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核のゴミ容器(キャスク)は12年前の 中古品で安全なの?~不正が内部告発された「M&E室蘭」製だった

 今年9月にも核のゴミが、新潟県柏崎刈羽原発から青森県むつ市の「中間貯蔵施設」に運び込まれる予定です。青森県知事は安全協定締結を急ぎ、7月上旬に県民説明会を開催しました。
 しかし搬入直前になって、輸送・貯蔵する容器(キャスク)の型式が変更されました。リサイクル燃料所有の日本製鋼所室蘭製作所で溶接されていた「タイプ2キャスク」が、なぜか登録から削除されました。さらに、最初に運び込まれるキャスク「タイプ2A」HDP-69B 1号機は12年前に作られ、すでに使用されて来た中古キャスクです。
 さらに、市民の指摘により、このキャスクは2022年2月に不正が内部告発された日本製鋼所M&E株式会社室蘭作業所(M&E室蘭)で作られたことも明らかになりました。
 東京電力もリサイクル燃料(RFS)も、「中古のキャスクであること、改ざん、ねつ造、虚偽記載をした会社が素形材を提供していたこと」を一切発表していません。市民が県民説明会で指摘して初めて「中古」「不正」の事実を認め、県民説明会最後の弘前市会場で「2022年10月に現地で安全を確認した」と釈明しました。
 
 県民説明会で繰り返しキャスクの安全性について質問しましたが、RFSは「M&E室蘭に不正がなかったことを確認したので安全だ」と答え、原子力規制庁も「事業者が安全を確認し、法令違反はないので改めての検査は考えていない」と答えています。
 その回答に対し、「いつどこでどのように安全を確認したのですか?文書で公表する予定はありますか」と質問しましたが、「確認の詳細については説明しない、文書での公表もしない」との回答でした。しかし、最後に開催された弘前市会場で「2022年10月に現地で安全を確認した」と釈明しました。
 不正について社内の特別調査委員会の報告書がまとまったのが2022年11月14日で、フランス原子力安全局は、2022年12月6~8日に株式会社日本製鋼所、M&E室蘭に対する検査を実施しています。微妙な時期のRFSの安全確認となっています。

M&E室蘭の不正とは?

 2022年2月20日に日本製鋼所(JSW)の子会社であるM&E室蘭で「品質検査における偽装がある」旨の匿名の内部通報を受けたことが発端でした。
 JSWは、「社内調査委員会」を設置し、3月14日から3月25日まで社内調査を行い、「試験結果を捏造記載」「検査結果、試験結果とは異なる結果を記載」して顧客に交付したなどの「検査データの改ざん」を確認しました。
 その後、4月12日に外部弁護士からなる「外部調査委員会」を設置し、4月12日から5月6日まで調査し、検査データの改ざん等が長期間にわたって継続的に行われていた等の調査結果を2022年11月14日に報告したようです(ホームページに公開されたのは2024年5月27日です)。
 さらに、5月20日には外部の弁護士から構成される「特別調査委員会」を設置して調査を行いました。
 報告書の第1章 本調査の概要 「第2 調査の目的及び対象」では、「ただし、不適切行為により当該製品の品質に問題が生じるか否か、不適切行為の責任の所在については、本調査の目的及び対象とするものではない。なお、当委員会は日本弁護士会が策定した『企業不祥事における第三者委員会ガイドライン』にすべての点に準拠したいわゆる第三者委員会ではなく、当委員会が行なう本調査に関しては、同ガイドラインに準拠するものではない。」と書かれています。
 そして、「第6 調査の限界に係る保留・前提」として「以下の点に起因する本調査及び本調査報告書の限界があったことを付言する。」とされ、以下が記載されています。

・本調査が、法的強制力の伴わない調査であり、JSWグループの役職員その他関係者の任意の協力が前提であること
・JSWから求められた調査期限があり、時間的制約がある中での調査であったこと
・開示を受けた資料以外に関係資料等が存在すること、又は当委員会が依拠した供述等に事実と異なる内容が含まれたりすることは前提としていないこと
・関係資料等の一部について、JSWグループ各所定の保存期間を超えたものがあったことその他の理由により本調査において当委員会が入手することができなかった関係資料が存すること
・JSWグループが顧客等と締結した守秘義務に抵触する事項若しくはJSWグループの営業秘密又はノウハウが含まれ得るため、本調査報告書においては、顧客の名称等は記載を省略したこと

 つまり、今回認定された不正については不正だが、それ以外の不正があるかないかはわからないという報告書です。そのため、フランス原子力安全局は、2022年12月6日~8日まで日本製鋼所、M&E@室蘭に検査を行っています。
 
 調査報告書には、M&E室蘭では、原子力格納容器内で使用される鍛鋼品及び鋼板(原子力圧力容器材料、蒸気発生器部材、使用済燃料輸送・貯蔵キャスク部材等)を製造してると記載されています。

 M&E室蘭での原子力製品に関する不適切行為の概要
 
① 材番打替えに伴うデータ改ざん
② 常温引張試験における三光試験結果を報告地として記載したことによるミルシートの改ざん
③ シャルピー衝撃試験において参考試験結果を報告地として記載したことによるミルシートの改ざん
④ 寸法測定に伴うねつ造/不正検査
⑤ グラインダー前客先送付材の寸法記録のねつ造
⑥ 材料試験で対象商品とは異なる材料から制作した試験片を用いたことによるデータ捏造
⑦ 楕円矯正に係る虚偽記載
⑧ PT検査における虚偽記載
⑨ 表面欠陥除去に伴う虚偽記載
以上の不適切行為のほか、不一致事象が確認された。

 M&E室蘭が、上記のような改ざん、ねつ造、虚偽記載を行っていたにもかかわらず、「2022年10月に現地で安全を確認した」と言われても、にわかに信じることができません。
 その理由は、第1に特別調査委員会の報告が出る前に確認作業をしていること、第2に最初にキャスクの品質監査が行われたのが2010年で製造後12年を経て書類が保存されていたのかが疑わしいこと、第3に、フランス原子力安全局のように原子力規制員会が同席していない事が挙げられます。
 
 東京電力、RFSは、日本製鋼所とM&E室蘭の現場で、原子力規制員会の立会いの下に改めて検査を行い、安全が100%確認できない時はキャスクの作り直しを求めるべきです。実際に不正の連絡を受けた四国電力伊方原発のキャスクは、再製造の処置がとられています。

原子力規制庁・委員会の対応

 フランスと比較して日本の原子力員会の対応を検証します。不正を受けて原子力規制庁が対応したのは、2022年12月14日に、電力会社が参加している原子力エネルギー協議会(ATENA)から、以下の説明を受けただけで、独自の検査はしていません。
 

ATENAから以下のとおり説明があった。
 
・現時点において、国内の原子力発電所で不適切行為が確認されているのは、2022年11月14日に新たに判明したものを含めて、「タービンロータシャフト」及び「使用済燃料乾式貯蔵容器」であり、いずれも出荷前であったため、原子力発電所で使用されていない。現在、日本製鋼所において調査継続中のため、今後の調査状況について引き続き把握するとともに、不適切行為が確認された際には、厳正に対応していく。

 この説明に対し,「 原子力規制庁から、新たな事実が判明した際には報告するよう伝えた。」で終わっています。
 
 原子力事業者や製造会社が不正を働いた時に、原子力規制員会はどのように対応することになっているか問い合わせたところ、ガイドラインに従って判断するとのことでした。
 原子力規制委員会が「原子力規制検査において特定された法令違反について、原子力規制庁において規制措置を立案するための基本的な考え方及びプロセスを示した」のが、原子力規制検査における規制措置に関するガイド(GI0004_r2)として、2022年6月16日に改定され公表されています。


規制措置

違反の深刻度レベル
SLⅠは、原子力安全上又は核物質防護上重大な事態をもたらしたもの、又はそうした事態になり得たものに適用する。
SLⅡは、原子力安全上又は核物質防護上重要な事態をもたらしたもの、又はそうした事態になり得たものに適用する。
SLⅢは、原子力安全上又は核物質防護上一定の影響を有する事態をもたらしたもの、又はそうした事態になり得たものに適用する。
SLⅣは、原子力安全上又は核物質防護上の影響が限定的であるもの、又はそうした状況になり得たものに適用する。
軽微は、原子力安全上又は核物質防護上の影響が極めて限定的なもの、又はそうした状況になり得たものに適用する。

違反の深刻度を評価
a. 原子力安全又は核物質防護に実質的な影響を及ぼすものであったか
b. 原子力規制委員会の規制活動に対する影響を与えたか
c. 意図的な不正行為があったか

 M&E室蘭の不正は、特別調査委員会の報告では「意図的に実施されたデータ捏造に当たる」と評価され、近年不正の件数が増えていることも報告しています。当然、原子力規制検査においては、データの改ざん、ねつ造、虚偽記載があれば、すべての前提が崩れ、各種試験の結果にも影響し、品質マネジメントシステムが機能しないため、規制措置を検討するべきではないでしょうか?
 特に、これから実施される使用前事業者検査では、「品質マネジメントシステム」及び使用許可のうち「品質管理に必要な体制の整備に関する事項」についても、チェックすることを期待します。

M&E~もう一つの疑惑

 移送しその後50年間貯蔵するキャスクについて、今年に入って動きが活発になっています。日本原子力発電が使用する三菱重工業製のキャスクが2種類追加されたことと、今まで使用予定とされていた「大型キャスク(タイプ2)」「大型キャスク(タイプ2A)」の2種類から前者の「大型キャスク(タイプ2)」が突然、削除されたことです。
 さらに、残った「大型キャスク(タイプ2A)」が日立製作所のHDP-69B 1号機であることが最近明らかになりました。そこで、突然使われなくなった「大型キャスク(タイプ2)」についても、調査しました。


削除された大型キャスク(タイプ2)

 「大型キャスク(タイプ2)」は、2013年の BWR13号機の申請から2015年BWR18号機の合格まで6基が準備されていましたが、今年になって突然削除されたのはどうしてなのでしょうか?
 これらのキャスクの溶接は、M&E室蘭で行われていました。何らかのトラブルがあり削除されたと考えるのが妥当ですが、理由は説明されていません。キャスクの値段は、2003年ころの見積もりでは1基5,000万円と言われていましたので、3億円以上の損失になるはずですが、誰が支払ったのでしょうか?
 削除されたキャスクより以前に作製された古いキャスクが使われることも、疑惑の原因となっています。

まとめ

・市民・県民が安心できるよう安全第一の姿勢に立ち、キャスクについての情報は全て公開すること。
・市民・県民の疑問にすべて答えること。
・貯蔵の事業者、核のゴミの所有者、キャスクの所有者がばらばらで、損害賠償の責任が明確になっていないので、法的な整理をしたうえで事業を考えること。
・原子力製品については、自動車や電気製品以上に、小さな不正から重大な不正まで公開し品質管理システムをより厳格運用すること。

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