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大人初心者がピアノを買うとき、絶対に気をつけるべきこと

わたしは楽器を販売する教室店舗に勤めたことがあって、また自分自身も、生徒目線でセールス営業を受けたことが多数あります。

周りの友達でも、えーっ!大人初心者がピアノを買うときには、そのチョイスはしないほうがいいんじゃないかなあ・・と内心思いながら、「おめでとう、良いピアノだね」と答えたことが何回かありました。

今回は、楽器店による「これも良いけど、こんなのもOKです」「でも今メーカーが売り出しているのはこちらのモデルなので、こっちもおすすめです」式のピアノおすすめ記事で、もう一体何が良いのか訳がわからなくなってしまった・・という大人初心者に向けて、極論だけを中心に書いてみたいと思います。

この記事に書いていることは、すべて言い切りで書きますが、例外はいずれも存在することを承知のうえでお読みください。あえて、初心者のひとが結局訳がわからなくなることのないように書きたいと思います。

大人初心者は電子ピアノのほうが速く上達する

一つ目から、かつて同僚だった楽器店の販売員さんが聞いたら卒倒すること間違いなしの見出しです。

大手音楽教室の販売店の店員さんは基本的に、売価の高い木製のピアノ(アコースティックのアップライトピアノ、グランドピアノ)を否定しないようにトレーニングを受けています。

なので、大人の初心者でも、店頭で「本気で勉強してみたい」「良い音で学びたい」と言った矢先、まずは大型で100万円くらいのピアノをおすすめされることでしょう。

しかし結論としては、最新型の電子ピアノであれば、木製の本物のピアノよりも大人初心者の上達は速いです。
それはなぜでしょうか?

練習時間

1番大きいのは、やはり練習時間がとりやすいこと。あなたがよほど田舎の広大な一軒家に住んでいるのでなければ、ピアノは戸建てであっても朝8時から夜8時までしか弾けません。

一般的な社会人であれば、これだと練習できるのは一日にせいぜい30分か、一時間でしょう。帰りの遅くなった日にはピアノの練習は延期となること間違いありません。

初心者のうちに、練習に不本意に穴が空くことは絶対に避けたほうがよい事態です。販売員さんに「最高の音が出る」と言われて買ったはいいけど、肝心の弾ける時間が土日の日中しかなくなっては、そもそも弾けるようにはなりません。

キーの重さ

木製の本格的なグランドピアノやアップライトピアノのキーは、相当な重さがあります。だいたいキーの重さは50gと言われていますが、キーの深さもそこそこあるので、「50gのものに指を勢いよくぶつけて1cm動かす」動作を、ひたすら何時間も続けるということです。

よく、パソコンのキーボードで手が痛くなったというひとがいますが、パソコンのキーの重さはだいたい30gくらいで、しかも、キーの深さはわずか数ミリです。

重たい鍵盤のピアノを弾く時に指と手首が受けるダメージは、かなりのものがあると覚悟しましょう。

このハンマーを、細い指のちからで毎秒叩きつけるのです。

手が疲労困憊して使い物にならなくなったら大打撃になる一般社会人にとって、あえてやたらと重たい本格的なピアノ・キーボードを薦める理由がありません。

ピアノを小さい頃からやっているひとの場合、だんだんと親指の周りに特殊な筋肉が発達してきて、強い鍵盤の打撃も跳ね返せるようなふっくらとした手になってきます。

もう骨格の完成した大人の場合、軽めの負荷で弾いてもしっかりと大きな音を出せる電子ピアノに、何も悪い点はないはずです。
電子ピアノでも、上位モデルであれば、軽すぎると思えばボタンひとつで鍵盤を1%刻みで重くしていくことが可能です。

最初から、ドレミファソを押すだけで手が疲れて、設定変更のしようもない大型のアコースティックピアノを家に入れるのは、よほどの覚悟がないならぜひ思いとどまりましょう。

しかし、ペラペラの鍵盤で上達は不可能

ピアノの鍵盤で重いものは避けなさいと言った矢先、いきなり逆のことを言い出すようですが、3万円を切るような電子ピアノでは、たいてい鍵盤に一切重さがついておらず、これは一切手の動きの練習になりません。

テニスのトレーニングを、任天堂SwitchやWiiリモコンでやるようなものだと考えてください。ボールはたしかに打った方向に動くかもしれませんが、腕や手に全く打った感触が跳ね返ってこないので、適切なリズム感すらつきません。

重さゼロのキーボードで3年練習して、自宅では相当弾けるようになった大人初心者でも、ストリートピアノに出ていって重たい鍵盤を前にしたら、自分が押した鍵盤から帰ってくる力強い跳ね返りを前に、弾きたいリズムが全く実現できなくなってしまうはずです。

ピアノは、メーカーの仕様表を見ると、鍵盤のタイプが明記されています。キーボードタイプなどと書かれているものは、よほど自宅に限って弾ければよいというひと以外は避けておきましょう。

一方、「ハンマーアクションタイプ」などと書かれているものは、本当のピアノ鍵盤の内部構造を模したものですが、こうなってくるといよいよ鍵盤が重すぎるという問題も出てきます。

バネ式・スプリング式などと書かれたもので大人初心者には十分で、重さの調節が画面上でできる上位モデルだとなお◎、ということを頭に入れておきましょう。

88個の鍵盤はむしろ邪魔・70個ですら不要な場合がほとんど

店員さんのセールスに負けず、なんとか電子ピアノで、しかもハンマーアクションでなくてバネ式でも良いんだということで、店員さんに理解してもらったとしましょう。お次のセールスは、なるべく高価格の、フルサイズ電子ピアノをおすすめする方向にかわります。

「88鍵盤にしないとこんな曲が弾けなくなりますが、よろしいんですか・・?」と、店員さんが目の前で有名曲を実演してくれるかもしれません。

あなたが大人初心者で、省スペースでピアノを弾きたいなら、ここでも負けずに断ったほうが無難です。家によほどのスペースがあって、むしろ大きなピアノが鎮座しているほうがインテリアとして嬉しいというなら、この章は読み飛ばしてください。

ピアノに88鍵盤がついているのは、端の方も弾くからではありません。
88鍵盤のピアノを買ったところで、あなたが一生に両側からそれぞれ10個の鍵盤を弾くのは、合計で20回やそこらでしょう。

端の方の鍵盤の役割は、昔の木製のピアノで、真ん中の音を弾いたときに弦同士を内部で共鳴させて、専門的には「倍音」と言われる豊かな響きをつくること。

今の電子ピアノでは、幸い電子的にこの共鳴の仕組みが再現されていますので、昔ながらのこのお飾りが果たしている役割はなくなりました。

ただし、ラフマニノフやショスタコーヴィチなど、あなたが現代的なピアノ作品も弾いてみたい場合は別かもしれません。
こういった現代ピアノの作曲家は、ピアノの可能性をひろげるため、通常はありえないようなキンキンという高音やおどろおどろしい低音も数多く曲のなかに登場させます。

あなたがノーマルなアマチュアピアニストなら、通常の60台〜70台の鍵盤数のピアノを選んでおきましょう。鍵盤数も少ないのでいちいち混乱せずに弾けて、模様替えもずっと楽になるはずです。

ピアノは楽器店で買ってはいけない

と、ここでさらにどんでん返しをするようなのですが、ここまで見てきたように、もしあなたにぴったりの楽器が電子ピアノだということであれば、楽器店で購入契約を結んでくる必要はありません。

電機店のほうが、ポイント込みで大体2割くらい安く買うことができるはずです。

さらに電子ピアノであれば、たくさんの機種の指弾ができるという意味でも、ヤマダ電機やヨドバシカメラなどの電機店のほうがおすすめです。

楽器専門店では必要以上に高額な電子ピアノが多く展示されていますが、電機店のほうが一般的なアマチュア向けの価格帯に特化しているので、大人初心者におすすめの5-15万円くらいのピアノにより出会いやすいです。

家電専門の店員さんも、ピアノを指弾しているひとに無理に営業をかけようとはしてきませんから、落ち着いて電子ピアノの質を確かめることができるでしょう。

ほかの楽器に関しては、搬入やメンテナンスが難しいなどで楽器店での購入をおすすめする場合があります。しかしピアノに関しては、比較的シンプルな作りをした楽器ですので、楽器店と電機店での購入で搬入もメンテナンスも何も異なるところはありません。

「トランスポーズ」「録音」「キーボードが光る」以外の機能は、ついていればいるほど練習しにくい

トランスポーズとは、実際はドを押したときに、たとえば4つ上の音を鳴らしたいというときに、それを自動的にやってくれて、曲のキーが簡単に変えられるという機能です。

アコースティックのピアノでは、ある曲を実際に手の動きを変えてキーを上げて/下げて弾くというのはたいへんな芸当ですが、電子ピアノであればボタンひとつで実現できます。

曲の構成を勉強するのに、これは外せない機能です。
また勉強の目的では、自分の演奏を振り返るのに録音機能が充実していることはマストでしょう。カシオ専売特許の、弾くべきキーが光ってくれる機能も、初心者にとっては最高にわかりやすいです。

しかし、機能がついていればいいということはなく、ここに挙げた以上の機能は、基本的についていればいるほど練習の気が散るという認識でOKだと思います。

ピアノに付属のアプリは、いまのところ特に各社練習の役にたつようなものはなく、専門の練習アプリやオンラインレッスンを使ったほうがずっとクオリティが高いです。

また、機能がたくさんあるピアノほど、スイッチを入れてからの立ち上げ時間も長くなります。
ボタンが多数ある見た目は、指の動きを追うときにも目の上のたんこぶのように、何となく気になってソワソワしてしまうという大人初心者が多いものです。

音色の変更機能はみんな買って3日しか使わない

これも、電子ピアノの特色表記あるあるですが、200もの音源を切り替えられるといった言葉をよく目にします。
基本的に、あなたがこれから練習時に使う音色は、ジャズを弾こうと、クラシック、ポップス、テクノ、ゲーム音楽、ラテンピアノ、何のジャンルであっても基本的に「グランドピアノ(001)」と書いてある音色だけです。

ほかの音色は購入時にしか切り替えませんので、くれぐれもこれを重視して後悔することのないように…。

電子ピアノはヘッドフォンで練習するのが基本。スピーカーで弾くことはほとんど無い

「10センチの大口径スピーカー」が売りの電子ピアノに心惹かれていますか?あなたのライフスタイルにもよりますが、多くの学習者にとって、思ったよりメリットを感じることはないはずです。

電子ピアノの99%は、どんなに大きなスピーカーがついていようと、ヘッドフォンを差したほうが結局良い音で弾くことができます。

そもそも周りに迷惑にならずに何時でも弾けるということもあって、あなたは購入後、おそらく9割方の練習時間をヘッドフォンをつけたままで過ごすことになります。

じきに、ヘッドフォンを抜き差ししてしまったりするほうが、面倒に感じるようになるでしょう。

スピーカーの音質にこだわったモデルは、たいていピアノに厚みと重量が出てきます。よほどの理由がない限り、試弾の際にも自前のなるべく良いヘッドフォンを持っていって、ヘッドフォンから聞こえる音のよしあしでもって判断するようにしましょう。

スピーカーが自慢のモデルよりはるかに金額の安いモデルのほうが、内蔵されている音の響きはずっとよいということもザラにある話なのです。

お目当てのピアノを買ったら、次は?

いまや、オンラインで身に付けられないスキルというのは、ほとんど残っていません。

ピアノについても、2013年頃からかなりたくさんの革新的な学習法が登場してきました。もうアメリカでは、2020年以降実に6割くらいの楽器愛好者は音楽教室には通っていません。みんな、アプリや動画で勉強しているのです。過半数のひとがです!

現代では、最寄りの教室に一人だけ所属している先生に教わって、最寄りの教室主催の発表会に2万円払ってよしみで出演して終わり、という学習スタイルはスタンダードでないことを覚えておきましょう。

まるで個人にテーラーメイドで設計してもらえる旅行プランのように、世界中から世界中から自分にぴったりのレッスンをオンラインで選んで、また同じような音楽の嗜好をもったアマチュア同士で集まる発表会や同好会を地元で探してお互いに感想をシェアしあい、自分のブログやSNSを開いて毎日の練習成果や悩みを共有するのがこれからのスタンダードのピアノ練習法です。

ピアノの学習アプリのスタンダードとして、Yousicianがあります。
また、英語の分かるかたなら世界的な動画レッスンのUdemyがおすすめです。

36万人が高く評価している講座が、世界のどこからでも受けられます。

英語の講座は厳しいという方の場合、時間の定めなく受けられるピアノレッスンで日本で1番生徒数が多いのはフォニムです。プロの奏者が自分の練習に日々アドバイスや感想を届けてくれるのが人気となっています。


アプリでの学習がお好みなら、Skooveが1番おすすめ。
オンラインレッスンと違って先生は喋ってくれませんが、マイクであなたのピアノの音を拾って、自動的に演奏があっているか判定してくれます。
ゲーム感覚で上達できるのが魅力です。

無料のYouTube動画でも、とても質が高くて見入ってしまうようなものがたくさんあります。


独学用の本も、対面レッスンより質の良いものがたくさんあります。

ちょっと本が小さいので譜面台に置いて練習できないのが玉にきずですが、周りでも実際に無理なく続けられたというひとの多い名著です。本についているコードから、スマートフォンでお手本動画の視聴ができます。

本当の初心者、初めてピアノに触る方向けで、多少経験があるような方は物足りないかと思いますが、とてもわかりやすい本です。

DVDも、先生の声や姿が載っているものは珍しく独学で始める方にはとてもありがたい名著です。目で見てしっかりピアノが理解できるでしょう。