結論から話させる装置
GWのある日、警察官をしている友人から電話が来た。「久しぶり。バーベキューをするんだけど、お前も来るよな? ということで、もうお前の家に向かってます。食材は買っておいたから。宜しく。」 ピッ
?
パトカーで向かってる?
意思表明のターンが与えられなかったけど、これは連行? 俺のこと、友達として誘ってくれてる? 大丈夫? 俺の家のこと「家」というより「家宅」と思ってない?
不安は募るばかりだが、ひとまず準備をすることにした。何を持っていこう。お金はどのくらい必要だろうか。食材はもう買ってあるらしいけど。食材は買ってある。買ってある?
?
肉 野菜を積んだパトカーで向かってる?
大丈夫? 職権濫用とか、もはやそういう段階にないけど。警察官になって二年、だったよね。公私混同をきわめた二年だった?もう引き返せないところまで来てるけど。
ピンポーンピンポンピンポン
もう着いたのか
おーいガンガンガンガンガン
え?
ガンガンガンガン開けてー
令状取られてる?
ガンガンガンガンガン
令状取ってないと出来ないことしてるけど
ガンガンガン
ガチャ
「パトカーで来た?」
「何言ってんの?」
...
マツダ CX-5に乗ってバーベキュー場に向かうと、既に友人たちが火を起こしていた。ぼーっと火を見ていると、また別の友人が恋人と一緒にやって来た。
彼女と会うのは初めてだったが、友人からこんな話を聞いていた。友人が彼女のいる場でエピソードトークを披露しようとしたことがあったらしい。オチで笑わせるために、段々と話を盛り上げていこう。友人はそう考えていたに違いない。
しかし、彼が話をしている最中に彼女がそれを遮った。そして、こう言ったそうだ。「結論から言ってもらえる?」
これは、恐ろしいことだ。結論から始めて、面白くなる話などある訳がない。あまりにも配慮に欠けている。友人は肝を冷やしただろう。
その話を聞いていただけに、私は戦慄した。彼女と同じ場にいることが、何を意味するかを悟った。すなわち私は、今日常に、結論から話し続けなければならない。結論から話させる装置が働くからである。
バーベキューが始まった。
肉が焼けたので、みんなに報告をする。
「結論から言うと、肉が焼けてます」
ありがとう、と言われる。タレがなくな〜い?みたいな話になる。
「結論から言うと、買ってきます」
タレを買って帰ると、友人の恋人が皮膚科の話をしていた。そこは、私が通っているのと同じ皮膚科だった。
「結論から言うと、同じ皮膚科です」
冷静に考えると、この結論は下さなくても良かっただろう。気持ち悪いからだ。なかなか遠くにある皮膚科だったので、思わず口走ってしまった。
そういえばと思って、肉を見る。あ、やってしまった。
「結論から言うと、かなり焦げてます」
え? みたいになる
「結論から言うと、俺が盛り上がりすぎました」
...
おうかさんは学生なの?と聞かれる。
「結論から言うと、そうです」
理系?
「結論から言うと、文系です」
へえ〜
将来何になりたいとかあるの?
「結論から言うと」
?
結論から言うと、何だ?
結論が言えない。結論が出ていない。まずい、結論を出さなくては。肉が焦げる。焦げてゆく。ついに、焦げた。
ああ、そうか。火にかかった肉は焦げていくのみ。私もまた同様である。私はまだ、自分の将来に関する結論を持っていない。じき二十二歳になる。そろそろ真剣に将来を見据えるべきだと、そういうことか。
結果として、彼女は結論から言わない私に対して怒らなかった。それどころか、私に将来に関する示唆まで与えてくれた。
彼女は、やさしく微笑んだ。肉は焦げていて、結論は出せていない。にも関わらず、微笑んだのだ。私は光に包まれる心地がした。
ああ、暖かい
結論なんてもう、どうだっていい
私は、とんでもない思い違いをしていたようだ
ああ
その時、警察官の友人が私の肩を何度も叩いた。おいおいおいおい肉焦げてんだけどガンガンガンガンガンガン 令状取られてる?
令状取ってないと出来ないことしてるけど
(終わり)
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