色を見ろ


私は身長が低めだ。163センチ。同級生の女子より低いなんてこともザラである。


幼い頃からチビと言われすぎていたし、一時期は「矯正ホクロチビデブ出っ歯」という、悪口のバラエティパックみたいなあだ名が付いていたこともある。


それとはまた別に、あだ名がアグー豚、イベリコ豚、黒豚など各種の豚を転々としていた歴史まであり、どうせなら全てコンプリートしたいという想いから自分で「こういう豚はどうかな?」と提案したこともあった。しかし、世の中に豚は多すぎる。挫折した。


21歳にもなると、友達から容姿をいじられなくなる。これはとても良いことだ。まるで自分が平均的な身長の持ち主であるかのように思えてくる。そういう風に思えると、幸せだ。とても気分が良い。


だから


だから、登校中の小学生に交じって横断歩道を渡っていると交通安全のおばさんに「いってらっしゃ〜い」と手を振られる、みたいな出来事はもういい。もうやめてくれ。気付かせないでくれ。


160センチある小学生、そう珍しくはないんだろう。分かるよ。小六の頃、バスケ部の友達はそのくらいあったし。でも思い出して欲しい。ランドセル背負ってた?俺。ランドセル背負ってないよね。俺だけ。ランドセル背負ってないなら、リスクあるよね?小学生じゃないリスク。


手まで振るってことは「かなり小学生」という認識をしてたってことだよね。「これが小学生じゃないなら誰が小学生なんだ」という、半ば開き直りみたいな認識までしてたわけだよね。残念。先月21歳になりました。


そもそもさ、GU着る?小学生ってGU着るかな?着るの?分からないけど。五千円くらいで買った、青とも緑とも取れるような色の上着、着るかな?着なくない?小学生は複雑な色の上着を着なくない?はっきりとした青とかはっきりとした緑しか着なくないですか?「これ買って〜!」の指が複雑な色を指してることある?ないだろ。あるわけがない。


何より腑に落ちないのが表情だ。身長や洋服についての評価は甘んじて受け入れよう。だが、表情は受け入れられない。私は21歳。小学生は最高でも12歳だ。あまりにも経験の量が違う。


俺だけ威風堂々としてませんでしたか?歩くというより闊歩、という感じじゃありませんでした?彼女にフラれて号泣しながらエレカシのファイティングマン聴いた事あるの、あの横断歩道で俺だけだったと思いますけど、そういう経験の差が表情に現れてませんでした?


小学生が無地のマフラーをつけるかな?無地のグレー。小学生はもっぱらネックウォーマーじゃない?派手めの。小学生が下を向きながら歩くかな?小学生はもっぱら上じゃない?空の青さにのみ、関心があるんじゃない?路上のガムを気にするかな。


さすがに交通安全のおばさんが初見で容姿をいじってきたとは思えないし、仮にそうだとしたら、そいつのせいでゆるやかに栃木は終わっていくんだと思う。でも、至って普通の人だったし、笑顔は晴れやかだった。


だからこそ、私は現実を突きつけられる。いじりでも冗談でもなく、小学生と間違えられたという事実。そういった「突きつけ」はしばしば起こる。そば屋で子供にだけ配ってる棒付き飴を貰った。保険屋のおばさんに「あら〜中学生?」と言われた。そういう悪意のない言葉が何よりも雄弁に真実を語っている。


いいですか皆さん。小学生?と思ったら中学生?と聞いた方がいいし、中学生?と思ったら高校生?と聞いた方がいいし、ランドセルを背負ってない小学生?と思ったらランドセルを背負ってない小学生!?と思った方がいい。基本的には、どの小学生もランドセルを背負っています。


もしかしたら、これから皆さんとすれ違うことがあるかもしれない。栃木に旅行に来るかもしれない。そりゃあもちろん栃木は旅行に来るほどの県ではなくて、そのお金で良いカメラとかを買った方が絶対に良いにしても、もし気の迷いから来ることがあったら、私とすれ違うかもしれない。


子供っぽいなと思ったら、服の色を見てください。「これ現状の知識じゃ何色とも言えないな」と思ったら、それが私です。子供には絶対に選べない色です。それが大人の証だから。いいですね。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?