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「死の商人」の扉開く次期戦闘機輸出大量輸出で利益狙う “地上攻撃用”で販売も〜すべてがNになる〜

2024年3月27日【3面】


 政府は26日、英国、イタリアと共同開発する次期戦闘機(GCAP=グローバル戦闘航空プログラム)の輸出推進を閣議決定しました。殺傷兵器の最たるものである戦闘機を大量に売りさばく、文字通り「死の商人国家」への扉を開こうとしています。(斎藤和紀、田中智己)

 次期戦闘機は、日本のF2戦闘機(約90機)と、欧州・中東9カ国に配備されているユーロファイター・タイフーン(約680機)の後継です。相手のレーダーに映りにくくする「ステルス性」が特長の「第5世代」を超える「第6世代」戦闘機とされています。

 防衛省は次期戦闘機について、高いステルス性にとどまらず、「量に勝る敵に対する高度ネットワーク戦闘」能力を強調。戦闘機や無人機が持っている敵・味方の位置情報をネットワークで共有し、誰かがロックオンすれば最適な位置にいる別の機体がミサイルを撃ち、相手を撃破するというものです。戦闘機や無人機を「一つの群れ」のように機能させるものです。

 米軍などとの相互運用も狙っています。2022年の日英伊共同首脳声明には、米国や北大西洋条約機構(NATO)などとの「将来的な相互運用性」が「この共同開発の中心となる」と言及。実際に、無人機の自律飛行に関する人工知能(AI)技術を日米で共同開発し次期戦闘機と連動する無人機を、米軍と共同運用することも想定しています。

輸出が大前提

 こうした戦闘機の開発にはばく大なコストがかかるうえ、三菱重工をはじめとした参加企業も巨額の利益を見込んでいます。そのため、大量輸出による利益確保が次期戦闘機開発の大前提となります。シンクタンク「イギリス王立防衛安全保障研究所(RUSI)」は23年9月の論文で、GCAPには巨額の費用がかかり、「GCAPを財政的に実現可能にするカギは、輸出だ」と指摘。事前の交渉に携わった日本政府関係者からも「輸出しないなら英国は乗ってこなかった」(防衛省)「輸出は大前提」(外務省)との声も聞かれます。

 財政制度等審議会の資料によると、ユーロファイターの開発費は約2・3兆円。これに対して「史上最も高価な戦闘機」とされる米国のF35ステルス戦闘機は6・1兆円です。これらより高い性能を目指す次期戦闘機は、さらに高額となる恐れがあります。

 そもそも戦闘機を大量に輸出するためには“戦争で使われた実績”が必要です。防衛省元幹部の田中幸雄氏は、こう指摘します。

 「戦闘機は戦域で実際に活躍して、その成果が世界に誇示できると輸出できるようになります。英国のタイフーンも2000年代に入り、NATOの軍事行動における地上爆撃戦闘での実績によって輸出の道が開かれました。買う方にしてみれば、戦闘機は高額な装備品なので、実際の戦闘での実績がないと買ってくれません」(『次期戦闘機開発をいかに成功させるか』)

 岸田文雄首相は次期戦闘機について「優れた空対空能力を有しているのが重要だ」(5日の参院予算委員会)とあくまで「防空」兵器だと強調しますが、田中氏は「各国が求めているのは、空対空よりも地上用攻撃戦闘機と言われている。地上攻撃用の各種ミサイル、爆弾を搭載できるようにしないと他国から見て魅力のある戦闘機に映らないだろう」と指摘します。

 実際、ユーロファイターはサウジアラビアに輸出され、15年のイエメンへの空爆に使用され、多数の一般市民が犠牲になりました。英国なども途中から対地攻撃機能を付加し、現在は「マルチロール(多任務)」機として運用しています。

阻止の世論を

 日本から輸出する機体が、相手国のニーズに応じて敵基地攻撃機に改修される可能性は排除されません。

 ただ、配備の目標時期は2035年以降で、輸出段階に入るのはさらに数年後となります。次期戦闘機輸出を阻止するための世論を広げる時間があります。

自公さらなる解禁視野に

 殺傷兵器の輸出を巡って、政府は今回の「三原則」改定および昨年の改定で(1)ライセンス生産品の銃や弾薬など(2)戦闘機のエンジンなど部品―の輸出を容認しました。残された“課題”は、米国以外の国への武器輸出を認めている非戦闘分野の「救難・輸送・警戒・監視・掃海」の5類型の見直しです。

 昨年末の改定では「本来業務」や「自己防護」に必要な場合、殺傷武器も搭載できることを明確化。さらに、武器輸出のルール見直しに関する自公実務者協議(WT)の小野寺五典座長は、改定に向け政府への提言案をまとめた12月13日の会合後、記者団に「わが国の安全保障に資する目的を前提にどのような類型にするのか、類型がない方がいいのか。これから議論する」と述べ、5類型見直しの議論を継続させる考えを強調していました。

 自民党は5月にも公明党との協議を再開させたい考えです。自民党の関係者は、「そもそも類型自体いらない」と打ち明け、大幅な緩和を狙っています。

 「撤廃」を狙う自民と「項目追加」を主張する公明。公明党の山口那津男代表は26日の記者会見で、「慎重に議論していくべきだ」としましたが、実効性のない「歯止め」で次期戦闘機輸出を容認したことから、もはや“結末”は見えています。

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