伊藤章良 食随筆家

1994年齋藤壽氏によって創刊された『料理王国』でデビュー。情報ポータルサイトにて「大…

伊藤章良 食随筆家

1994年齋藤壽氏によって創刊された『料理王国』でデビュー。情報ポータルサイトにて「大人の食べ歩き」連載スタート。その後『クーチャンネル(現在閉鎖)』で、2021年末まで「新・大人の食べ歩き」として一貫した食べる側の視点で書き続ける。著書に『東京百年レストラン(Ⅰ~Ⅲ)』。

最近の記事

第29回 テレビのグルメレポートとは

前回の伊勢参りで、テレビのグルメレポーターをしていた経験を書いたところ、いくつか問い合わせをいただいた。ぼくがレギュラー出演していたのは、「ニッポン百年食堂」という番組で、全国各地に点在する百年以上続いている食堂を訪ね、実際に食してレポートをするという内容だ。 ★そのときの様子をwebにまとめた記事「日本食堂遺産」はこちらhttps://www.otoriyosetecho.jp/column/itoakira/ このオファーをお引き受けした時、ぼくは一つのお願い、と

    • 第28回 お伊勢参り

      3月上旬、極寒の三重県伊勢市に出向き、お伊勢参りに行ってきた。幼少期関西ですごしたぼくには、伊勢神宮に行く機会が何度かあったし、レギュラー出演していたテレビ番組のロケでも内宮に伺った。係の方についていただき1時間以上かけて解説付きの案内を受けた。「五十鈴川のほとりにたたずむ伊藤」みたいな恥ずかしいショットも撮られたにもかかわらず、実際の放送ではワンカットも伊勢神宮のシーンは使われていなかった。テレビ番組なんて、そんなもんである。 以来の伊勢。今回は三重県で開業するドクター

      • 第27回 アド 初台

        バレエやオペラ、レコード大賞の会場としても知られる新国立劇場。新宿から京王新線で一駅の初台にあり、新宿からも歩ける距離。しかし、外食としては、あまり足が向くエリアとは言えない。初台で最も知られるのは駅前の立ち食いそば店で、レコード大賞のプロデューサーを長年担当していた友人も、あそこで蕎麦を食するのが楽しみだとよく語っていた。 その初台に、昨年11月末、気鋭のフランス料理店オープンとの情報を耳にする。シェフの、麻布十番でモダンノルディックを標榜する『アシッドブリアンツァ』に

        • 第26回 falo+ 虎ノ門

          2023年暮れの麻布台ヒルズに続いて、虎ノ門ヒルズ・ステーションタワー4階にも飲食店フロアがオープンした。虎ノ門ヒルズって、その名前を冠したメトロの駅までできたのに、虎ノ門横丁などがあるビジネスタワーには駅から意外と歩く印象だったが、2024年1月にオープンしたステーションタワーは、その名の通り駅真上である。 麻布台ヒルズでも感じたが、ヒルズと名のつくビル群は、手を抜かない・ケチらない・派手さはないけど贅を尽くした感がある。工期は遅れていると聞くも、物資がない・人出が足り

        第29回 テレビのグルメレポートとは

          第25回 宮崎酒房くわ 恵比寿

          九州は、各県ごとに特徴ある料理が存在する。とんこつラーメン、からし蓮根、馬刺し、とり天・・・。そして宮崎と言えば、チキン南蛮と真っ黒な鳥の炭火焼き。ぼくは鳥料理の中でも密かに心動くのがこの炭火焼で、想像するだけで・・・、パブロフの犬状態になる。。特に親鳥のかったいやつが好みで、もちろん宮崎の街中にて頻繁に食するが、空港の土産物店でもギリギリまで物色してしまう。 :現在は行動範囲が少し変化したのだが、その昔、毎日のように赤坂界隈でランチを取っていた時期があった。不思議と赤坂

          第25回 宮崎酒房くわ 恵比寿

          第24回 バルセロナ滞在記

          ぼくの中で、スペインのバルセロナは特別な都市である。 行くたびに嫌な体験ばかりが重なるパリを除いては、世界中に素敵だと思える町はいくつもあって、訪れるたびにまた来たいと願うのだが、バルセロナは別格 大きな理由は、1992年に開催されたバルセロナオリンピック開会式の音楽に、日本から坂本龍一を起用したこと。その当時、すでに世界のサカモトだったかもしれないが、自国民ではなく日本人の音楽家に依頼していただいた恩義を、ぼくは一生覚えている。YMOの高橋幸宏によると、嫌々やっていたそ

          第24回 バルセロナ滞在記

          第23回 マドリード滞在記

          10月は、半分以上ヨーロッパに滞在していた。かの地を知る人たちからは、寒いから気を付けてと口々に言われたので、防寒服をいくつも持って行ったものの、全く使わずに終わった。朝晩こそ冷えるが日中はほぼ毎日Tシャツ。それだけ暑かったし毎日が晴天だった。先日のラグビーワールドカップ決勝戦を見ると、雨だったこともあるが観客は皆さん寒そうで、ぽくへの忠告は、数週間分早かったようだ。 今回の旅の目的の一つは、スペインのマドリードで、ピカソの有名な作品『ゲルニカ』を鑑賞すること。ヨーロッバ

          第23回 マドリード滞在記

          第22回 サカトケ乃カミ 大阪梅田

          ぼくは酒をたしなむし、それ以上に酒場の風情が好きだ。ただ、どちらかと言えば、せっかちにあおるよりは座ってじっくり飲みたい派だ。中島らも氏が言い出したといわれる「せんべろ」、つまり千円程度でべろべろになりたい気分の時も座れる酒場を探すことが多い。なので、立ち呑みを選ぶ際には厳選する笑。 かなり前だが、東京の酎ハイ街道や立石界隈を克明に紹介していた「酔わせて下町」というタイトルも含め秀逸なブログがあった。その著者とも飲んだことがあったが、彼曰く、立ち飲みはエクササイズと心得

          第22回 サカトケ乃カミ 大阪梅田

          第21回 帝里加(デリカ) 汐留

          中国人が、世界中で彼らのコミュニティを形成しているのは周知のことだが、中国の料理を中華料理と呼ぶのは日本だけだそうだ。店中に響くように中国語で怒鳴り合いながら、たどたどしい日本語で接客する中国料理店は、まるで自然界の強力な外来種のように、日本固有の中華料理、言い換えれば町中華を駆逐しつつある。 「回鍋肉」や「干焼蝦仁」などは、作ったことのない日式のレシピで調理し、「酢豚」「冷やし中華」といった聞いたことすらないメニューまで、見様見真似で中華料理を作る中国人の逞しさは大した

          第21回 帝里加(デリカ) 汐留

          第20回 シオタ 江戸川橋

          何回か前、千歳船橋のフランス料理店『ラドレ』を紹介した時も書いたが、東京でこれぞというフランス料理らしいフランス料理店に出会うのはなかなか難しい。ただそれは、劣悪なテレビ番組に苦言を呈することと同様にむなしい議論で、結局そんな放送は観なければいいのだし、フランス料理を出さないフレンチレストランには行かなければいいのだ。こう暑いと、フランス料理店の紹介には少々気が引けるが、まだ気温が上がる前の訪問記ゆえお許しください。 江戸川橋と護国寺の間ぐらいにある『シオタ』は、今行くべ

          第20回 シオタ 江戸川橋

          第19回 酒肴あおもん 五反田

          法律で酒が飲めるようになって以来、居酒屋は文字通り自分の居場所となった。フランス料理や日本料理、鮨にしても、もちろん大好きではあるが、どこかに緊張感をはらみつつ向き合っているような気もする。いつぽう居酒屋は、入店した時の喧噪から、それはリラクゼーションのためにあるような受け止めで許容できるのだ。 そんな意味でも、財布が極端に薄っぺらいころから、長く長く居酒屋と付き合ってきて、今風に言えば、酸いも甘いも共有してきたと思う。長ければ長いほど別れも多い。設備の老朽化や後継者不足

          第19回 酒肴あおもん 五反田

          第18回 タコス・バー 恵比寿

          メキシコには日帰りでしか行ったことがない。アメリカのカリフォルニア州やテキサス州の国境近くのの町に滞在し、そこから着の身着のまま出かけることができた。国境のリオ・グランデ川を渡ると景色は激変する。建物は朽ち果て、人々の服装も質素だ。英語のワンツースリーすら通じないのに、日本語の卑猥な言葉を発して客引きが押し寄せる。家の軒先で何か売っていると近づくと入れ歯だったりして驚く。もしかしたら歯科医院なのかもしれないいと後で考える。とんでもないところに来たなあとさらにずんずん進むと、公

          第18回 タコス・バー 恵比寿

          第17回 オーベルジュ オーフ 石川県小松市

          2023年はまだ始まって4か月だけど、すでに今年の国内ナンバーワンは不動だろうと納得するレストランに出会ってしまった。石川県小松市にある『オーベルジュ オーフ』である。ここは、廃校となった小学校の校舎をリモデルして2022年7月にオープン。SDGs的にも脚光を浴びてのスタートだった。 訪れてみると、昔の小学校校舎の構造が未だに記憶にあるぼくからすれば、かなりもったいないリモデルだ。校舎らしさがほとんど残っていないのである。まだ、新宿歌舞伎町の吉本東京本社の方が、都心ながら

          第17回 オーベルジュ オーフ 石川県小松市

          第16回 鮨懐石重兵衛 岩手県盛岡市

          ※年度末のあわただしさで、一日遅れてしまいました。 ニューヨーク・タイムズ紙による「2023年に行くべき52カ所」との特集で、岩手県の盛岡が2位になったと、一時評判になった。このランキング、1位はロンドンで3位はアメリカのモニュメント・バレー。単なる名所や国立公園、都市、はては一つの国まで色々で、52カ所は同列で与えられた順番にもあまり意味はないような気もする。日本で選ばれたのは盛岡と福岡のみ。誰もが行く著名な名所旧跡より、外国人、特にアメリカ人記者が好む固有な場所な

          第16回 鮨懐石重兵衛 岩手県盛岡市

          第15回 ビストロ・ラドレ  千歳船橋

          フランス料理が食べたいとか、オススメのフレンチレストランを教えてほしいと言われたとき、さて、どこに行けば相手の求めるフランス料理にたどり着くことができるのかと、原点に戻って迷ってしまう。特に高額の高級フランス料理店は、本来の「らしさ」を発揮していないのではないかと感じる時も多い。 友人がパリの三ツ星レストランに行った際、そこのシェフに「うちの出汁はうまいだろう」と言われガックリきたそうだ。ぼくのケースも述べると、フランス中南部オーブラック地方、ラギオールというソムリエナイフ

          第15回 ビストロ・ラドレ  千歳船橋

          第14回 料理や 森川 横浜・石川町

          横浜は観光名所としても芸術を鑑賞する場所としても相当に優れるが、その後の食事となると少し心もとない。横浜駅周辺は決め手に欠けるし、みなとみらいは街が新しくて飲食店に重厚感が伴わず、中華街はすでに形骸化している。バーニーズニューヨーク横浜地下の『SALONE2007』は大変素晴らしく格式も高いが、それに見合った客層を獲得できているのかどうか。野毛は飲み歩くには素晴らしいエリアで大好きだ。しかし、芸術に触れた後などでは、なかなか足が向きにくい。 そんな横浜で、打ち合わせの後会食

          第14回 料理や 森川 横浜・石川町