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誰が「知」を独占するのか ダークウェブで起こっている情報資産のヘゲモニーをかけた争い

1. Googleに支配されるインターネットという『幻想』

「Google の使命は、世界中の情報を整理し、世界中の人がアクセスできて使えるようにすることです。」

それこそがGoogleの経営理念であり、Googleの目的であった。

Googleの元にすべてのウェブを統一する。

……だが、その夢はもろくも崩れ去った。

Google、Apple、Facebook、Amazon、の頭文字から取った言葉である、GAFA
最近では、アイリッシュマンやマリッジ・ストーリーをアカデミー賞にノミネートさせたNetflixを加えて、FAANGと呼ぶのが欧米では一般的になっている。

GAFAの四騎士の1人であるGoogleは、まるでインターネットの覇権を握ったかのような書かれ方をする事が多い。

しかし、実際にGoogleの握っている領域は、わずか4%しかないのだ。

……

インターネットは3つの領域に分かれている。

 1つは、GoogleやYahooといった検索エンジンでアクセスできる領域である表層ウェブ(surface web)。ここは、インターネットの4%を占めている。
 2つ目は、GoogleやYahooといった検索エンジンでは、アクセス出来ない深層ウェブ(deep web)。ここが、インターネットの96%を占めている。
 3つ目は、深層ウェブ(deep web)のさらに奥深く、特殊な方法でしかアクセスできない領域で、ダークウェブ(dark web)と呼ばれ、そこには、大麻や覚せい剤といった違法ドラッグや児童ポルノ、人を殺すことを仕事にしているヒットマン、銃器、盗まれた個人情報といった違法なものが渦巻いている。

 今回は、そんなダークウェブ(dark web)について、特にそこで繰り広げられる『知』という情報資源を巡る争いについて書いていく。


2. 漫画村ならぬ、論文村。その名はSci-Hub

 近年、学術誌・論文の購読料が高騰し、財政難により体力のない大学や金銭的余裕のない研究者が研究の要である論文へアクセスするのが困難になりつつあるという状況がある。
 すなわち、情報資源にアクセスできる国・研究とアクセスできない国・研究の間にある格差が広がりつつある。
 そんな中、カザフスタンの大学院生であったアレクサンドラ・エルバキアンは、2011年論文の海賊サイトSci-Hub(サイハブ)を立ち上げた。
このサイトは、有料で提供されている学術論文も含めて、無料で違法にダウンロード出来る論文検索サービスである。
 もちろん、論文出版社がそんな暴挙を許すはずがなく、訴訟を起こし、サイトを停止させました。
 しかし、Sci-Hubは、ダークウェブ上にも存在するため、Sci-Hubを根絶することは困難な状況になっている。
 ちなみに、日本での利用状況は、2015から2017年の間に、約 2.7 倍増加している。(大谷周平・坂東慶太『論文海賊サイトSci-Hubを巡る動向と日本における利用実態』参照)
 また、Sci-Hub設立者のアレクサンドラ・エルバキアンは、『Why Science is Better with Communism? The Case of Sci-Hub.』という講演で、科学は私有財産権利と対立することがあり、私有財産権を否定する共産主義の方が論文という知的財産権に関する事では、優っていると話している。Nick Dyer Withefordの『Cyber-Marx』などの議論を彷彿させる。ローマ法学者の木庭顕が指摘するように、実は(近代的)所有権は、そもそも歴史的に生成されたイデオロギーとしての側面が強い。

 実は、皆薄々気が付いていると思うが、インターネットは、資本主義、特にこの所有権との相性が悪く、むしろ、共産主義の財産を共同所有するイデオロギーとの方が相性がいい。なぜなら、みんなタダで音楽を聴き、本・漫画を読み、ゲームをしたいからである。

インターネットにはマルクスの亡霊がいる。共産主義という亡霊が。


3. ダークウェブの巨大図書館。The Imperial Library of Trantor

著作権法は廃止されました。コストをかけずに本をコピーする技術により、最終的に文化への普遍的なアクセスを得ることができます。誰もがお金のリソースに依存せずに本を読むことができるツールを提供できます。もちろん著者を養う必要がありますが、文化を商業化する資本主義的な方法では、今ではそれで本当に悪い仕事をしています。私たちは著者ではなく大企業に食料を供給しています。インペリアルライブラリーオブトランターは、企業、社説、権利管理団体、またはその他の吸血鬼からのコンテンツ削除リクエストを聞きません。

 これは、あらゆるジャンルの本が取り揃えてあるダークウェブの巨大図書館である、The Imperial Library of Trantorのホームに書かれている文章をGoogleで翻訳したものの一部である。

 ここでは、著作権という権利が明確に否定されている。このような違法行為が堂々と宣言されているのが、ダークウェブという空間である。
 ただ、ダークウェブ、インターネットには、そもそもある思想が渦巻いている。
 
 1996年に発表されたサイバースペース独立宣言のいう文章を紹介する。

 「我々が作りつつある世界では,誰もがどこでも自分の信ずることを表現する事が出来る。それがいかに奇妙な考えであろうと,沈黙を強制されたり,体制への同調を強制されたりすることを恐れる必要はない。」
 「お前たちが考える,所有,表現,自我,運動,前後の関係(コンテクスト)に関する法的概念は我々には適用されない。それは物質に基づくものだからだ。我々の世界に物質は存在しない。」
 「お前たちのますます陳腐化する情報産業界は,延命を図ろうとアメリカや…いたるところで自分たちの主張を世界中に通すための法律を作ろうとするだろう。その法律とやらは,アイデアもまた別種の工業製品だとのたまう。それは高炉から流れ出た鋼鉄に比べてちょいとばかり高級などというものでは何らないというわけだ。しかし我々の方では,人間の精神が作り出せるものはすべて再生産できるし,また無償で無限回分配することができる。思考のグローバルな伝達にはもはやお前たちの工場の完成を待つには及ばないのである。」(DFO CON ZEROより孫引き)

4. 闇のAmazon主催の読書会。DPR Book Club

DPRのブッククラブへようこそ!知識は力であり、読書は知識を広げる最良の方法の1つです。毎週、シルクロードコミュニティが直面している問題についての理解を深めるための読み物を選択し、資料についてグループディスカッションを行います。私の希望は、高レベルの談話が育まれ、コミュニティとして、世界が私たちに気づき始めるにつれて一貫したメッセージと声で、私たちの信念に強くなることができることです。
私たちは、アゴリズム、反経済学、アナルコ資本主義、オーストリア経済学、政治哲学、自由の問題、および関連するトピックに焦点を当てます。私の希望は、これにより、私たちが何を支持しているかを発見し、平和、繁栄、正義、自由の文化を育てることです。今日、私たちは自分の教育を自分の手に委ね、理性と批判的思考で心を守らなければならないので、二重の言葉と誤報がたくさんあります。
仕組みは次のとおりです。毎週、その週をカバーする素材のスレッドを開始します。タイトルは*** DPR's Book Club ***で始まります。読み始めるとすぐに、資料に関する議論を自由に始めることができます。スレッドの正式な終了はありませんが、約1週間後に次のスレッドを開始します。
読書に偏りがあったり、グループ内で形成される可能性のあるコンセンサスに固く反対したとしても、誰もが議論に参加することをお勧めします。ただし、目標を確実に達成するために実施しなければならないガイドラインがいくつかあります。
1)常に市民的であり続ける。何かに同意できない場合は、問題を議論し、他の参加者を攻撃しないでください。
2)トピックにとどまります。材料が議論を刺激するので、私たちは少し迷うことができますが、私たちはスレッドでカバーしている特定の材料に常にそれを持ち帰りたいです。
3)アクションを転送します。既に言われたことに基づいて、常に構築してみてください。10のアイデアが同時に議論されることは望ましくありません。」
(Title: ***DPR's Book Club***Post by: Dread Pirate Roberts on August 14, 2012, 10:22 pm)

 これは、ダークウェブ最大のドラックマーケットで、「闇のAmazon」、「ドラッグのeBay」とも呼ばれたシルクロードの設立者、ロス・ウルブリヒト、ハンドルネームはDPRが始めた読書コミュニティに投稿された最初の文章である。

 ご存じの方も多いと思うが、シルクロードには、マリファナ、覚せい剤、MDMA、LSD、コカイン、ヘロイン、マジックマッシュルームといった違法薬物のみならず、マルウェア、盗品、クレカ情報、ハッキングの情報商材といった物から宝石類、絵画、デジタル機材といった物まで、販売されていた。

 そのDPRをはじめとするシルクロードの住民が読んだり、観たと思われる本や映画を紹介しよう。

 まず、日本語でも読めるものとして、ウォルター・ブロックの『不道徳な経済学: 擁護できないものを擁護する』や、G.エドワードグリフィンの『マネーを生みだす怪物: 連邦準備制度という壮大な詐欺システム』といった本がある。

 ただ、今回は本ではなく、映画をメインに紹介していこうと思う。理由は簡単で、これを読んでいる方も映画の名前なら多少馴染みのあるものが多いと思うからだ。

1.
Amazon.comで配給された事でも話題になったWW2で、日本とナチスが勝利したifの世界を描いた歴史小説『高い城の男』でも有名なフィリップ・K・ディックが、ヤク中だった自身の体験に基づいて麻薬が蔓延した未来のアメリカ社会を描いた『暗闇のスキャナー』。
2.
ジョージ・オーウェルの『1984年』や『動物農場』といった反社会主義・共産主義の
本・映画。特に、英国アニメーションの巨匠、J・ハラスとJ・バチュラーが描いた『動物農場』は個人的にもオススメ。


3.
スノーデンの15年も前に、アメリカの国家安全保障局(NSA)の一般市民に対する監視体制を警告した映画である『エネミー・オブ・アメリカ』。もし、映画『スノーデン』が公開されるまで、シルクロードが存在したらこの映画を彼らは観たかもしれない。
4.
夢の中で、様々な人と出会い、生きる意味や死とは何か、現実や夢とは何かといった哲学的なテーマを扱っている映画、『ウェイキング・ライフ』。
5.
ヒッピーたちの憧れであり、LSD(薬物)を広めようとしたカウンターカルチャーの象徴的人物でもあったケン・キージ―の小説、『カッコーの巣の上で』。
6.
ファイト・クラブ

ファイト・クラブ ルールその1、ファイト・クラブのことを決して口外するな 

7.
Supper High Me』、1日3食、30日間マックのハンバーガーを食べ続けるとどうなるのかを監督自らが実践したドキュメンタリー映画、スーパー・サイズ・ミーのオマージュで、大麻を30日間吸い続ける映画だ。……その結果は観てのお楽しみだ。


8.
トラフィック』というアメリカとメキシコ間の麻薬密売に関する事をテーマにした群像劇映画。『The House I Live In』という麻薬戦争の映画なども多く観られている。
9.
未来世紀ブラジル』、20世紀、中央政府により完全な情報統制が行われている架空の国が舞台で、オーウェルの『1984』をついつい思い浮かべてしまうし、『1984』が、ラストシーンで、101号室に、主人公を送り拷問したのと同じように、拷問シーンが登場するデストピア映画の傑作。
10.
レイ・ブラッドベリの『華氏451度』。オーウェルの『1984』と共に全体主義・社会主義を批判する本として度々言及されている本で、テレビやラジオといった映像・音声以外のメディアは禁止され、本を持つこと、読むことは犯罪とされた国家を描いたデストピア作品。
11.
時計じかけのオレンジ
近未来のイギリスの管理社会を舞台した映画で、暴力とセックスの映画である。しかし、あまりにもカルト的な人気を誇ったために、映画に影響を受けた少年たちが殺人事件を起こすなど、社会問題にまで発展した。


12.
スパルタカス』。世界史を学校で習ったり、多少詳しい人ならご存じであろうスパルタクスの反乱をテーマにした映画。
13.
博士の異常な愛情 または私は如何にして心配するのを止めて水爆を愛するようになったか』。冷戦期に、アメリカとソ連が対立したキューバ危機のIfを描いている作品。核戦争が起きた世界を描いている。
14.
Atlas Shrugged: Part II』。
アイン・ランドの小説『肩をすくめるアトラス』を元にした映画。アイン・ランドは、日本では知名度がほとんどないものの、アメリカにおいては抜群の知名度を誇り、リバタリアンの呼ばれる思想グループに強い影響力を与えた。彼女の思想を簡単にしていうと、『資本主義万歳!自由競争最高!』である。

15.
How to Make Money Selling Drugs
タイトルの通り、麻薬の販売・密輸、そして、麻薬戦争と麻薬にまつわることを扱った映画だ。
16.
善き人のためのソナタ
敗戦後、社会主義国家となった東ドイツはシュタージ(東ドイツの秘密警察)によって相互に監視しあう社会へと変貌した。ナチス政権下で、ユダヤ人を虐殺したアドルフ・アイヒマンとの対比を思い浮かべさせるような映画。ちなみに、筆者(無色)は大学で取ったドイツ語の授業でこの映画を見せられた思い出がある。
17.
『もののけ姫』
説明するまでもないと思うが、もののけ姫の元ネタが網野善彦の学説であるという雑学を話しておこう。
18.
シティ・オブ・ゴッド』。ブラジルのストリートチルドレンの3人の生活を撮った実話の映画だ。殺人、麻薬、ギャングが出てくる。ちなみに、『City of God – 10 Years Later』という続編も出ている。登場人物のその後を描いている。


19.
ツァイトガイスト
キリスト教、9・11、アメリカの戦争を三部作で描いているドキュメンタリー映画。

 ある1つのレスも引用しよう。引用する理由は、本についての解説も同時になされていたからだ。もちろん、翻訳はGoogleに一部手を加えたものだ。

『再:*** DPRのブッククラブ***
によってポスト:モンティCantsinで2012年11月16日、午前4時33午後
経済学について
1.ヘンリー・ハズリットの『1つのレッスンでの経済学』–おそらく、経済思想に関心のあるすべての人が読むべき最初の本です。ハズリットは、経済政策の当面の利益を超えて考えるよう読者に挑戦します。
2. FAハイエクの『隷属への道』–これはハイエクの傑作であり、生産の国家管理の危険性に関する情熱的な警告です。
3.アイン・ランドの『ビジョン:ナサニエル・ブランデンによる客観主義の基本原則』–ナサニエル・ブランデンによる講義のコレクションは、アイン・ランドの哲学の詳細な説明を提供します。
4.フレデリックバスティアの『法律』–生命と自由の転覆を引き起こす経済への政府の介入に関する1850年の古典。
5.ロン・ポールの『FRBの終結』–連邦準備制度の違憲性と危険性についてのロン・ポール下院議員の説明。
6.『資本主義と自由』:ミルトン・フリードマンによる40周年記念版–競争資本主義が経済的および政治的自由のために必要なフレームワークである理由の説明。
7.『アトラスが肩をすくめた』–非常に多くの人生を変えたフィクションのそびえ立つ作品。彼女の物語と対話で、アイン・ランドは資本主義と自由の攻撃不可能なケースを作ります。
8.モリスとリンダ・タンネヒルの『自由の市場』–この過小評価された古典は、民間企業が政府よりも優れたものをすべて提供する無国籍の世界を説得力をもって主張しています。
9. Ken Schoolandの『Jonathan Gullibleの冒険』–政府の介入のすべての病気の非常にアクセス可能なall話の物語。
10.『応用経済学』:Thomas Sowellによる段階1を超えた思考– Sowellは、幅広い政策の第1段階を超えて、その悲惨な影響をさらに検討します。社会化された医療制度から、政府が担保する住宅ローンへの家賃管理まで。」

 基本的に、リバタリアン系の経済書がチョイスされている。先ほどあげた映画もそうだが、自らの思想を理論武装する意味での「知は力」だということだろうか。

5.まとめ

 これまで、Sci-Hub、The Imperial Library of Trantor、DPR Book Clubといったサイト・スレッドについて見てきた。

 ダークウェブといえば、違法ドラッグ・児童ポルノ・殺人依頼サイトといったアングラ面ばかりが語られることが多かった。

 そこで今回は、ダークウェブを巡る「知」に関する営みについて紹介した。特に、DPR Book Clubについてはアーカイブがあまり残ってなかったので、漠然とした感じになってしまったが、これで、ダークウェブのもう一つの世界について少しでも伝われば幸いである。

お知らせ

p.s.
このnoteの内容を動画化しました。もし、興味のある方がいらしたら、視聴していただけると嬉しいです。宣伝しておいてなんですが、noteの内容をほぼ動画にしただけなので、本noteを最後まで読んだ方には不要かと思います。すみません。

https://youtu.be/lofzXyGnmk8

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