FGOの自由

表現規制に關するもので久々に自分の生活圈に直結する案件が發生した。自分も遊んでゐる中國版のFGOで大幅な規制が入り、中國由來の從者の名前や音聲、露出の多いイラストが削除されたらしく、自分のアカウントでもインしてみたところ、確かにさうなつてゐることが確認できた。この手の案件に於ける日本國內のまとめは正確でないことも多く、例へばこの規制を受けた武則天の戰鬪グラフィックがハサンに變つたと云ふのは少なくとも昨日の時點では僞であつた。

武則天は中國の國營放送にてて「紫の髪の毛でツインテールの武則天は歷史認識をゆがめる」と名指しで批判されたらしく、これを受けて中國版の運營が急遽、暫定的に對應したされてゐる。とは云へこの豫想が正しい場合、この暫定をどう正式對應に落とし込めるかについては想像するのが難しいのと、本家の日本が中國の現狀まで考慮に入れると自由に新イベントや新キャラクターを作れないと判斷すれば、中國版はサ終になつてもをかしくはなささうな雰圍氣もある(具體的にどう云ふ契約でなされてゐるかは全く知らないので單なる素人想像だが)。

この一連の出來事が中國由來の不自由さの一大事として特に日本では語られてゐるやうだが、これくらゐは別に大したことはないと云ふべきだらう。例へば日本ではたまたま過去に實在した人物の性別をひつくり返して、(ある程度であれば)露出を多めのキャラクターとして作成してもそこまで問題にはならないだけで、モザイクをかけなければ出すことができないものが存在することなどは、しばしば忘れられてゐる。その限られた自由の中で、いかに賣れるものを作り出すか切磋琢磨してゐると云ふ點ではどこの世界も大差はない。從つて日本のユーザは、日本の自由の枠內の慣行とは異なる中國のそれとの摺り合せで、自分たちが慣れ親しんで消費してきた自由の枠內の一部が削り取られることを危惧してゐるだけに過ぎない。

一方で自由の枠が自分の屬する圈內のそれと異なる場合、全く違ふ景色が見えてくる。そもそも自分が中國版のFGOをやつて日本版をやつてゐないのは、日本版は當時PCで起動することができなかつたからである(※)。日本は自己責任を無視した苦情を恐れてか、想定してゐない環境でゲームを遊ぶこと自體を阻止する方向に努力する傾向がある。これはPSPの頃からさうである。例へば自由に自作のバイナリを走らせやうとすると、有料のゲームを無料で遺法に入手して遊ぶために行はれる制限解除と同樣の手段を取る必要があり、この兩方がごちやまぜにされて批判されると云ふ事體が起きた。さうでなくとも、與へられたソフト・環境だけでお行儀よく遊ばないこと自體が下品だと見做されることもある。利用規約に書いてあるのだからと云ふ主張もよくなされるが、その規約は果たして正當なものかどうかについての評價もする必要があるだらう。もしさうしないのであれば、當局がこの表現はだめだと言つてゐることに對しても無批判に從ふべきであり、今回のやうな事體が起きても當局に對して批判すること自體が下品な行なひの主張となる筈である。とは云へ中國は未成年のゲーム時間制限の關係で、外國人が週のプレイ時間制限を取拂はうとするとパスポートのコピーを送らないといけない(さうしないと中國人の子供でないことの證明ができないので、數時間以上起動すると强制的にタイトル畫面にもどされる等が起こる)と云ふ固有の面倒さはある。が、それでも日本のやうにどうあがいても想定外の環境では遊ばせないやうにする意志に比べると、まだマシに思へてしまふ。

その意味ではどう考へても商業的にはマイナスでしかないにもかかはらず、プロパガンダ的にこの表現は許さないと云ふ意志の發露としてなされた一部の表現に對する今回の强硬措置は、むしろ好意的に思つてしまひがちなところがないといへば噓になる。しかし一方でFGOはガチャの澁さとプレイヤー人口の多さとゲーム自體の盛り上がりで最高レアリティの價値が擔保されてゐるところがあるので、中國でのブームが下火になつてしまふとその價値が崩れてモチベーションも必然的に下がつてしまふと云ふこともまた事實である。そんなわけでこの事體に對しては複雜な心境になつてはゐるが、原則としては自分の嗜好よりもプロパガンダの方を優先すべきであらうから、最終的な結論出力としては、「大したことはない」と言ふ他ない。

(※)現在は日本版もPCでできるやうだが、數年前の日本版FGOはPCでの起動を檢出すると自動で落ちるやうな機構が組込まれてゐた。中國版はapkがストア經由の配布ではないこと、中國はエミュレータ開發がさかんでゲームとエミュレータの親和性が高い傾向がある(ゲーム側がエミュレータでのプレイを想定してゐるかのやうな廣吿もよく見る)のでもしかしたら起動するのではと試したところ、案の定動いたのでそのまま中國版に定住することになつた。

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