日常組ファン必見!小説部分もかなり面白い。 だから僕は大人になれない ぺいんと著 感想

 この記事では2021年9月8日発行されたぺいんと著『だから僕は大人になれない』の感想記事だ。前半ではエッセイ部分、後半では小説部分をネタバレにならないよう書く。

 結論から言えばこの本は日常組ファンにとてもおすすめの本田。小説部分もかなり面白く、今後ぺいんと著の小説があれば予約して購入したいと思う。
 

 エッセイ部分感想。
 これまで動画などで語られた内容も一部あるが、大部分がこれまで語られてこなかったことだ。しかし暴露的な内容は一切ない。普段通りのぺいんとさんのやさしさ、人の好さが出ており、実名を出して第三者を攻撃するような要素はほとんどない。一か所だけ、「面白い動画を作りたかったが上手くいかないことがあった」と言う趣旨のやや愚痴と取れる内容があるが、それも攻撃的ではない(その内容はこれまでのラジオ動画などでも話したことがある内容であり、よっぽど印象的なのだと思う)。

前書き2ページの後目次があり、その後実況を始めるまでのエッセイがイラストなど抜きでは22ページほどある。幼少期の印象的なエピソードを短く読みやすい形にまとめてある。22ページと聞くと短いように感じるかもしれないが、そのようなことはない。むしろ内容が凝縮されている。これまで生きてきた中で特に印象的だったエピソードをとても読みやすく書いてある。イラストを増やす、短く読みやすい文章にするなどの工夫がされており、普段文章を読むことが全くない人でも日常組が好きな人であればすらすらと読むことが可能だろう。結構暗いエピソードもあるが、暗くなり過ぎないようになっている。
 衝撃的なエピソードが多く、印象に残りやすくページ以上満足感がある。

 実況を初めてから初代『マインクラフターの日常』を終えるまでがイラストなど抜きで26ページ。こちらもイラストが多く読みやすい。このパートでは実況を初めて順調に進んでいくことが増える中での悩みがあり、実況シリーズを終え、燃え尽きものの再び実況への情熱が戻ってくるところまでが描かれている。
 このパートで印象に残るのが赤髪のともさんがかっこいいところだ。苦しい時期のぺいんとさんに赤髪のともさんがいろいろ話してくれる内容がとてもかっこいい。赤髪のともさんファンにもおすすめだ。

その次にイラストなど抜き8ページで日常組の復活と現在の日常組について書かれている。

 その直後のページでは8ページで日常組の企画会議の様子が書かれれてる。

その後イラストなど抜きで45ページで現在のぺいんとさんの日常や考え方などについて書いた明るめのエッセイが書かれている。ぺいんとさんの日常や面白いエピソードなどが書かれている。

最後に日常組4人の交換日記4ページがある。
ここまでがエッセイパートの感想だ。具体的に内容は一昨日に発売された本だけあってずいぶんとボカかせてもらったが雰囲気が伝われば嬉しい。


次に小説パートについてだ。こちらも出来るだけネタバレしないように書くが、小説の感想である以上ややネタバレ要素もある。特に最後の2作については作品の終わり方を描いているのでネタバレとも言えるがこれを読んだところで作品を面白さは損なわれないと思う。ネタバレが気になるかは三作目スツの侵略まで読んだうえでブラウザバックして欲しい。

 小説は全部で5作収録されている。こちらがとても面白い。センスが今風だし作中で実況者がYouTuberも登場するがその存在にとてもリアリティがある。小説に実況者やYouTuberが登場するとなんかリアリティがない作者の偏見に満ちた何かになってしまうことが多いが、著者「YouTubeゲーム実況」の黎明期から活動を続けてきており、現在もトップクラスの人気実況者だけあってそのYouTubeと言う存在がとても現実的に描かれている。
作風もどことなくYouTube的な要素がある。現在YouTubeなどの動画と小説と言うものの距離が近くなってきている。YouTubeの要素を持った小説が人気になったりしているものの、具体的にどうすれば良いのかと言う方法論が確立しているとはいいがたい。そんな中今回ぺいんとさんが書かれた小説はYouTube的な要素があり、小説とYouTubeの融合の実例の一つになっている。


『あなたの正体』(8ページ)はYouTubeや家族の正の部分を書いている作品だ。
エッセイ部分では衝撃的な父親の出来事などが書かれている。本作ではそれを踏まえた上でぺいんとさんなりの家族像が描かれている。日常組をこれから先もずっと続けていくというという宣言とも取れる作品でもある。
他の4作にはミナコと言う同一人物とも取れる人物が存在することで同じ世界の物語と取ることが出来るが、この作品にはミナコが登場しない。そのことからもこの作品は他の作品とは少し違う性質を持った大切な作品だと言える。

『見えない赤い糸』(13ページ)は一転して『あなたの正体』で肯定的に書かれていたYouTubeや家族と言うもの負の部分を描いている(否定はしていない)。その点で『あなたの正体』と『見えない赤い糸』は一つのコインの裏表を描いているとも取れる。
 「赤い糸」と言うものがある世界の物語だ。「赤い糸」で結ばれた二人が結婚すると赤糸婚と呼ばれるとても縁起が良いもので、昔から数多くの人「赤い糸」で結ばれた人たちが結婚していた。「赤い糸」で結ばれる夫婦の幸福度は普通の夫婦の5倍にもなるという研究結果もあり、「赤い糸」が出現すると町が総出で祝うほどのものだ。しかし「赤い糸」は本人にしか見えない上、たとえ「赤い糸」をたどって相手にたどり着いたとしても相手には見えていないことがあるとなかなか難しいところもある。
 主人の家は代々「赤い糸」で結ばれた相手と結婚しており、親からも赤糸婚をすることを強く望まれており、名前までそれにあやかったものになっている。両親が言うには「赤い糸」で代々紡がれてきた子どもの息子は「赤い糸」が出やすいと言われており、さらに両親が言うには自分たちは小学生の頃には「赤い糸」で結ばれていたと言われプレッシャーをかけられている。
 ある日隣のクラスで赤糸カップルが誕生する。両親にはさらにプレッシャーをかけられ、さらには他の家から赤い糸を持つ人を養子しようかとも言われてしまう。
 家に自分の居場所がないように感じるも、幼馴染ユイには励まされ、「赤い糸」のことは気にしないように言われる。二人は恋愛関係になるも、ユイにも「赤い糸」が見え始める。
 
 ぺいんとさんが描く青春の切ない恋の物語である。
 
 私の解釈ではこの物語は格差と能力主義を描いている。2021年の日本では格差が広がり、勝ち組と負け組が目に見られるようになっている。
 テストの点数であったり、学歴であったり資格であったりと人の価値がデータとして見られることがある。同じことをしていても大学卒と専門学校卒と高卒では評価が全く異なることだってざらだ。
ぺいんとさんが生きるYouTubeの世界では登録者は再生数などが数値化されており、それが評価に直結する。
 面白さは登録者数で測れるものではない。登録者や再生数に関わらずぺいんとさんのことを好きな人は好きだ。しかしぺいんとさんが紹介される際にはYouTubeのチャンネル登録者数がどれぐらいあるが書かれたりする。ぺいんとさんの場合は目に見える形で世間から高く評価されているから良い。しかし世の中には学歴もテストの点数も、数値化された能力も低く、日々苦しんでいる人だって多い。
 「赤い糸」は赤がYouTubeの象徴であり、糸はネットである。「赤い糸」とはYouTubeの比喩なのではないだろうか。
 
ぺいんとさんは日常組のメンバーを初めとする仲間とも視聴者とも赤い糸で結ばれていて幸せに暮らしている。しかし一歩間違えると今とは全く違う人生を過ごしたかもしれない。この小説は逆説的な日常組の関係者やファンへのラブレターなのかもしれない。

 余談だが今作ではアイドルが「赤い糸」で結ばれて結婚したと報道されているシーンがある。しかし設定上「赤い糸」は本人たちにしか見えない。その為「赤い糸」で結ばれていましたと嘘をついて結婚することが可能だ。
 アイドルのような結婚しにくい存在が、堂々と結婚するための方便として「赤い糸」を使うことが可能となっている。
 実は主人公の周囲にも「赤い糸」で結ばれていると嘘をついている人がいるのではないだろうか。例えば主人公の両親とか。あくまで推測に過ぎないが、赤い糸で結ばれた存在としれ他の職業でも良いのにも関わらずなぜかアイドルが登場する。なぜアイドルでないといけないかと考えるとこういう解釈も可能となっている。

スツの侵略(12ページ)
 スシに偽装したスツが人間の体を乗っ取る生命体として身の回りに存在しているというホラー小説。日本の伝統であり象徴とも言えるスシに偽装しているという点が面白い。
 スシを食べることでスツに乗っ取られるのだが、エッセイ中でぺいんとさんがスシを非常に好んでいることが書かれているので、実はぺいんとさんもスツに乗っ取られているのではないかと一瞬考えさせられる話だ。

ミナコと言う『赤い糸』以降の4作と同一人物とも取れる人物の存在から他の4作と同じ世界でスツが暗躍しているのではないかと考えさせれるホラー要素もある。


以下二作についてはややネタバレありで感想を書いているので気になる方はブラウザバックして欲しい。











スマートホスト(14ページ)
 死んでスマホに転生した主人公が友人のホストの力を借りながらスマホの持ち主を幸せにしている話だ。この作品は単体で見るよりも5作連続で読んだときに面白さが爆発する作品である。
 まず前作スツの侵略に登場したミナコが登場することで、実はこの世界でもスツが暗躍しているのではないかと言う疑心暗鬼を感じさせることが出来ている。
 また主人公は「赤い糸」などは全く持ってないし、気にしてもいないがしあわせになっていくこれは「赤い糸」がなくてもしあわせになれると言っているとも取れる。
 この作品では同時にスマホが誰かを幸せにするという動画投稿者としての生き方を描いているとも言える。
登場人物周りに助けられる中で気づいたらしあわせになっていくためどうしても都合が良いという印象も受ける。しかし次の作品『海の隣人』を読むことで全く違う印象となる。


海の隣人(19ぺージ)
 ぺいんとさんの著書の最後にふさわしい作品である。主人公が海の世界に迷い込みそこでの出会いを通して世界の見方が少し変わるという話だ。
 内容としては作品の受け手(読者や視聴者)が作品に触れて、しあわせな気持ちになり、毎日を生きていこうとするということを描いている。

一つ前の『スマートホスト』のスマホの持ち主がほとんどスマホ任せてしあわせになったような印象を受けさせる。スマホの持ち主が努力したことはセリフでは話されているが分量を割いて描写されていないからだ。そのため『海の隣人』を読む時もどこかご都合主義の物語を読むような気分で読み進める。しかし本作はご都合主義では終わらない。しあわせな終わりではあるが、急にすべてがしあわせになりますという話ではない。都合の良い展開だった『スマートホスト』直後にこの話を読むことで、この話単体で読むよりもよりリアリティを感じることが出来て楽しむことができるのだ。

この作品を読んだ後で『スマートホスト』を読むと違う印象を受ける。もしかしたら最初からこの作品と二作で一作として計算されていたのかもしれない。
『スマートホスト』と『海の隣人』は全く別の登場人物の物語だ。しかし比喩されていることはとても似ている。
『スマートホスト』では誰かを助ける存在と助けられる存在が幸せになった姿を描いている。これは私たちに動画を作るぺいんとさんとぺいんとさんの動画を見て幸せになった視聴者のことを書いているとも言える。

『海の隣人』では誰かに助けられる存在が助けられて幸せになろうとする存在を描く。これはぺいんとさんの動画を見て楽しい楽しい気持ちになろうとする私たちのことを描いている。

人には好みがあって、誰かが助けてくれて、すぐにしあわせになる作品が好きになる人もいれば、しあわせになろうと頑張る人に少しだけ手を差し伸べる人がいる作品が好きな人もいる。前者が『スマートホスト』、後者が『海の隣人』だ。どちらが好きな人にも楽しめるようにするにはその両方の作品を書くことが必要だ。

『海の隣人』を呼んだ後に『スマートホスト』を読むことで、『スマートホスト』で不自然なまでに描かれていなかったスマホの持ち主の努力が、同じ誰かに助けられる存在の『海の隣人』の主人公の努力と重なり、『スマートホスト』ではあえて描かれていないはずの描写が描かれているような気になる。『スマートホスト』を読むことで『海の隣人』の主人公も自然と幸せになったような気がする。この二つの物語にはもしかしたらこういう構造があるのかもしれない。

 それぞれの作品の解釈は私が読んで二日で考えた時点のもので何年か後に読み直した時に全く違うことを思うかもしれない。ぺいんとさんの小説は面白かったので次回作も読みたいと思う。

 日常組ファンの方にはぜひ読んで欲しい本だ。



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