私は、「音楽の持つ力」というものをあまり信用していない。
軽んじているのではなく、むしろ逆で、音楽というものはそれを伴わせることで容易に現実を歪ませ、脚色することができる甘美な強制力があると思うからだ。ドキュメンタリーとして切り取られる人間の感情も、現実に流れるニュースも、BGMがついた途端にそれは「物語」となる。

インタビューの中では「鳥肌を立てさせられたら勝ち」「観客の心を奪いたい」というなんとも好戦的な言葉が度々出てくるのだが、エンタメ作品から得る感動という現象には、こういった支配的・被支配的な快楽が渦巻いているということを強く意識させられる。

映画館に設置されるスピーカーがモノラルからステレオ、5.1chサラウンドシステムへと進化していったのは、箱に入れた人間に如何に四方八方から波を浴びせ刺激を与え、感情を揺さぶり心理を誘導しようと躍起になってきたかという歴史でもあるのだろう。

リアルを追求しながらも、裏方にフォーカスがあたると、同時に人工的な「不自然さ」も浮かび上がってくる。
これこそが、舞台裏を覗くことの醍醐味ではないだろうか。


結論:映画は映像と音でできている。つまり感動体験の半分は音によって生まれているということになる。


余談だが、国内有数のサウンドシステムを誇るCINEMA CITYで鑑賞すると、本編が上映終了した後に渾身の劇場オリジナルポエムがスクリーンに映し出されるボーナス付きでちょっと笑った…。

(2020.9.20)

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