エリクソン研究会記録『ミルトン・エリクソンの心理療法セミナー』P217L5~219L11 第31回

※本記事はめんたねにて2013年3月〜2017年6月まで行われたエリクソン研究会のメモ書きを文字起こししたものです。テキストは『ミルトン・エリクソンの心理療法セミナー』を使用しました。メモ書きなのでテキストを読んだ前提でないと、わからない書き方になっていることにご注意ください。
また、エリクソン研究会では現在別のテキストの『2月の男』を読んでいます。
http://mentane.net/workshop/pg167.html

P=ページ数 L=行数
読んだページ数P217L5~219L11

概要
拒食書の少女バービィの話を終えたあと、エリクソンは生徒に箱をとらせた。そして、自分の生徒について話し始めた。その生徒はかんしゃく持ちの精神遅滞の娘が居る家族を治療していた。
エリクソンはその生徒が医者として威厳があり、専門家であることが問題であると言い、どんなやり方でも良いので、患者に何かをやらせることとアドバイスをした。
アドバイスの結果、精神遅滞の娘はエリクソンが取らせた箱の中にあるような紫色の牛の置物をつくるようになり、かんしゃくをおこすことも無くなった。という話であった。
そのあと、スクオーピーク登るという月曜に出した課題について、実行したかどうかを参加者たちに聞き、登っていない参加者に対しては何度もやりとりをした。

・P217L9~10
「ちゃんとして、威厳があって、しかも専門家であること」が何故かんしゃくの原因なのか?

威厳があって専門家である、正しい医者の指示の出し方はパターン化されている。医者らしくカウンセラーとして適切な指示にエリクソンは興味が無い。そういう指示に囚われている間は治療が出来ないと考えている。

極論を言ってしまえばエリクソンは逆立ちして患者が治るなら逆立ちをする。普通の医者は逆立ちをしない。専門家としての枠からはずれた指示は出さない。

どう言う治療がいいのか?
どんな形でも良いから患者の助けになることだ。適切な対応では患者の役に立てない。医者として適切であることと、患者の訳に立つことは両立するとは限らない。

心理療法とはそういうものばかりだ。
通り一遍の働きかけでは治らない。エリクソンはとにかく何でも良いから患者に変なことをやらせる。「役に立つことであれば何でもやるという見方で患者を診よ」とエリクソンは言いたいのだろう。そのように見方を変えると、自ずと患者への質問も変わってくる。

役に立ちそうなことを患者にやらせろとエリクソンは言いたいのではないか?心理両方は患者のパターンが患者の問題に繋がっている。患者のパターンを変えるために指示を出してとにかくやらせる。何かやらせることができれば、それだけで大きな変化で、治療的な効果がある。大抵は指示を出してもやらない事が多い。何かやらせて動けば良い。そこから変化が起こせるという考え方。まさしく、エリクソンはテキストで言ったように、
P217L10「あなたの好きな、もしくはできるどんなやり方でもいいいいから、患者に何かをやらせることです」ということ。

余談だが、宗教的な権威は何かをとにかくやらせるという事にはとても便利に使える。何かをとにかくやり始めたら、やり始めた時点で大きな変化が起きる。その変化は思考行動の変化のチャンスになる。

・P217L15「ところで、なぜそれが紫色のなったのかわかりません」はどういう意図で言ったのか?
この話を聞いてワークショップの生徒はそのあと何をやるか?という視点で考えると良い。

エリクソンはなぜ紫色の服を着ていることを話すのか?エリクソンは変なモノを好んで集めている。特に紫色のモノ。こういう話をエリクソンがワークショップですると、生徒の何人かが紫色のものを送ったり、作ったりする。
そうして送られたモノをエリクソンが見ると「この生徒はこの形(このように話すこと)で暗示に入るのだな」と思う。生徒の暗示に入るパターンも見ている。

また、この場合だとワークショップでの話を思い出すためのマーカーの様なモノか?

以下のようなことが考えられる。
①紫色のモノを見たときにエリクソンのこの話を思い出すかも知れない
②エリクソンが指示を出し指示に従い治療者が、自分の患者に働きかける事で治療が上手く言うという話をしている。
つまりエリクソンは生徒を動かしたいと考えている。なぜエリクソンの言葉で人は動くか?エリクソンは患者(相手)が本当に動くのだと思って指示を出している。というのは大きい。患者の動かし方を生徒にやって見せて、あなたたちもこんな風にやったいいよと生徒に教育している。

・P217L16
「いいビデオが撮れましたか、ジェフ(ゼイク)」というエリクソンの質問の意味は何か?
重要な話をする前に気をそらす狙いか?

エリクソンは重要な話をする前に気をそらすことをやる。重要な意識は意識で聞かせるのでは無く、無意識に落とし込みたいからだ。話を変える直前の話題というのは流れやすい。

意識で抵抗できてしまうと、その話をはねのける余地が生まれてしまう。無意識で記憶されると、抵抗が起きず、自分の頭と混ざってあたかも自分で考えたかのように思うので抵抗が起きない。

特にゼイクに教育しておきたかった。お前に言っているんだぞ!と。

エリクソンは話の途中で謎を投げて集中させる。話を聞いている人が?となったところで暗示をかます。

良いビデオ
原文ではget a picture
get a picture(把握する)の言葉遊びか?
ビデオにかけてゼイクはこの話を把握してますか?と言葉遊びをしているのか。エリクソンは良くやる手口。言葉遊び、1つの単語が複数の意味を持つ物言い。

エリクソンはハッキリと何かを伝えたいと考えているというよりは、相手からある考えを引っ張り出してきたいと考えている。例えば愛媛と言われたらみかんを連想するように。言葉を投げかけることで相手からの連想や考えを引き出したい。

ハッキリ何かを伝えてしまうと反発される可能性がある。それよりも自分で考えて自分で気がつかせた方が抵抗も無いので良い。あいてにパズルを解くためのヒントを出している感じに近い。そしてパズルを解くことに向かわせて、ヒントを出されたことにすら気がつかずに、解くことが出来ればそれは本人にとって嬉しいことだから離れない。

エリクソンは相手がこう動くと決め打ちで考えてやっているわけでは無い。

例えばエリクソンは患者とこんな会話をする。
エリクソン「どうですか?」
患者「何について?」
エリクソン「あなたの望むとおりに」
ここからも解るようにどっちに話がエリクソンは転がってもいいと考えている。患者が自分で気がつく方が大事。

エリクソンは生徒に「あなたはいくつも大切なことを学ぶでしょう」と言うが、中身の言及はしない。こう言われると相手は「自分は何か大切なことを学ぶのだ」と思って勝手に自分で学ぶようになる。

・P217L5
何故エリクソンはスチューに箱をとらせたのか?
スチューは理屈っぽく頭でっかちな人。そしてワークショップ中にそれほど発言するタイプではない大人しい人。

これまでエリクソンは体を動かさせて指示に従って行動させるという話をしていたが、実際に話していたことをスチューに体験させやってみせている。実際にやってみせ、相手に体験させるのが狙いか。

・精神遅滞の娘は牛を作ると何故かんしゃくを辞めるのか?
エリクソン系の人たちの考え方で、症状はコミュニケーションというものがある。症状には目的があってその目的の手段として症状があるという考え。かんしゃくを医学的な理解だけで見るとやれることは薬物投与くらいだ。ここではコミュニケーションの一部としてかんしゃくを解釈している。出来の悪い子が万引きや非行に走って親の注目関心を集めるみたいに。

このクライアントは精神遅滞があっておそらく、馬鹿にされて育ってきた。かんしゃくを起こせばその時はケアされるということを学習し適応した。そこでかんしゃくが無くてもほめられる状況設定(牛を作る)をすれば、そこにエネルギーが集中してほめられるのでかんしゃくを起こす必要がなくなる。

実際にエリクソンは「彼女は自分が何かをやれると解っている」「他人が賞賛することをやれる」と言っている。一度の体験で良いことだと学習すると繰り返し同じ事をやる。ほめられるとうれしいので本人の中に残るのだ。

・P218L6
「あなたの名前はアリゾナですか?」の意図は?
催眠までしているので間違えるわけが無い。仮に自分自身にこんな問いかけをされたらどう思うだろうか?意味が解らなくてぎょっとするのではないだろうか?混乱技法の一種と解釈できる。

不明な質問をしたあとに、答えられる質問をすると、意識のガードが不明な質問の所為で緩くなって、そのあと投げられた質問が本人に入りやすくなる。ここではアリゾナ大のことを質問したが、これは答えられるわけだ。

溺れたときに掴みやすいモノを掴むイメージ。

ザイクがエリクソンと初めて会ったときに、エリクソンはザイクをじーっと見つめるだけの事したらしい。エリクソンは日常的に混乱技法を使っていた。

・P219L11
「知る必要があるますよ」の意図は?

サリーは場所を知らないから行かないと言った。だから場所を知る必要があると言った。Aに問題があるのならAを克服させる。暗に「行け!」と言っている。しかし「行け!」と直接的には言わない。エリクソンは半分止めたような言い方をする。もう半分は相手に想像させる。

・P218後ろから4行目
何故「七年」と大きな声で言わせたのか?
①エリクソンの耳が遠い
②人が小さい声を出すときは大抵自信がない。
ハッキリ言ってしまったら、それをもとに非難されるかも知れないと不安がある。エリクソンは解らないなら解らないと大声で言え!というスタンス。同じく解っていることは解っているとはっきり言えというスタンスだ。責任をもってハッキリ発言させたい。

エリクソンは宿題を出して宿題をやらないと本気で驚いてみせる。当然するはずなのにという態度で。そうした文脈を態度に持ち込んで相手を動かす狙い。P218最後「他の質問は聞いていない」というのも相手に圧を加える。ちゃんと質問に答えろと。

ここでサラはエリクソンの追撃を和らげようとしているがエリクソンは逃がさない。サラが笑うのはストレスを緩和させようとする戸惑いの笑い。

・何故サラにスクオーピークに行くように迫ったのか?
混乱技法か?混乱の中での狙いは?
行くことでワークショップ思い出す。とにかく行動を起こさせたい。やりなさいと言ってやってもらうという形を作りたい。どうやったら人はやるのか?というやらせ方をやってみせている。エリクソンがこういう言い方をするのは、クライアントの自発性を引き出したいから。

ここから先は

0字

¥ 100

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?