第5話 あなたのためのアイドル

(自分の歌を聞いてほしい相手はいるかい?)
先生の言葉が頭をよぎる。そんなこと、考えたこともなかった。アタシはアタシのために歌うの。子豚は子豚であって、いわばライブを盛り上げる舞台装置のひとつにすぎない。

自室で考え込んでいると、廊下から声がした。
「余だ。エリザベート、入ってもよいか?」
「おじ様…?」
扉を開けると、可愛い服を持ったおじ様がいた。
「おじ様、どうしたの?それ、ステキな服ね!」
綺麗なパステルピンクのワンピース。肩ひもとスカートにガーベラの花があしらわれている。スカートはふんわりとしたシルエットで、裾からは白いレースが見える。
「余が作った服だ。マスターからアイドルを目指して練習中だと聞いてな…新しい衣装が必要だろう?」
「この衣装を…おじ様が、私に?」
こんなに立派な衣装…いくらおじ様とはいえ、作るのにかなりの時間が必要だったはず。おじ様が、私のために…?
「もちろんだ。舞台は余も必ず観に行く故、練習に励むがいい。」
そう言って、おじ様は帰ろうとする。
「お、おじ様!」
アタシの声に、おじ様は振り向いて
「応援、しておるからな。」
と言った。
「ア…アタシ!おじ様のために歌うわ!必ず聞きにきてね、おじ様!」
おじ様の後姿は、喜んでくれているような気がした。

誰かのため、なんて今までは考えもしなかった。私が楽しいから歌う、それが一番だと思っていた。でも、今は違う。
(誰かのために歌うって決めたのに、今までよりも嬉しい気持ちになれるのね)
応援してくれる人がいること。そして、応援してくれる人のために歌えること。それがこんなにも…
「…マシュはもしかして、このことに気付いていたのかしら。」
マシュとまた、アイドルを目指したい。そう、素直に思えた。

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