飲み食いはイベントではないよね。(141030)

 僕は、美味しいものは好きだけど、食べ歩きは別に趣味じゃないんだよな。 出向いた先で適当に、気に食わない条件が一番少なさそうな店に入って、ぱっと見で自分の気に入るもの注文して、静かに飲み食いしてるだけなんだ。 飲み食いに一番大事なのは妥協だからさ。ハードルと腰は出来るだけ低く。
 自分の味覚と付き合って30年超えたら、気に入りそうな店は選びやすいね。店の雰囲気や客筋で客単価もなんとなくわかるしさ。自分がこの街に住んでたら毎日来ても良いかどうか…っていうのを判断基準にすれば、なんとなく行くべき店にたどり着くと思ってるよ。女性がグループで来てる店は基本ダメね。
 女性のグループ客は冷えた白ワインと、白身魚のカルパッチョにパセリとチョップドトマトを綺麗に散らしたものを必ず頼むんだ。 で、市販価格2,000円/本未満のがぶ飲みワインしか置いて無いのに「おすすめどれですか?」なんて馬鹿な質問を、雰囲気に惹かれてバイトしてるだけの若者に訊くんだ。
 バイトも、先輩から聞いた定型句で返すんだよな。 「白身には白がおすすめですが、お肉やグラタンなど重たいものも食べられるなら、赤ワインでしょうか。」 安ワインでマリアージュ気にすなボケ!どれもそない変るか!ラベルで選んでボトルで注文してガブガブ飲め! みたいな偏見をね。持ってるよ。

 全部、これまで出会ったケースを誇張して拡大解釈して避けてるだけなんだけどね。そういう女性に対する偏見で世間を眺めています。 まあ、極端な言い方してみたけど、外での飲み食いを日常生活からちょっとはみ出すイベントとして捉えてる人と、生活の延長として捉えてる人とでは大分行動が違うよね。
 飲食=イベントの人ってのは、フレンチでのコースも、老舗の洋食も、インド料理も日本料理も大衆酒場もパフェもパンケーキも、『80日間世界一周』の如く、主人公面して過ごすんだよな。 そこにおいて、店のスタッフはパスパルトゥーなんだよ。命懸けで”私”に尽くしてくれる万能の執事なんだよな。
 僕が酒場で一番憎むのは、大衆酒場に来て常連の爺さん連中にいきなり話しかけ、「良い顔してますねー」なんて言いながら至近距離で一眼レフで写真バシバシ撮る女なんだけどさ。 あいつら、”奇っ怪な原住民の住居”ならマナーも知らず土足で踏み込んでも、何も問題なし!って厚顔の持ち主だからなあ。
 爺さん方は別に、手前の素敵な標本採集の対象となるために飲みに来てるんじゃないんだよ。静かで幸せな時間を過ごす為に酒場に来てるんだよ。 他人の領域に厚かましく踏み込み、時間を奪い、あまつさえ肖像権も侵害し、恥じる事なし。 これ、相手を人間扱いしてないんだよ。極端な言い方しちゃうと。
 レストランでさ。「1万円程度で飲みやすいワインを選んで下さい」ってソムリエに頼むその口で、隣のテーブルで静かに食事してる老夫妻に「素敵ですね、写真撮りますね」って言う?言わないでしょ? だからさ。「生きた野蛮人の標本だー!」ってなもんなんだよ。舐めてるんだよ。だから写真が撮れる。
 飲食=イベントの人でも、程度の良い店なら客筋に合わせて大人しく過ごすんだよ。それは、「素敵なお店で素敵に過ごす私素敵」ってな具合のイベントだから、そこで野蛮に振る舞うのは、己の信奉する『素敵さ』に反するんだよな。 だから、大人しくしてるだけなんだよなあ、あいつら。
 だから、客筋が悪い(と奴らが勝手に判断してるだけで、世間のアベレージよりよっぽど上等な客が集まる)大衆酒場に観光気分でやってきたら、歓喜の叫びを上げながら、「私先進国から来ました!皆さん未開社会の素朴人で素敵ですね!」なんて叫ぶんだよ。 あいつら、本当に野蛮人だよなあ。嫌になる。

 このままだと、膨らみ切った妄想に駆られてどこまでも続きそうなので、ひとまずの結論として。 どんな種類の店でも、お客さんは同じ人間だし、店員さんは使用人じゃなくお金の代わりにサービスを提供してくれてる対等な存在なので、それを忘れて場を荒らして平気な人を見ると、憤りを覚えちゃうよね。
 ”あなた”(どなた?)はイベントで来てるつもりで、周りも同じモードで臨んでると思い込んでるかも知れないけれど、もしかしたら隣の人はそうじゃないかもよ。日常の延長で静かにささやかに楽しんでる人かもよ。貸し切り出来る金がないなら、周り見て楽しもうね。 という凡庸なモラルへの着地です。

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