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森友事件 赤木雅子さん文書開示訴訟の争点弁護団・坂本団さんに聞く 来月14日 大阪地裁判決〜すべてがNになる〜

2023年8月25日【3面】

あるかないかも言わず 国の主張どう判断

 学校法人森友学園への国有地売却をめぐり、公文書の改ざんを強要されてうつ病を発症し、自ら命を絶った財務省近畿財務局職員の赤木俊夫さんの妻、赤木雅子さんが、改ざんに関するとみられる行政文書の開示を国に求めた訴訟。大阪地裁は9月14日、判決を言い渡します。文書があるかないかすら明らかにしない、国の「存否(そんぴ)応答拒否」処分の是非をどう判断するか、注目されます。経緯を振り返り、赤木さんの弁護団の坂本団(まどか)弁護士にポイントを聞きました。(安川崇)

 今回の訴訟の焦点は、森友学園問題に絡んで検察に任意提出された資料について、国が「存否応答拒否」できるかどうか、です。私たちはできないと主張しています。

 存否応答拒否そのものは、情報公開法で認められています。それが必要なケースがあるからです。

 例を挙げると、ある有名人が特定の病気、例えば結核にかかったのではないかといううわさがあったとします。誰かが国立病院法人に「その人物の結核治療に関する資料」を開示請求したとします。

 個人の病歴は不開示情報なので、仮にその資料が存在したとしても開示はされません。しかし、「不開示情報だから不開示」と通知すると、その情報が「ある」ことが分かってしまう。「不存在」と通知すると「ない」ことが分かってしまい、個人の病歴の一部が明らかになる。こういう時に存否について応答を拒否します。

「公知の事実」

 では森友学園問題はどうか。公文書が書き換えられ、それを強要された赤木俊夫さんが自ら命を絶ったこと、検察が捜査し、財務省と近畿財務局の幹部らを不起訴としたことは、随時、さんざん報道された「公知の事実」です。「捜査が行われたこと」は誰でも知っています。

 それを今さら「存否を答えると『ある』ことが分かってしまう」と主張しても通りません。これに尽きます。

 国は「捜査の対象となった文書が特定されると、捜査機関の具体的な活動内容が推知される」とも主張します。しかし、それは不開示決定書を書くときに文書名を詳細に書かなければ済む話です。

 また国は、文書の存否を明らかにすると「将来発生しうる同種事件において…将来の捜査機関による捜査に支障を及ぼす」と強調しています。「将来発生しうる同種事件」とは何でしょうか。

 森友学園事件では、公文書が改ざんされ、公務員が有印公文書変造などの容疑で捜査されました。「また改ざんをするのですか」と聞きたくなります。

安倍氏答弁で

 私は大阪市情報公開審査会の委員を務めました。現在は堺市の審査会会長です。各自治体の条例で、不開示や存否応答拒否に対する不服申し立てがあった場合は、審査会に諮問されます。審査会は実際に資料を見て、判断が妥当だったかを審査し答申します。

 その経験からも、存否応答拒否のケースは大多数が、冒頭に挙げた例のように「仕方がないな」というものでした。

 財務省の文書改ざんは、当時の安倍晋三首相が国会で、自身や妻が関係していたら「総理大臣も国会議員も辞める」と答弁したことから始まりました。国はそれにまつわることを、ほんの少しでも明らかにしないと決めているのでしょう。

 裁判所の判断に期待します。

■今回の訴訟に至る経緯

 財務省近畿財務局(近財)職員だった赤木俊夫さんは2018年3月に自ら命を絶ちました。赤木雅子さんは今回の訴訟に先立って、20年3月に国と佐川宣寿・財務省理財局長(当時)を相手取り損害賠償請求訴訟を大阪地裁に提起。目的は「俊夫さんが自死に至った原因と経過の解明」でした。

 この中で雅子さんは、俊夫さんの元上司が存在に言及していた通称「赤木ファイル」の開示を求めました。俊夫さんが職場で作成した、改ざんの経緯の記録でした。

 当初、国はファイルの存否すら明らかにしませんでした。しかし雅子さん側の申し立てを受けた裁判所も提出を促したことから、21年6月にようやく開示しました。

 A4判500ページを超えるファイルには備忘メモや多数のメール、改ざん前後の決裁文書などが含まれました。改ざんを命じられた俊夫さんが上司や本省に「抵抗」「抗議」したことなどが記されていました。

 しかし、ファイルは改ざんの経過を俊夫さんの立場から記録したもので、「改ざんの指示が財務省内でどんな過程を経て近畿財務局の現場に伝わったか」は明らかになりませんでした。

 このため雅子さんは同年8月、「改ざんをめぐる捜査のために財務省と近財が東京地検と大阪地検に任意提出した行政文書」の開示を請求。しかし財務省と近財は同年10月、再び文書の存否すら明らかにせず、不開示としました。理由は「文書の存否を答えれば捜査などに支障を及ぼす恐れがある」でした。

 雅子さんはこれを不服として同月、不開示処分の取り消しを求めて、今回の訴訟を同地裁に提起しました。

 先行した損害賠償請求訴訟は、国が雅子さんの訴えを丸のみする「認諾」で手続きを終了させました。佐川氏を訴えた部分は続きましたが、地裁で雅子さんが敗訴。控訴しています。

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