第1話 「アイドル……ですか?」

「うーん、参ったな…」
「えぇ、そうね…」
「このままじゃ2017年の大晦日どころか、クリスマス、いや、ハロウィンすら迎えられないかもしれないぞ」
ある日のカルデア。そこで働く経理担当の職員たちは、皆頭を悩ませていた。

「「「「このままだと!!!無一文でみんな干からびてしまう!!!」」」」

「なぁなんであの油田基地解体したんだっけ…」
「なんか随分前に解体するって決まったらしいわ」
「俺たち今までどうやってお金工面してたんだっけな…」
「とにかく、少なくとも秋までには何か収入源を確保しないと、本当にマズイぞ」
「何か…何か策はないのか…?」

こうして職員たちは何度目かになる話し合いを始めた。その様子をずっと見ている人がいるとも知らずに。

〜〜〜〜〜〜

「先輩、お金ってどうやったらもらえるものなのでしょうか?」
真剣な顔で尋ねられ、藤丸立香は驚いた。
「急にどうしたのマシュ?何か欲しいものがあるのかな?」
「あ、いえ、そうではないのですが…えっと、少し、興味がわいたので」
そう言って、少し視線を逸らす。
「うーん、そうなの?アルバイトとかしてみたいのかな」
「アルバイト、ですか…それは、一体どのようなものなのでしょうか?」
「よくあるのは、スーパーのレジ打ちとか、カフェの店員さんとかかな…マシュがウェイトレスになったら、可愛いからきっと看板娘になれるね」
マスターの天然攻撃が炸裂する。
「そ、そうでしょうか。その、ありがとうございま…」

「ちょっとー!朝からなにイチャついてるのよ!」

突然の大声に驚いてマシュと藤丸が振り向くと、そこには仁王立ちしたエリザベート・バートリーが立っていた。

「エリザベートさん、おはようございます」
「おはよう、エリザ」
「イチャついてる、は華麗にスルーしたわね…まったく、一体何の話をしてたのよ?」
「あぁ、マシュがアルバイトをしたいみたいで、どんなのがいいかなって話をしてたんだ」
「アルバイトォ?何よマシュ、お金に困ってるの?」
「い、いえ、そういうわけでは…」
否定しかけるマシュを遮り、エリザベートがまくしたてる。
「お金が欲しいなら、アルバイトなんてしなくても、子豚たちに貢がせればいいのよ!マシュもアイドルを目指してみるのはどう?」
「アイドル…ですか?」
「アイドルは楽しいわよ!歌って踊ってチヤホヤされるのがお仕事なの!」
「マシュがアイドルかぁ…マシュがもしライブをしたら是非見に行きたいな。あ、でもすぐに席が埋まっちゃうかな?」
またしてもマスターの天然攻撃が炸裂する。
「先輩の分は!特別招待チケットを用意しますので!!」
「ああもう!だからイチャつくのはやめなさーい!」

〜〜〜〜〜〜

自室に戻ったマシュは、ぼんやりと考えごとをしていた。
(カルデアが経済的に困窮している…カルデアの皆さんを助けるために私ができることは何だろう。)
ふと、エリザベートの言っていたことを思い出す。
(アイドル…私がアイドルになれば、カルデアの皆さんの役に立てるでしょうか…)
アイドルは、歌って踊ってチヤホヤされるのが仕事だと言っていた。もしもそれが本当なら…
(誰も傷つけることなく、カルデアの皆さんを助けることができるかもしれない…私にも、出来るだろうか?)
カルデアのこと、アイドルのこと…ぼんやりと考えながら、マシュはゆっくりと眠りに落ちていった。

夢を見た。
目の前にはたくさんの人。
隣には派手な衣装を着たエリザベートさん。
私はエリザベートさんとお揃いの衣装を着て立っていた。

「いくわよマシュ!子豚たちに最高のライブを届けるわよ!」

ステージが照らされた。
アップテンポのメロディーが流れる。
踊って。歌って。
みんなが、笑顔になる。
ペンライトが揺れる。
景色が、キラキラと七色に輝いて。

これが、アイドル。
高揚が止まらなかった。

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