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自販機

僕は夏、友達と遊びに行く
□□県の〇〇山でキャンプするのだ。
友達の長谷川の車に乗りこむ。

長谷川とは大学で出会ったのだが
彼はオカルトサークルに入っていて
俺をしょっちゅう心霊スポットに行こうと誘ってくる。
そんなやつがキャンプに行こうと言ったのだ
警戒しないわけがない。

「どうせ何かあるんだろ」
『さあ?』
憎たらしい奴だ。
案の定、調べると情報が…出てこない。
心霊関連だけでなく、その山の情報が少しだけ出てきたくらいだ。

「あ?何も出てこないぞ」
『だろ、実はな』

彼の叔父さんが山を持っていて
今回はそこに泊まるのだが
叔父さん曰く「出る」とのことだ。
そこらの情報よりよっぽど信用できると
長谷川は嬉しそうに言った。

やっぱり碌なもんじゃなかった。
だが荷物はもう詰め込んでしまったぞ
しょうがないか。
今まで心霊スポットに行かなかったのは
不謹慎だからであって怖いからでは無いのだ。曰く付きでなければ別に行ってもいい。

「早く出せよ」
『そんなに行きたいのか?』
「キャンプにな」
こんな会話をしているが仲はそこまで悪くない
長谷川は基本いい奴である
オカルトが絡まなければの話であるが。

走ること数時間、少し深い森の中に着いた。
厳かな雰囲気が辺りに漂い、薄くかかっている霧がそれに拍車をかけている。
小屋から彼の叔父が出てきて
挨拶をしてくれた。
〔こんにちは、こんな所までよくきたな
 常識を守れば大体何しても大丈夫だ〕
『やっぱり出ますよね?』
〔俺が見たんだから間違いない〕
揃いも揃ってオカルトバカだなと思った。

僕たちは少し話をしてテントを貼る場所を探し始める。

『それっぽい雰囲気あるね』
「霊より熊に気をつけろよ」
近くに川があるらしく水の音が聞こえる。
なんで彼の叔父さんはこの山を持っているのだろうか。

まず、準備に取り掛かる。
長谷川はキャンプ初心者なので一つ一つ教えなければいけない。
「ここにポールを差し込んで、フックをかけるんだ」
『こうか?』
「そうそう、長谷川にしてはやるじゃん」
結局、時間はかかってしまったが
とても楽しい時間だった。

しかし日が暮れるとやはり

『なあ探索行こうぜ、お前も見たいだろ?』
と半ば無理矢理連れて行かれた。
少し湿った空気と虫の声、並び立つ白樺の木。
それから数十分歩き回ったが同じ風景が続く。
「あんまり遠くまで行くと帰れなくなるって
 叔父さんも言ってたろ
 今回は普通にキャンプを楽しもうぜ」
『ええ、もうちょっとだけ頼むよ』
面倒臭いが明日楽をするための布石だ
そう念じて歩を進める。

さらに15分、流石に声をかけようとしたその時
『お、何かが点滅してるぞ』
なんだ?こんな森の中に
『早く見に行こうぜ』
長谷川は駆け足で進んでいく。
点滅する光の下へ辿り着くと
空いた空間に自販機がぽつんとあった。
側には古びた小屋があり、打ち捨てられてから結構立っているようだ。

『なんだ、ただの自販かよ』
「でもこんな所に置いて誰が使うんだ?」
『俺、買ってみるわ』
電飾は機能しているが
中身は変えられていないだろう。
「腐ってるかもしれないぞ」
『買うだけだから』
彼は100円を入れ、天然水のボタンを押す。
ゴトっと音がしてボトルが出てくる。
『出てきた出てきた』
取り出し口に手を入れてボトルを掴むと

『え?』

手が抜けないという素振りを見せる

「そう言うのいいから」

『マジで本当だって見てみろよ!』
長谷川は涙目になっていた。

尋常でないものを感じた僕は
屈んで取り出し口を覗き込む。



何かいる

黒い空間の中に「それ」はいた
白く細長い体躯、穴ぼこだらけの顔
全身のバランスが崩れていて
なぜ立てているのか不思議なほどだ

そいつが長谷川の腕をガッチリと掴んでいる

顔らしいパーツなんて一つもないのに
こっちを見て笑ったのが分かった。

「縺昴▲縺。縺ォ縺?¥縺ュ」



『なんなんだよ本当に離せ!』
長谷川が叫んだ、その声で我に帰った俺は
彼の手を引っ張る

やっと外れたが長谷川は
腰が抜けて立てないようだ
長谷川をおぶると
全力で走りだす。

ここで一泊など無理だ。今すぐ帰らなければ
テントをそのままに、急いで車を出す。

気づくと長谷川の家に着いていた。
鍵を開けてからは記憶がない
どうやら寝てしまったようだ。

明日、病院に付き添いをした。
医者は怪訝そうな顔をしていたが
怪我は適切な処置をすれば大丈夫らしい。
でも元通りとはいかないそうだ。

一応神社にも行った。
住職曰く、それは霊では無いようで
時々こっちの世界に入ってくる物だという。
対処法はそいつが飽きるまで
待つしか無いらしい
勿論それまで無事ならだが。
彼の叔父さんとはまだ連絡がついていない。

住職の言った通り、時々隙間に「それ」
が見えることがあった。
精神的に来るものがあったが
二人で耐え続けた。

それから数年、俺も長谷川も無事に
生活している。俺は趣味のキャンプをやめ
長谷川はオカルトサークルをやめた。
手の後は未だに癒えていないらしいが
「それ」はもう見ていない。

だが二度と自販機で水は買えないだろう



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