関税率表 第29類総説

第 29 類 有 機 化 学 品

 この類には、この類の注1に定めるものを除き、原則として、化学的に単一の化合物を分類する。
(A)化学的に単一の化合物(類注1)
 化学的に単一の化合物は、例えば共有結合又はイオン結合した一つの分子種から成る物質で、組成は一定の元素比率で定義され、特定の構造図で表される(結晶格子は、単位格子の繰返しで表される。)。
 製造(精製を含む。)の際又は製造(精製を含む。)の後に、ある目的を持って加えられた他の物質を含有する化学的に単一の化合物は、この項から除外される。したがって、サッカリンに乳糖を加え、甘味料として使用するために特に適するようにした物品は、この類から除かれる(29.25項参照)。
 この類の化学的に単一の化合物は、不純物を含有していてもよい(この類注1(a)参照)。しかし、29.40 項の糖類は、「化学的に純粋なものに限る。」旨、項の規定において限定しているので、この規定の唯一の例外となっている。
 不純物とは、一の化学化合物の製造(精製を含む。)工程に関連して、専ら、かつ、直接に生ずる物質のみをいう。これらの不純物は、その工程に伴う種々の要因から生じるもので、主な不純物は、次のものである
(a)出発原料のうち、未反応のもの
(b)出発原料中に存在した不純物
(c)製造(精製を含む。)工程で使用された試薬
(d)副産物 ただし、このような物質があらゆる場合に、注1(a)に基づく不純物としてみなされるとは限らないので注意すること。特定の用途に適するように、このような物質が製造された物品中に意図的に残された場合には、この類の注1(a)で許容された不純物とはみなされない。例えば、
酢酸メチルに、その溶剤としての性質を改善するため、意識的にメタノールが残されている場合には、この類から除かれる(38.14)。ある種の化合物(例えば、エタン、ベンゼン、フェノール及びピリジン)には特別の純度基準があり、解説 29.01、29.02、29.07 及び 29.33 に示してある。
この類の化学的に単一の化合物は、水溶液にされたものを含む。また、この解説の 28 類総説に記載されている限定と同様の限定にしたがって、水以外の溶媒に溶かしたもの並びに安定剤、アンチダスティング剤又は着色剤を添加したもの及びその溶液もこの類に含む。例えば、スチレンは、重合防止剤として第三ブチルカテコールが加えられていても 29.02 項に分類する。安定剤、アンチダスティング剤又は着色剤の添加に関する 28 類の総説の規定は、この類の化合物についても準用する。これらの化合物は着色剤に関して規定されている限定と同様の限定のもとに、香気性物質を加えたもの(例えば、29.03 のブロモメタンに少量のクロロピクリンを加えたもの)を含む。
この類には、更に、同一の有機化合物の異性体の混合物(不純物を含有するかしないかを問わない。)を含む。この規定は同一の官能基を有する化合物の混合物で、かつ、当該異性体が、自然状態で共存している場合又は同じ合成の過程で同時に得られる場合に限り適用する。ただし、飽和又は不飽和の非環式炭化水素の異性体の混合物(立体異性体の混合物を除く。)はこの類に含まない(27 類)。

(B)28 類の化合物と 29 類の化合物との区別
 貴金属、放射性の元素、同位元素、希土類元素、イットリウム又はスカンジウムの有機化合物及び 28 類総説(B)に掲げられた炭素を含む他の化合物は、29 類から除外される(6部注1及び 28 類注2参照)。
28 類の注2に掲げられているもの以外のオルガノインオルガニック化合物は 29 類に属する。

(C)化学的に単一の化合物ではないがこの類に含まれる物品
 29 類は化学的に単一の化合物に限るという原則には例外がある。これらの例外には次の物品を含む。
29.09-ケトンペルオキシド
29.12-アルデヒドの環式重合体及びパラホルムアルデヒド
29.19-ラクトホスフェート
29.23-レシチンその他のホスホアミノリピド
29.34-核酸及びその塩
29.36-プロビタミン及びビタミン(コンセントレート及び相互の混合物を含む。)(溶媒に溶かしてあるかないかを問わない。)
29.37-ホルモン
29.38-グリコシド及びその誘導体
29.39-植物アルカロイド及びその誘導体
29.40-糖エーテル、糖アセタール及び糖エステル並びにこれらの塩
29.41-抗生物質
 この類には、また、ジアゾニウム塩(解説 29.27(A)参照)及びそのカップリング成分並びにジアゾ化し得るアミン及びその塩のうち、中性塩等で希釈して標準的な濃度にしたものも含む。
これらはアゾ染料生成用のもので、固体又は液状のものがある。
 更に、この類には、29.36 項から 29.39 項及び 29.41 項の物品のペグ(ポリエチレングリコール(PEG)ポリマー)化誘導体も含む。これらの物品のペグ化誘導体は、ペグ化していないものと同一の項に属する。
 ただし、29 類の他のすべての項の物品のペグ化誘導体は、この類から除かれる(一般に 39.07)。

(D)化学的に単一の有機化合物でこの類から除かれるもの(類注2)
(1)ある種の化学的に単一の有機化合物は、たとえ、純粋であっても、常に 29 類から除かれる。
 この種のものには、例えば、次のような化合物がある(28 類に属するものは 28 類解説(B)参照)。
(a)しょ糖(17.01)並びに乳糖、麦芽糖、ぶどう糖及び果糖(17.02)
(b)エチルアルコール(22.07 又は 22.08)
(c)メタン及びプロパン(27.11)
(d)免疫産品(30.02)
(e)尿素(31.02 又は 31.05)
(f)植物性又は動物性の着色料(例えば、クロロフィル)(32.03)
(g)有機合成着色料(顔料色素を含む。)及び有機合成蛍光増色剤(例えば、ある種のスチルベン誘導体)(32.04)
(2)その他ある種の化学的に単一の有機化学品はある形状にし、又はその化学組成を変えないが、ある処理を行ったため、29 類から除かれる場合がある(その他の場合は、29 類に属する。)。
 例えば、次の物品がある。
(a)治療用又は予防用に使用する物品で、投与量にし、又は小売用の形状若しくは包装にしたもの(30.04)
(b)蛍光を発するように処理されていてルミノホアとして使用される物品(例えば、サリチルアルダジン)(32.04)
(c)小売用の形状又は包装にした染料その他の着色料(32.12)
(d)小売用の包装にした調製香料及び化粧品類(例えば、アセトン)(33.03 から 33.07)
(e)膠(こう)着剤又は接着剤として小売用に包装したもので正味の重量が1キログラム以下のもの(35.06)
(f)燃料に使用するための形状にした固体燃料(例えば、メタアルデヒド及びヘキサメチレンテトラミン)及びたばこ用ライターその他これに類するライターの充てん用の液体燃料及び液化燃料(例えば、液状ブタン)(容量が 300 立方センチメートル以下の容器入りにしたものに限る。)(36.06) (g)ハイドロキノンその他の写真用の混合してない物品(使用量に小分けしたもの及び小売用のもので直ちに写真用に使用可能な形状のものに限る。)(37.07)
(h)38.08 項に掲げる形状又は包装にした消毒剤、殺虫剤等
(ij)消火器用の装てん物にし又は消火弾にした消火剤(例えば、四塩化炭素)(38.13)
(k)小売容器入りのインキ消し(例えば、29.35 項のクロラミンを水に溶かしたもの)(38.24)
(l)光学用品(例えば、酒石酸エチレンジアミン)(90.01)

(E)この類の二以上の項に属するとみられる物品の分類(類注3)
 これらの物品は、該当するとみられる項のうち数字上の配列において最後となる項に属する。
 例えば、アスコルビン酸は、ラクトン(29.32)ともビタミン(29.36)とも認め得るが、これは29.36 項に属する。同様な理由により、アリルエストレノールは、環式アルコール(29.06)であると同時に、変性してないゴナン構造をもつステロイドで、主としてホルモン作用を利用するもの(29.37)であるので、29.37 項に属する。
 ただし、29.40 項の後段の規定では特に 29.37 項、29.38 項及び 29.39 項の物品を除いているので注意しなければならない。

(F)ハロゲン化誘導体、スルホン化誘導体、ニトロ化誘導体、ニトロソ化誘導体及びこれらの複合誘導体の分類(類注4)
 この項のある項には、ハロゲン化誘導体、スルホン化誘導体、ニトロ化誘導体及びニトロソ化誘導体が掲げられているが、その場合はこれらの複合誘導体(例えば、スルホハロゲン化誘導体、ニトロハロゲン化誘導体、ニトロスルホン化誘導体、ニトロスルホハロゲン化誘導体等)も含む。
 ニトロ基及びニトロソ基は 29.29 項の窒素官能基とみなさない。
 ハロゲン化誘導体、スルホン化誘導体、ニトロ化誘導体及びニトロソ化誘導体は、母体化合物の1個以上の水素原子を1個以上のハロゲン、スルホン基(-SO 3 H)、ニトロ基(-NO 2 )又はニトロソ基(-NO)で置換したもの及びこれらの複合誘導体である。所属を決定するために考慮すべき官能基(例えば、アルデヒド、カルボン酸、アミン)は、これらの誘導体中にそのまま残っていなければならない。

(G)エステル、塩、配位化合物及びあるハロゲン化物の分類(類注5)
(1)エステル
 1節から7節までの酸官能有機化合物とこれらの節の有機化合物とのエステルは、これを構成する酸官能有機化合物又は有機化合物が属する項のうち数字上の配列において最後となる項に属する。
(例)
(a)酢酸ジエチレングリコール(29.15 項の酢酸と 29.09 項のジエチレングリコールとの反応によって生成するエステル)…………………………………………………29.15
(b)ベンゼンスルホン酸メチル(29.04 項のベンゼンスルホン酸と 29.05 項のメチルアルコールとの反応によって生成するエステル)……………………………………29.05
(c)フタル酸水素ブチル(1つの COOH 基の H が置換したポリカルボン酸のエステル)
………………………………………………………………………………………………29.17
(d)ブチルフタリルブチルグリコレート(29.17 項のフタル酸及び 29.18 項のグリコール酸と 29.05 項のブチルアルコールとの反応によって生成するエステル)……29.18
 この原則は、酸官能有機化合物とエチルアルコールとから成るエステルには、エチルアルコールがこの類に分類されないので適用されず、このようなエステルは、これを構成する酸官能有機化合物が属する項に属する。
(例)
酢酸エチル(29.15 項の酢酸とエチルアルコールとの反応によって生成するエステル)
……………………………………………………………………………………………29.15
 なお、糖エステル及びその塩は 29.40 項に属するので注意しなければならない。
(2)塩
 次に掲げる塩は、第6部の注1又は 28 類の注2に規定する物品を除き、それぞれ次に定めるところによりその所属を決定する。
(a)第1節から第 10 節まで又は 29.42 項の酸官能化合物、フェノール官能化合物、エノール官能化合物、有機塩基、その他の有機化合物の無機塩は、これを構成する有機化合物が属する項に属する。
 これらの塩は、以下の反応によって生成する。
(ⅰ)酸官能有機化合物、フェノール官能有機化合物又はエノール官能有機化合物と無機塩基との反応によって生成する塩
(例)
メトキシ安息香酸ナトリウム(29.18 項のメトキシ安息香酸と水酸化ナトリウムとの反応によって生成する塩)……………………………………………………29.18
 このカテゴリーの塩は、また、上述の酸エステルと無機塩基との反応によっても生成する。
(例)
フタル酸n-ブチル銅(29.17 項のフタル酸水素ブチルと水酸化銅との反応によって生成する塩)……………………………………………………………………29.17
(ⅱ)有機塩基と無機酸との反応によって生成する塩
(例)
ジエチルアミン塩酸塩(29.21 項のジエチルアミンと 28.06 項の塩酸との反応によって生成する塩)…………………………………………………………………29.21
(b)第1節から第 10 節まで又は 29.42 項の有機化合物の相互間の塩は、これを構成する塩基又は酸(フェノール官能化合物及びエノール官能化合物を含む。)が属する項のうち数字上の配列において最後となる項に属する。
(例)
(ⅰ)酢酸アニリン(29.15 項の酢酸と 29.21 項のアニリンとの反応によって生成する塩)………………………………………………………………………………29.21
(ⅱ)フェノキシ酢酸メチルアミン(29.21 項のメチルアミンと 29.18 項のフェノキシ酢酸との反応によって生成する塩)…………………………………………29.21
(3)配位化合物
 金属の配位化合物は、一般に、荷電しているか否かを問わず、すべての種類のものを含む。
 配位化合物中で、金属原子は一つ以上の配位子からなる数個の原子(一般に2から9原子)と結合している。金属及び原子団の結合により形成される骨格構造及び金属が結合する数は、一般に金属により特徴づけられる。
 配位化合物は、第 11 節又は第 29.41 項に属するものを除き、金属と炭素の間の結合を除くすべての金属の結合の開裂により生じる断片(分類上実在する化合物とみなす。)を考慮し、断片が属する項のうち、第 29 類の数字上の配列において最後となる項に属する。
 この類の注5(C)(3)において、「断片」とは、配位子及び開裂により生じる部分(金属-炭素結合を含む)を含む。
例えば、
トリしゅう酸鉄(Ⅲ)カリウムは、金属結合を開裂して生じる断片であるしゅう酸の属する項(29.17)に分類される。 

 フェロクロリネート(INN)は、数字上の配列により最後となる項のコリンが含まれる項(29.23)に分類され、分類上考慮されるその他の断片であるくえん酸の項には分類されない。

 ブドチタン(INN)は、金属結合の開裂によりエチルアルコール(22 類)及び 29.14 項のベンゾイルアセトン(及びそのエノール官能基)の2つの断片が生じる。したがって、ブドチタン(INN)は、29.14 項に分類される。

(4)カルボン酸のハロゲン化物
 このようなハロゲン化物は、これを構成するカルボン酸が属する項に属する。例えば、塩化イソブチリルは、これに対応するイソ酪酸と同じく 29.15 項に属する。

(H)29.32 項から 29.34 項までの分類(類注7)
 29.32 項から 29.34 項までには、エポキシドで三員環のもの、ケトンペルオキシド、アルデヒド又はチオアルデヒドの環状重合体、多塩基カルボン酸の酸無水物、多価アルコール又は多価フェノールと多塩基酸との環状エステル及び多塩基酸のイミドを含まない(複素環構造を形成するヘテロ原子が、ここに掲げる環を形成する基のみに含まれる場合に限る。)。
 この類の注7の前段に掲げる官能基に加え、その構造上、別の複素環構造を形成するヘテロ原子が存在する場合には、すべての環構造を形成する基を考慮して分類される。従って、例えば、アナキシロン(anaxirone(INN))及びプラデホビル(pradefovir(INN))は二以上の異なるヘテロ原子を有する複素環式化合物として 29.34 項に属し、窒素原子のみを有する複素環式化合物として 29.33 項には属しない。

(IJ)誘導体の分類
 化合物の誘導体の項レベルでの分類は、通則の適用によって決定される。誘導体が2以上の項に分類可能な場合は、この類の注3が適用される。
この類のいかなる項においても、誘導体は号注1の適用によって分類される。

(K)縮合環
 縮合環化合物とは、一つの共有の結合(一つに限る。)と二つの共有の原子(二つに限る。)を有する二以上の環を有する化合物である。

 縮合環は、二つの環が二つの隣接した原子を含む共通の一辺で結合している多環式化合物(例えば、多環式の炭化水素化合物、複素環式化合物)の分子中に現れる。例えば、次に示されるものである。 

 複雑な縮合環では、縮合が個々の環の一辺以上の場所に起こりうる。二つの環が二つの原子のみを共有している多環式化合物を「オルト-縮合環」という。一方、一つの環が互いに連続した二又はそれ以上の環のそれぞれ二つの原子のみを共有している多環式化合物を「オルト-ペリ-縮合環」という。これらの二つの異なる種類の縮合環を次に例示する。

 一方、次にブリッジ構造(非縮合)キノリンの例を示す。


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