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生きるための映画リスト List of Films to Keep Alive (2023/11-2024/4)

「なぜ映画を観るのですか?」

カウンセラーからのふいの質問に、ぎゅっと喉の奥がつぶれた。

「人間を、理解するために観ています」

やっと絞り出した声は思ったより震えて、涙がこぼれたのに自分でも驚いた。

子どもの頃からずっと、人間も、この世界も理解できなかった。

決められた幸せや喜び、差別、暴力、破壊。あたりまえのように繰り返されるすべてが、どうして繰り返されるのか、何ひとつ解らない。理解ができない世界では、存在している実感が無かった。

納得するために、ひとつひとつ指差ししてその理由を確認する日々は自分を疲弊させて、いつしか歩くことも話すこともままならなくなっていた。

そうして、勇気を出して通いはじめたカウンセリングはその日2回目を迎えて、唯一好きだと言える映画鑑賞について聞かれたのだった。

毎月10〜20本の映画を観ている。

映画は、異なる価値観の社会で生きる自分以外の視点を得ることができるから好きだ。見える "世界" がひとつではないことに気付く。

それぞれに見える世界がさして美しくも素晴らしくもなく、だから美しく素晴らしいのだということを確認しては、安堵する。それが生きる理由になっている。

カウンセリングで咄嗟に出た答えには驚いたけれど、自分は人間を理解するために映画を観ているのか?それが真実かは、まだ分からない。

だから月2回、新月と満月の夜に、抱きとめている映画を広げて、並べて確かめてみようと思った。

今日の満月までは、この12本。


1. 霧の中のハリネズミ 1975年(Yozhik v tumane)

「アート・アニメーションの神様」として世界中のアニメーターたちから尊敬されるロシア人アニメーター、ユーリー・ノルシュテイン監督の代表作で、児童文学作家セルゲイ・コーズロフによる物語を映像化した短編アニメ。ハリネズミのヨージックは、友だちの子グマの家でお茶を飲みながら星を数えるため、夕暮れの野原を急ぎ足で歩いていた。しかしいつの間にか周囲に霧が立ちこめ、ヨージックは様々な体験をする。ノルシュテイン監督と撮影監督アレクサンドル・ジュコフスキーが本作のために新たに制作した大型撮影台「マルチプレーン」を用い、多層のガラス面に切り絵を配置する独自の手法で描いた。2016年12月、ノルシュテイン監督の代表作6作品を集めた「アニメーションの神様、その美しき世界」にて、高画質・高音質でよみがえらせたデジタルリマスター版が上映。別邦題「霧につつまれたハリネズミ」。

https://eiga.com/movie/76386/

2. トリコロール/青の愛 1993年(Trois couleurs: Bleu)

ポーランドの巨匠クシシュトフ・キエシロフスキー監督による、青、白、赤のフランス国旗をモチーフにした三部作「トリコロール」の第1作。自動車事故で最愛の夫と娘を失ったジュリーは、すべてを引き払いパリでの生活を始める。静かな日々を過ごすジュリーは、音楽家であった亡き夫に愛人がいたことを知る。ジュリーを演じるのは、「イングリッシュ・ペイシェント」「ショコラ」のジュリエット・ビノシュ。

https://eiga.com/movie/21401/

3. たぶん悪魔が 1977年(Le diable probablement)

「ラルジャン」「抵抗(レジスタンス) 死刑囚の手記より」などで知られるフランスのロベール・ブレッソン監督が1977年に手がけ、環境破壊が進み社会通念が激変した当時の情勢を背景に、ニュース映像などを交えながらひとりの若者の死を見つめたドラマ。裕福な家柄に生まれた美貌の青年シャルルは、自殺願望にとり憑かれている。政治集会や教会の討論会に参加しても、違和感を抱くだけで何も変わらない。環境破壊を危惧する生態学者の友人ミシェルや、シャルルに寄り添う2人の女性アルベルトとエドヴィージュと一緒に過ごしても、死への誘惑を断ち切ることはできない。やがて冤罪で警察に連行されたシャルルは、さらなる虚無にさいなまれていく。1977年・第27回ベルリン国際映画祭で銀熊賞(審査員特別賞)を受賞。

https://eiga.com/movie/96367/

4. アカルイミライ 2002年

「CURE」「カリスマ」など話題作が続く黒沢清監督の「回路」(00)以来2年振りの新作。TV「サトラレ」などで人気のオダギリジョー、浅野忠信、藤竜也の3人が初共演。工場で働く雄二が、唯一心を許せる存在は同僚の守だけ。しかし、守はある日、大切に育てていたクラゲを雄二に残して、突然、姿を消す。呆然とする雄二の前に、守の父親が現れ、雄二は彼とともに暮らすようになる。

https://eiga.com/movie/1310/

5. 秘密の花園 1993年(The Secret Garden)

両親を失った孤独な少女が、封印されていた花園を蘇生させ、周囲の人々と共に生きる喜びを取り戻していく姿を描いたヒューマン・ファンタジー。監督は「僕を愛したふたつの国 ヨーロッパ・ヨーロッパ」のアニエシュカ・ホランド。製作はフレッド・フックス、フレッド・ルース、トム・ラディの共同。エグゼクティヴ・プロデューサーは「ドラキュラ(1992)」の監督、フランシス・フォード・コッポラ。「小公子」「小公女」で世界的に有名な児童文学作家フランセス・ホジスン・バーネットの同名小説をもとに、「アダムス・ファミリー」のキャロライン・トンプソンが脚本を執筆。撮影は「バートン・フィンク」のロジャー・ディーキンス。音楽はズビグニエフ・プレイスネルが担当。主演は米英両国で行われたオーディションで選ばれた3人の子役たちイギリスのテレビドラマに出演していたケイト・メイバリー、イギリスの劇団に所属し舞台やテレビで活躍していたアンドリュー・ノット、まったく演技の経験が無かったヘイドン・プラウズ。他に「天使にラブ・ソングを…」のマギー・スミス、「キャル」のジョン・リンチらが共演。

https://eiga.com/movie/48429/

6. マイライフ・アズ・ア・ドッグ 1985年(Mitt liv som hund)

人々との出会いや別れに戸惑いながらも成長していく少年の姿を描いた、心温まるヒューマンドラマ。1950年代末のスウェーデン。海辺の小さな町に住む12歳の少年イングラムは、病気の母親の元を離れ、叔父が暮らす田舎の村へ行くことになった。個性的な村人たちに囲まれて過ごす楽しい日々。しかし、そんな彼の上にも現実は重くのしかかる……。スウェーデンの名匠ラッセ・ハルストレム監督の名を、一躍世界に知らしめた傑作。

https://eiga.com/movie/28434/

7. 狩人の夜 1955年(The Night of the Hunter)

ある狂信者に命をつけ狙われる幼い兄妹の恐怖を描くサスペンス映画。製作はポール・グレゴリー、監督はチャールズ・ロートン。デイヴィス・グラブの原作を基に、脚本はジェームズ・エイジー、撮影はスタンリー・コルデス、音楽はウォルター・シューマンが担当。出演はロバート・ミッチャム、リリアン・ギッシュほか。

https://eiga.com/movie/43467/

8. ROMA ローマ 2018年(Roma)

「ゼロ・グラビティ」のアルフォンソ・キュアロン監督が、政治的混乱に揺れる1970年代メキシコを舞台に、とある中産階級の家庭に訪れる激動の1年を、若い家政婦の視点から描いたNetflixオリジナルのヒューマンドラマ。キュアロン監督が脚本・撮影も手がけ、自身の幼少期の体験を交えながら、心揺さぶる家族の愛の物語を美しいモノクロ映像で紡ぎ出した。70年代初頭のメキシコシティ。医者の夫アントニオと妻ソフィア、彼らの4人の子どもたちと祖母が暮らす中産階級の家で家政婦として働く若い女性クレオは、子どもたちの世話や家事に追われる日々を送っていた。そんな中、クレオは同僚の恋人の従兄弟である青年フェルミンと恋に落ちる。一方、アントニオは長期の海外出張へ行くことになり……。2018年・第75回ベネチア国際映画祭コンペティション部門で、最高賞にあたる金獅子賞を受賞。第91回アカデミー賞でも作品賞を含む同年度最多タイの10部門でノミネートされ、外国語映画賞、監督賞、撮影賞を受賞した。Netflixで18年12月14日から配信。日本では19年3月9日から劇場公開される。

https://eiga.com/movie/89560/

9. 時代革命 2021年(Revolution of Our Times)

2019年に香港で起きた民主化デモの様子を捉えたドキュメンタリー。
2019年、中国当局の締め付けによって自由が失われゆく香港で、民主化を求める大規模デモが起きた。発端となったのは、犯罪容疑者の中国本土引き渡しを可能にする「逃亡犯条例改正案」が立法会に提出されたことで、参加者たちは同案の完全撤回や普通選挙の導入などを5大要求として掲げ、6月16日には香港の人口の約3割を占める約200万人にまで参加者数が膨れ上がったという。警察との衝突が激しさを増していく最前線の様子を中心に、リーダー不在ながらもSNSを駆使して機動的に統制されていた実態や、立法会、地下鉄駅、香港中文大学、香港理工大学など各地のデモの様子を約180日間にわたって記録し、大きな運動のうねりを多面的に描き出す。

https://eiga.com/movie/97300/

10. オーケストラ・リハーサル 1979年(Prova D'Orchestra)

ある寺院の礼拝堂を舞台に、そこでの演奏のために集まって来た音楽家たちのリハーサル風景をドキュメンタリー・タッチで描く。監督・脚本インタビュアーは「フェリーニの道化師」のフェデリコ・フェリーニ、共同脚本はブルネロ・ロンディ、撮影はジュゼッペ・ロトゥンノ、音楽はニーノ・ロータ、編集はルッジェーロ・マストロヤンニ、美術はダンテ・フェレッティが各々担当。出演はボールドウィン・バース、クララ・コロシーモ、エリザベス・ラビ、ロナルド・ボナッキ、フェルディナンド・ヴィレッラ、ジョヴァンニ・ジャヴァローネ、デイヴィッド・モーゼル、フランチェスコ・アルイージ、アンディー・ミラー、シビル・モステールなど。

https://eiga.com/movie/42958/

11. 遊星からの物体X 1982年(The Thing)

「ハロウィン」「ニューヨーク1997」などで知られるジョン・カーペンター監督が、ハワード・ホークス製作の古典的名作「遊星よりの物体X」をリメイクしたSFホラー。極寒の南極観測基地という閉ざされた空間を舞台に、宇宙から飛来した生命体に襲われる観測隊員たちの恐怖を描いた。南極の大雪原。一匹の犬がアメリカの観測隊基地に現れるが、犬の正体は10万年前に宇宙から飛来し、氷の下で眠っていた生命体だった。生命体は接触した生物に同化する能力をもっており、次々と観測隊員に姿を変えていく。このままでは、およそ2万7000時間で地球上の全人類が同化されるということがわかり、基地は通信手段、交通手段を断って孤立。そんな状況下で、隊員たちは次第に相手が生命体に同化されているのではないかと疑心暗鬼に包まれていく。2018年10月にデジタルリマスター版でリバイバル公開。

https://eiga.com/movie/30673/

12. キッチン・ストーリー 2002年(Salmer fra kjokkenet)

50年代にスウェーデンで実際に行われたという“独身男性の台所での行動パターン調査”をヒントに、調査員と調査対象者となった2人の中年男性の交流をユーモラスに綴ったコメディ。監督は、「卵の番人」のベント・ハーメル。

https://eiga.com/movie/52195/

こうやって並べていくうちに、点と点が結ばれて、星座が現れるように自分や世界を理解できるときがくるかもしれない。

このリストがどこかの誰かの夜道を照らす星になるかもしれない。

そう願っている。

※感情を揺さぶり、痛みをともなう映画を多く選んでいます。鑑賞の際は、口コミなどを参考に、自身の経験や記憶、体調と相談の上でご覧ください。



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