第13話 共に生きる
その日、ぼくのもとに1通のLINEが届きました。
熟癒の時からずっと頑張ってくれているセラピストさんからでした。
約9年くらいの長い付き合いで、特に会話も必要ない空気のような関係性です。
その彼女が明日からしばらく休みたいと言うのです。
しかも、入院すると、、、
え、入院!?
これまで遅刻も病欠もない人だっただけに衝撃でした。
次に送られてきたメッセージはぼくをさらに驚かせました。
それは本人からではなく看護婦さんが代わりに打ってくれたもので、そこで知らされた病名は脳梗塞。
幸い命に別状はないとのことでひと安心しましたが、そこから3ヶ月間の静養を余儀なくされました。
その後、静養とリハビリの甲斐もあり、仕事に復帰することになったのですが、ここでひとつ問題がありました。
脳梗塞の後遺症として、以前のようにスラスラと会話をすることができなくなっていたのです。
これは時間の経過と共に治るそうですが、当時はなかなか言葉が出てこず、ゆっくりと詰まりながら会話を進めるのが精一杯な状態でした。
さて、どうしたものか、、、
お客様の気持ちを考えると、会話がスムーズにできないのに担当されたらどう感じるだろうか。
完治するまで出勤を控えさせるべきか。でも、完治にとてつもなく時間がかかったらどうなるだろうか、、、
いろいろ考えましたが、出した結論は、、、
「復帰させる」
ぼくも含めてみんな年齢を重ねていくわけですから、これから先いろんなことが起きて当たり前。
病気や怪我、親の介護に至るまで人間が抱えるであろう様々な問題が順番にやってきます。
そんな時に何の力にもなれないけど、せめて仕事を続けたいという気持ちには応えたいと思いました。
しかし、お客様を巻き込むのは違うかな?という思いもあり、考えた末に下記の条件を設定しました。
1、そのセラピストさんのリピーター様のみのご案内
2、受付の際、会話がうまくできない旨を説明して、それでも指名したいというお客様のみご案内
復帰が決まり、受付を開始するとポツポツと問い合わせの電話が鳴り始めました。
受付さんには全件のやり取りを報告してもらい、自分でも直接お客様に説明したりしました。
反応は様々でしたが、結果的に
「じゃ、やめときます」
と答えたお客様はゼロ人でした。
ぼくの心配をよそに全員が予約をしてくださったのです。
「復帰できてよかったね」
とストレートに喜んでくれる人がいたり
ぶっきらぼうに
「別にマッサージしてくれりゃいいから」
と言ってくれたり
長い説明をしてるのに返事が
たったひと言
「はい」
だけだったり
ぼくが直接話した中にはこんなパターンもありました。
お決まりの長い説明を終えると、
面倒くさそうにため息混じりで
「それで?」
さりげない言葉、不器用な返事、表現は様々でも予約を入れるという行動が心の中を表しているわけで毎回心を打たれました。
何よりお客様とそんなに深い人間関係を作っていたセラピストさんに驚かされました。
どんな場所でも人と人が交わるところに情が通い物語が生まれる。
たとえそれがメンエスであっても。
そんなメンエス交差点がまた好きになる出来事でした。
気になるそのセラピストさんの現在ですが、すっかり健康を取り戻し今日もグループ店で元気に活躍してます。
最後までお付き合いいただき本当にありがとうございました。