図1

症例報告をするために何が必要か

1.はじめに

 臨床実践をすることは業務であり我々の責務ですが、その報告は自己研鑽の域を出ません。しかし、作業療法士同士、あるいは他職種に自分たちが行っている実践についての説明を求められることはありますし、日々の問題や疑問を自身だけでとどめることなく、他者の意見を得ることで、自分と他者双方にとって多くの学びにつながることがあります。

 今回、この記事では、誰もが経験する「学生発表」「部内発表」で行われる症例報告を例に、学会発表とどのように違うのか、外部に出すためには何が必要なのかについて述べていきたいと思います。

2.学生発表と部内発表

 学生発表は、臨床実習、評価実習で実践したことをA3用紙1枚(A4用紙2枚)のレジュメあるいはスライドにまとめて報告するものです。

学生発表の特徴
・症例を選べない(期間が限られているため)
・初期評価と最終評価の期間が実習期間に依存する などなど

学生発表の目的は「この制限下で症例報告の疑似体験をすること」です。

そこには、どんな評価が必要か、評価結果から目標、計画を立案するには、という思考過程が必要になります。

なかでも、学生発表では「思考過程」に着目した議論が行われます。

部内発表では、作業療法士のみの勉強会と、理学療法士、言語聴覚士を交えた全体の勉強会があると思います(施設体制に依存しますが)。
部内発表の目的は「部内の知識共有」となります。
症例報告をされる際には、自分が悩んでいる症例や、新しい実践を試みた症例、実践中に興味深い事象がみられた症例など様々な目的を考えることがあると思います。重要なのは、部内の人たちにとって意義があるかどうかを考えている点です。

 部内発表では「部内の知識水準の向上」に着目した議論が行われます。

3.学会発表へ挑戦するためには

聞き手が違う

前述した学生発表と部内発表と、学会発表等の外部発信の大きな違いは「聞き手」です。つまり、聞き手が部内の人たちから、学会参加する人たち、学術誌を読む人たちに変わることで、発表するために必要な水準が変わります。

前者の発表の場合は、部内で「こんな報告をなんだけどどうかな?」と聞いて、「良いんじゃない?」「面白そうだね」と言われれば十分発表に値しますが、学会発表や論文投稿にあたっては「文献レビュー」を行い、学術的に意義のある報告かどうか、を確かめなければなりません。この文献レビューが初学者にとっては非常に難しく、悩みのつきないタネです(僕自身もそうでした)。文献レビューの方法については、別の記事で詳しく書く予定です。

話を戻すと学会発表のためには、文献レビューを行い、聞き手にとって意義のある報告目的を立てることが重要となります。

報告目的の例は、以下の通りです。
①(自分の施設ではなく、一般的に)珍しい症例
②よくある問題症例、難渋症例に対する効果的な実践報告

①は積極的に報告すべき内容です。疾患自体が珍しければ、こちらは処方の段階で症例報告の準備に取り掛かりましょう。特に診断が適切か、治療や評価は何が行われているか、といったレビューが重要で、初期評価の項目を十分に吟味してください。また、報告がないことが前提になるため、適切と考えられる評価項目を組み立てることが「報告の意義」になりますので、論理的に考える必要があります。悩んだときは、初期評価の段階で、医師や先輩に相談しましょう。

②は、普段から関わる症例でも報告できる方法です。これは施設に限らず、報告できますので多くの方にお勧めします。ですが、その分レビューが厳しくなりますので、覚悟して取り掛かりましょう。効果的な実践を報告するときには、以下のステップで、どこを工夫したかを明示しましょう。

例えば、新しい評価方法を使った、目標設定を工夫した、実践に新たな機器を使用した、などです。導入や関係確立に難渋する症例であれば、その点の工夫も明示しましょう。

学会発表では、これらの目的が明確であるほど、多くの議論を交わすことができます。言いたいこと、伝えたいことを明確にする、ということを意識しつつ、それを支える根拠を示せるように評価を徹底することを忘れないでください。

4.挑戦と責任

これが、本記事で最も伝えたいことです。

皆さんの多くは、学会発表をするのに多くの不安や壁を感じていると思います。前述したように、聞き手が異なることは事実です。

上記の作業療法のステップにおいて、臨床で多くの工夫をなされていることかと思います。この自分で当たり前だと思っていることが、実は全国的には知られていない良い工夫であることは少なくありません。この自由な発想こそ、臨床家の醍醐味ですし、論文だけ見ていても思いつかない落とし穴だと思います。

学会発表は気軽に挑戦してもよい

僕は誤解を恐れずに言えば「学会発表は気軽に挑戦してもよい」と考えています。と言うのも、学会は情報共有の場ですし、その実践や効果が正しいかどうかは、聞き手が判断すべきかと考えます。しかしながら、ミスリードは怖いので、自分が正しいと思えるものを内省し、根拠を深め、自分で責任を持って報告します。

挑戦をするとともに、自分のしていることに責任を持つ。
これが、症例報告をするために必要なものです。

本記事は、皆さんの勇気を後押しするために、無料としました。

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