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溶ける公教育 デジタル化の行方(1)教室見つめる5台のカメラ〜すべてがNになる〜

                                   2022年5月5日【1面】

  大阪府箕面(みのお)市立箕面小学校には少し変わった教室があります。子どもたちの机が整然と並び一見普通の教室ですが、天井を見上げると5台のカメラが目に入ってきます。3年前から同市がコニカミノルタと提携して取り組む文部科学省の実証事業。昨年は同小学校を含め市内4校で実施しました。

行動解析

 教師と子どものそれぞれの発話時間、前を向いている子どもの割合や時間を解析し、子どもの発話を引き出す授業になっているかといった授業改善に使われます。主に研究授業で利用しているといいます。
 データは教室内に設置されたサーバーで個人が特定できないよう自動的に画像処理され、解析のためコニカミノルタに渡ります。早ければ2~3日で戻ってくるといいます。
 同市の教育委員会担当者は、ベテラン教師の大量退職を間近に控え、若手教師の実力をつけることが目的だといいます。利用した教師からは「思っていたより自分の発話時間が長かった」「実感と比べ挙手が少なかった」などの感想が出ているといいます。「子どもたちはすぐにカメラを意識しなくなった」とも語ります。
 市教委は当初、カメラの顔認識システムを出欠確認に使おうとしたものの、顔情報の蓄積が必要になるため個人情報保護の点から見送ったといいます。代わりにコニカミノルタが提案したのが授業中の行動解析でした。本紙の取材に同社は技術的にはカメラでの出欠確認は可能だと回答しました。
 欧米でのデジタル技術による個人情報収集の動向に詳しい内田聖子さん(アジア太平洋資料センター共同代表)は、デジタル技術を適切に扱えるようになるための教育は必要だと語ります。一方で箕面市の実証事業については子どもへの影響を懸念します。
 「欧米では個人の行動を把握することは民主主義とは相いれないという考えが根付いている。カメラに自分の行動を撮られることは本来正常な状態ではない。子どもたちが撮られる状態に慣れること自体が問題ではないか」
 欧米ではプライバシー保護の観点から公共空間へのカメラ設置を規制する動きが起きているのに対し、日本ではあらゆる空間にカメラが設置され、その状況に市民が慣らされているといいます。

民間参入

 新型コロナ危機を前後して急速に進む教育のデジタル化が、公教育の現場への急速な民間企業の参入をもたらしています。教育のデジタル化を主導する経済産業省は2018年の提言で、デジタル化によって「民間教育と公教育の壁」が「溶けていく」という未来の教室像を描きました。公教育の現場でなにが起き、なにが起きようとしているのかをシリーズで追います。(つづく)



 

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