「なぜ映画を観るのですか?」
カウンセラーからのふいの質問に、ぎゅっと喉の奥がつぶれた。
「人間を、理解するために観ています」
やっと絞り出した声は思ったより震えて、涙がこぼれたのに自分でも驚いた。
子どもの頃からずっと、人間も、この世界も理解できなかった。
決められた幸せや喜び、差別、暴力、破壊。あたりまえのように繰り返されるすべてが、どうして繰り返されるのか、何ひとつ解らない。理解ができない世界では、存在している実感が無かった。
納得するために、ひとつひとつ指差ししてその理由を確認する日々は自分を疲弊させて、いつしか歩くことも話すこともままならなくなっていた。
そうして、勇気を出して通いはじめたカウンセリングはその日2回目を迎えて、唯一好きだと言える映画鑑賞について聞かれたのだった。
毎月10〜20本の映画を観ている。
映画は、異なる価値観の社会で生きる自分以外の視点を得ることができるから好きだ。見える "世界" がひとつではないことに気付く。
それぞれに見える世界がさして美しくも素晴らしくもなく、だから美しく素晴らしいのだということを確認しては、安堵する。それが生きる理由になっている。
カウンセリングで咄嗟に出た答えには驚いたけれど、自分は人間を理解するために映画を観ているのか?それが真実かは、まだ分からない。
だから月2回、新月と満月の夜に、抱きとめている映画を広げて、並べて確かめてみようと思った。
今日の満月までは、この12本。
1. 霧の中のハリネズミ 1975年(Yozhik v tumane)
2. トリコロール/青の愛 1993年(Trois couleurs: Bleu)
3. たぶん悪魔が 1977年(Le diable probablement)
4. アカルイミライ 2002年
5. 秘密の花園 1993年(The Secret Garden)
6. マイライフ・アズ・ア・ドッグ 1985年(Mitt liv som hund)
7. 狩人の夜 1955年(The Night of the Hunter)
8. ROMA ローマ 2018年(Roma)
9. 時代革命 2021年(Revolution of Our Times)
10. オーケストラ・リハーサル 1979年(Prova D'Orchestra)
11. 遊星からの物体X 1982年(The Thing)
12. キッチン・ストーリー 2002年(Salmer fra kjokkenet)
こうやって並べていくうちに、点と点が結ばれて、星座が現れるように自分や世界を理解できるときがくるかもしれない。
このリストがどこかの誰かの夜道を照らす星になるかもしれない。
そう願っている。
※感情を揺さぶり、痛みをともなう映画を多く選んでいます。鑑賞の際は、口コミなどを参考に、自身の経験や記憶、体調と相談の上でご覧ください。