再会

[本文章は2012年1月2日更新分の再録です。誤字脱字及び現代の価値観では相応しくないと思われる表現が含まれていますが、資料的価値を鑑みた結果修正を施すことなくそのまま掲載しております。なお、本文中でこのように角括弧で括られた部分は現時点 (2022年) における筆者からの注釈を表します。]


始まりから私事で大変恐縮なのですが、先日賢島に行ってまいりまして。ご存じないですか?三重県の端の方にあるリゾート地なんです。

ああ別に、ここから怖い話が始まるとかいうのじゃないですよ(笑)。ただひさびさに羽を伸ばしてきました、っていうだけの自慢記事です。[出典ははてなブログであることに留意。ユーザーID: fukusoba00 (本名: 福田豊) からの投稿。]

賢島はね、なんでも私が幼い頃両親と一緒に行ってたみたいで、本当に二歳か三歳ぐらいの時分ですから覚えちゃあいないんですけどね。初めての遠出って事もあって、小さかった私がそれはもう大層喜んだそうなんです。おふくろがそれを覚えてたみたいで、もう一度私を連れてってやろうということになったみたいで。今度は家族ぐるみで懇意にしている友人一家も連れて、大所帯で行ってまいりました。

あら?話していませんでしたっけ。3年ぐらい前かな、親父失踪しちゃったんですよ。私が生まれたときにはもう還暦近かったはずだから、かなりボケも進んでたんじゃないかなぁ......ええ、少し目を離した隙にどっか行っちゃったみたいです。老人の足ですからそう遠くには行ってないはずなんですけど、警察まで呼んでかなりの人数を割いて探したのにさっぱり見つからなかったと。そりゃ最初は家族全員で大慌てでしたけどねぇ。[2008年12月19日に茨城県警が福田徹氏の行方不明者届を受理したとの情報が確認されています。] 今はもうとっくに捜索は打ち切られて、おふくろもケロっとしてますよ。

で、そうそう。賢島の話ですね。あんまり雑な言葉で言いふらすのも憚られるんですが、その一緒に行った友人一家っていうのがなかなかのお金持ちでしてね。かなり高級なホテルを取ってくれてたんです。いや、もう寝耳に水ですよ。行きの車内でウチのおふくろが「そういえば宿って決まってるの?」なんて聞いたら、そのホテルを予約しといたよって向こうのお父さんが言ってくれて。

結局4日ぐらい滞在してたんですけど驚きっぱなしでしたね、ホントに。貧乏一家なもんですから、自分の寝る場所があんなに綺麗だっていう経験は後にも先にもこれだけだと思います。


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お読みになっている皆さんも、もし体をある程度動かせる状況なら試してみてください。両手の指を組んで、そのまま手のひらを上にして天高く伸ばすんです。ちょうど「のび」をするのと同じ感じで、長時間机に向かってて腕や肩が疲れたときによくやるヤツですよ。

その状態で顔を上に向けてみると、ちょうど頭上にある自分の手の甲や指が見えますよね。その辺りから来てくれたらしいです。


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怪談とか怖い話、ちょっと昔のインターネットだと「洒落怖」とか流行りましたよね。そういう類の話が好きな人ならピンと来ると思うんですけど、あの手のホラーでよく言われるのが「水まわりは霊の溜まり場」ですね。どういう理屈か分かんないけど、お風呂場とか洗面台とか、ああいうところって他に比べてオバケが寄ってきやすいんですよ。

いや、あの頃ウチはさっきも言ったようにドの付く貧乏でしたから、風呂場はなかったんです。僕が高校になる頃には引っ越してちゃんと風呂のある家に移り住んだんですが、それまでは毎日親と銭湯に行ってました。何十年も前ならまだしも、21世紀だしそれなりの都会だったのに、珍しい話ですよね。

まぁ金がないもんだから、パソコンとかも当然うちにはない訳です。なんだけど、学校でよく喋ってた友達の中に一人だけ自分専用のパソコンを持ってるやつがいて。あっても一家に一台って頃だから、かなり珍しかったですね。もちろん僕らからしたら最高のおもちゃですから、連日そいつの家に行ってみんなでパソコンのゲームをやってました。

ほんとに色々やったんですけど、一番よく遊んだのがあれですね、マインクラフト。今でこそ「世界で一番売れてるゲーム」なんて言われてますけど、当時はちょうど出たばっかりで。とくに目的もなくブロックを積んで何かを作っていくゲームっていうのは、すごく斬新に感じました。

そんな中で、遊んでた友達みんなで秘密基地を建てようってことになったんです。秘密基地といえば今も昔も子供たちにとって永久の憧れですけど、あんまり体を動かせる遊び場もなかった地域だったので、それをゲームの中に求めたのは今思えば当然の流れなんでしょうね。しかも現実と違って何をどれだけ作ろうが僕たちの勝手ですから、思い切って好きなだけ大きいのを建てよう、って流れになってきて。

なんたってみんなで共有する秘密基地ですからかなり色々相談したんですが、結局こういう風になったんです。まずすごく大きい建物を外枠だけ作って、内装を人数分の区画に分けたうえで、各々の生活スペースをその中に構築していこう、と。要するにゲームの中で集合住宅を作ろうとした訳ですね。

もちろんパソコンは一台しかないので、そこにいた全員が代わりばんこに操作して自分の家を作っていったんです。30分ぐらいするとようやく僕の番が回ってきて、学校で考えてノートに書き留めておいた設計図を見ながら自分なりの理想の家を作り始めました。

とはいっても、所詮は引っ越しも経験したことのないような子供の考える家ですから、自分の住んでいる家庭にかなり大きく影響されてたんですね。当時の宝物入れに設計図がまだ入っていて、こないだ久々に見返したんですが、部屋の配置はほぼ完全に一致していました。

ただ、実際自分の家に風呂がないっていうのは子供心にかなり不満だったみたいで、ゲームの中で作った家には立派な風呂場を備え付けたんです。ほとんど大浴場と言っていいでしょう。それも、ウチの親父とは当時かなり折り合いが悪かったんですけど、現実でその親父の部屋がある場所を代わりに風呂にするという形で。当時の僕にしてみたら、親への憂さ晴らしと念願の浴場建設を一挙に叶えた名案だったんでしょうね。僕のこだわりを全て詰め込んだお風呂はみんなに大人気で、すごく嬉しかったのをはっきりと覚えてます。

まだ親父の部屋から鏡を剥がせません。


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