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日々棒組み960 オトナの怖い夢

怖い夢というのは子供の頃からそこそこの頻度で見ていましたが、子供の頃のはなんていうか稲川淳二的っていうかホラー的っていうかそういうジャンルの夢だけでした。
今でも稲川的ホラー夢を見ることはありますが、むしろ大人だからこその怖い夢も見るようになりました。

私は印刷会社の生産管理(前職のポジションです)。
お客さんから預かった原稿を社内や外注に手配して、本にするためにまずは「初校」を出すのが仕事。
ある日、机の一番下の、底の深い引き出しを開けるとバカ分厚い封筒が二つ出てきます。
あ、これ…
原稿じゃん。
封筒からは大量の手書きの文字原稿、図版原稿、写真原稿が出てきます。手のかかりそうな表組原稿もバラバラ出てきます。
文字原稿は入力→内校(入力したテキストを確認する内部作業) →レイアウトと進めて初めて「初校」になります。図版原稿はトレース、写真原稿はスキャンしてデータ化します。初校を出すのにものすごく時間がかかりそうな原稿の塊。しかも。
「これ入稿したの何ヶ月も前じゃん!つかもうすぐ一年経つじゃん!」」

なんら手配しないまま引き出しに入れ、そのまま忘れていたのです。なんといちねんちかくも。
手がかかる原稿ゆえ、お客さんからも催促がなかったのでしょう。でもいくらなんでも何ヶ月もかかるわけがありません。手がかかるにしても頭の方から初校を出すとか、そういう段取りをすべきなのです。
焦りました。
いつお客さんから「初校はいつ出るの?」と問い合わせが来てもおかしくありません。つか来ないのが不思議なくらい。
焦りに焦りました。でもいくら焦ってももう取り返しがつきません。
もうダメだ。
全て、オールダメだ。

という絶望的な夢。焦ってるうちに焦りながら目が覚めます。
こんな、大人ゆえの怖い夢。
このパターンの夢、数回見ました。前の会社を辞めて10年以上経ってから。

んで。
この夢の続編を昨晩見たのです。いやほんと。
ついにお客さんから電話が来てしまいました。
「初校はいつ頃になりますか?」って。
全然責める口調ではなく、世間話の続きみたいな感じで。
でも、
「年が明けちゃうとは思いませんでしたよ」
とか言ってる。
そうっすか。去年でしたか入稿は。知ってたけど。

ああ、なんかジェントルマンなんだなこの人。
でも静かなる怒れるジェントルマンだよなそうだよな。
私はどうとでも取れるようないい加減な返答をしながら目の前の原稿の封筒を見つめるばかり。封筒には極太のマジックで堅そうな書名が大書きされています。
そうです。ここ数年で何度か夢に見たのに、まだ全く手配していなかったのです。
不思議なことに(?)夢の中の自分も前の夢を覚えていて、後悔したりしてます。ただこの数年で図太くなったのか、ヘラヘラいい加減な返事してます。具体的に何を言っていたのかは覚えていませんが、実のあることを何ひとつ言わないまま電話を切って、「どうしよう?どうしようもないけど」とか思ってるうちに目が覚めました。よかった。また切り抜けたよ。続きの夢を見ませんように、っと。

てあれ?
あんまり怖い夢の話じゃなくなってたね。大人になるってそういうことなんだね。
でもこういう「絶対手遅れ」な夢は別バリエーションがあって、60歳前後に「大学卒業直前に、入学してから一度も履修届を出していなくて、当然講義にも一回も出ていなかったことに気づく」とか、「もうすぐ飛行機が出る時間なのに旅行の準備ができていなくてまだ自宅にいる」とか「旅館のチェックアウトの時間なのに靴下が見つからなくて寝巻きのまま探してる」とか「高校柔道部OBが集まって稽古するのに柔道着が見つからなくて、集合時間過ぎても実家で探してる」とかそんな夢をちょくちょく見ます。
旅行なんか年にせいぜい2、3回くらい(飛行機での旅行なんて皆無)なのに、「旅行の何かに間に合わないもの」は割とよく見ます。あまり旅行に行かないから却って旅行に対して緊張感があるのかもしれません。行かないのに心配してるってちょっと笑えますが。

というわけで。大人はお化けやらゾンビやらと同じくらい「もう手遅れ」が怖いのだということがわかりました。
まぁそういうのもだんだんどうでもよくなっていきそうだけどさ、歳と共に。

引き出しを開けて手付かずの原稿を見つけても
「はて?これはなんじゃろか?ま、いいか」
と引き出しを閉める。そんなジジィに私はなりたい。

*タイトルの画像は、AIに「悪夢というタイトルの絵を描いてください」と頼み込んで生成してもらったものです。3種類の絵が提示されましたが、どれも夜の森で木の枝がウネウネしてる感じのものでした。
AI恐るるに足らず。奴らに職を奪われそうになったら夜の森で木の枝がウネウネしてる写真を見せてオラオラと追っ払えばいいのです。そうしなさい。

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