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黑川杯總轄

イベントは立上がりに限つて云へばしやうもない流れから出てきたものである。舊知の間柄の知人が「檢察廳前でテンピン麻雀やりたくない?」と書込んでゐたので「參加豫約で」と名乘り上げた邊りから始まる。私は10年程前からtwitterを愛好してゐたので、70年代初期(註:平成25年頃)のtwitterがまだ政治化する以前、クラスタと呼ばれる島宇宙內で立上がるオフ會の文化にも馴染みがあつたことから、昔を懷かしんでTwiPlaを用ゐてイベントページを立上げると云つた、こゝまでは本當にノリと勢ひだけで作られた企畫であつた。60年代初頭(註:平成15年頃)の2ちやんねるに於けるオフ會文化のノリをどことなく彷彿させたのもその邊りの影響があらう。しかし實際に實行するとなるとリスクが大きいので、手積み麻雀ができるのみならずこの手の行動も難なくこなせる精銳部隊を集める必要があり、立上げ時點では實現見込みは然程󠄁大きくはなかつた。

私の普段の擴散力からして3桁RT程度だと思つてゐたが、思ひの外反響があり、なんとか實現させられないかと本格的に動き始めることになつた。4桁RTを獲得したのは實に久しぶり(と云ふか2回目である)のことで、イベントページに言及した有名人のツイートも4~5桁RTされてゐるのを觀測、更に週刊誌のネット記事にもこの盛上がりが報道され、私の元にも何件か取材の問合せが來るやうになつた。イベントページは每日少しづつ更新し、段々情報が殖えて行く盛上がりの演出と實際に敢行する際に少しでもリスクを減らせるやうに文章の調整行つた。メディアに對しても徹底的な情報統制を行なひ、いつ敢行するかの情報が外に漏れないやうに試みた。開催前に唯一取材記事として上つたJcastニュースに於いて、やるのかやらないのかぼかした內容になつてゐたのもその邊りの事情による。

打つ面子に關しては「"舊知の間柄のような氣がした人"にだけ聲をかける」としたのも逮捕對策である。本件は逮捕リスクが當然あるので、いきなり現場に來た人にそのやうなリスクを負はせる訣にはいかない。そこで事前に話が出來、諸々のリスクを豫め承諾できる精銳メンバーを集めることにしたのである。面子以外のギャラリーに關しても基本的に面識がある人にだけ情報統制をかけた上で知らせ、警察對應や撮影等の陣營を調へた。大々的に吿知して人だかりを作ると云ふ作戰も勿論あつたが、事前に吿知した場合は警察に檢察廳前を封鎖󠄁されてゐる可能性があり、もしさうなつた場合はそれを突破することは不可能だらうと見たので、開始直後に日時の吿知と配信開始と云ふ方法を取ることにした。道路使用許可を取りに行かなかつたのも同樣の理由による。元々會場として考へてゐた場所は步道橋の下と云ふどう考へても通行の妨げにならない(それ以前に人がわざわざ迂回してまで通るやうなところではない)ので、許可を取れる對象かどうかもわからない上、もし許可が出なかつた場合は權力側に何日何時にどこでやるのかが筒拔けになることから、やはり封鎖󠄁されるリスクがあつた。そこで道路交通法上問題ない場所であらうこと、用意した雀卓がキャスター附きであり容易に移動できることから設置にも當たらないと言ひはれること、更に辯護士先生の參加の申出もあつたことから、路上でやる際に於ける問題はほゞ解決濟みだらうと考へてゐたが、結果的にこれが甘い見込みだつたことになる。

會場に着いてみれば既󠄀に警察車輛が橫附されてゐた。雀卓を設置し牌を並べ始めるとすぐさま車內から警官が飛出して來て、中止を宣吿してきたのは上がつてゐる樣々な動畫を見れば明らかだらう。

この時點で我々は主に檢察廳の建物側に集つてをり、警官の突入を阻止するバリケードを築けなかつたのがまづ第一の敗因であらう。警察の主張はありきたりで根據の薄弱な「道路にものを設置してはいけない」の一點張りではあつたのだが、そこで我々は法的に問題ないと云ふことを主張し、辯護士先生による言質も取れれば警察も手出しはできないだらうと甘く見てゐたところがあつた。結果的に半莊の開始を阻止され、空氣に飮まれた結果警察へのよくある抵抗の文言を殘すことくらゐしかできず、30分程で檢察廳前を撤退することになつた。しかしながら道路で麻雀をしてはいけないと云ふ警察官立法による「公道麻雀特措法」の成立や、「通行の妨げになるかどうかは我々が決める」と云ふ「公道通行妨げ判定士」に就任した警官が誕生した現場に立合へたことは成果と云へるだらう。

日比谷公園に移動後は警察による妨害はないものと見てゐたのも甘かつた。ここでも公園管理者と連󠄀繫した警察による妨害により、本來面子として聲をかけてゐた人ではない人による東3局まででの進行で時間切れとなつてしまつた。こゝでの一番の成果はまるで警官が打つてゐるかのやうな畫像が撮れたことや、「公園は遊ぶところではない」と云ふ驚きの發言が取れたことであらうか。

本件に當てられた疑問點に就いてもひとつづつ答へておく。まづ本イベントは中核派主催と云ふ噂も流れたが、中核派の構成員が參加しただけであり、中核派が主催したイベントではない。また、橋下徹氏の發言に呼應したと云ふ說もあつたが、氏の發言が報道されるよりも先に本イベントのTwiPlaページは上がつてをり、內容が重なつたやうに見えるのはあくまで偶々である。そして本筋に拘はるところでは、本當に賭ける氣(≒最惡逮捕されてもよいと云ふ意志)があつたのかと云ふ點である。開始時間の遲さと公園閉園時間から時間切れ狙ひを疑ふ人もゐるやうだが、これは單に我々が朝に弱󠄁いので遲刻のリスクを避けた結果である。また、明かに一人だけ毛色の違つたスキンヘッドの警官による「賭けてゐるのか」と云ふ問ひかけに對する返答が曖昧になつた原因は、道路に物を設置してはいけない乃至公園管理者による退去要請を利用した警官による物理的な妨害の最中、逮捕覺悟のあつた正規面子ではなく偶々流れで卓の近くにゐた人が打始め、かつどうも事前に設定した黑川杯ルールに沿つてゐるやうには全く見えなかつたので、「賭けが成立してゐる」とは到底見做せなかつたことに依る。我々は取敢ず誰かが逮捕されれば勝ちなどと云つた雜な勝利目標は設定してをらず、可能であれば全員生還を目指してゐたことから、本來の想定シナリオから大分外れてしまつてゐる情況で「賭けてゐます」などと宣言することはやはり選擇肢として有得なかつただらう。あそこで蠻勇を揮つて現金のやり取りを强行すれば、恐らく彼らは逮捕されてゐた可能性が高い。

では本件にはどう云ふ趣旨があつたのか。實際に作戰を立案した中心團體である大日本テンピン麻雀協會の會員每に少しづつ意識が異つてゐるので、ここでは私の問題設定のみに就いて言及する。

私は賭博行爲に關してのみ云へばさほど惡いことだとは思つてゐない。從つて黑川元檢事長が賭博をしたことを以てさも極惡人であると思つてゐるわけではない。元々賭博法とは、射幸心を煽られ金の增減に夢中になる人が殖えることは好ましくなく、さう云ふ人を集める場を用意し利益を圖ることは更に好ましくなからうと云ふことが立法趣旨にある筈である。であるならば公營ギャンブルを運󠄁營する國家そのものが好ましくないことに手を染めてゐることとなり、自己矛盾に陷つてゐることは明白である。ゆゑに黑川氏の件で道義的に問題があるとするならば、接待麻雀であつたとされることや、ハイヤーでの送迎等から疑はれる贈收賄の可能性、乃至現行法上では賭博は違法行爲であると思つてゐる(ゐた)はずと云ふ前提の上で、違法行爲の祕密の共有をすることは强い絆を生むことになるので、檢察上層部とメディアがそのやうな强い絆で結ばれることは好ましくないだらうと云ふ方にあると考へる。

勿論賭博法がいくら論理矛盾に陷つてをり現代の情勢にそぐはないと雖も、假にも檢察の上層部にゐた人の賭博が露見し、且つ自らもそれを認めてをりながら刑事上の責任が問はれないと云ふのはやはり問題である。一方で我々は麻雀に於けるテンピンレートが默認レートであることくらゐは知つてゐる。私はグレーゾーンの存在がある種の文化を育むと云ふ考へを支持してをり、グレーゾーンで默認される領域を殖やすことの重要性は理解してゐるつもりである。その點で云へば今回の件を黑川杯などと稱して不用意に權力を挑發すれば、今まで默認されてきた仲間內で打つテンピン麻雀等にまで摘發の矛先が向くのではないかと危惧する氣持ちも勿論わかる。しかし、それを危惧する人達は、どうして默認で濟むのかと云ふことを考へねばならないだらう。權力はこの手のグレーゾーンを恣意的に使ふ。權力が潰したいと狙ひをつけた人に對してであれば、もし仲間內で打つテンピン麻雀に興じてゐると云ふ噂を摑まうものなら、徹底的に調べて逮捕しようとするのである。つまりこゝでは權力にとつてどうでもいい人は目立たなければお目溢し、一方で意地でも潰したい人は徹底的に調上げられ取締り、かと思へば權力側の都合に合ふ人であれば露見してそれを認めても屁理窟解釋でお咎めなし、と云ふまさに法の下の不平等が罷通つてゐるのである。私も麻雀に於ける賭けの是非について調べた際に、賭博に當たらないとされる一時の娛樂物に現金は1圓からでも當嵌まらないと認識して以降、革命的警戒心を持つて對應してきた。一方で巷には「今から點いくらで賭け麻雀をする」と云つた文言がいくらでもある。彼らにとつては默認されると信じてゐるのだからそれでいいのだらう。その不均衡が非常に息苦しかつた。ではこの不均衡は權力による恣意性によるものだけなのかと云へばそれも實は違ふ。最早グレーゾーンはリンチの道󠄁具󠄁としても利用されてゐるからである。例へば「今から點いくらで賭け麻雀をする」と云ふ何氣ない文言がSNS上に上がるとする。通常それは誰の氣にも止まらないだらう。しかしその文言の發信者が假に炎上の最中にゐたとしたらどうだらうか。すぐさまそれは權力による制裁を求める者達により通報され、潰されてしまふことだらう。この國は潰したい相手のグレーゾーンな行なひを監視して叩くと云ふ風潮にすつかり覆はれてしまつてゐる。要するにこの國にはグレーゾーンを適切に運用できるだけの民度が存在しないのである。

私が本イベントに於いて問題提起したかつたことは、槪󠄀以上のやうなことである。

イベント詳細
第一回檢察廳前テンピン麻雀大會黑川杯
場所:東京高等檢察廳前
日時:2680年5月30日15時

第一回檢察廳前テンピン麻雀大會「黑川杯」は100名(內自稱警察官60名)を數へるそれなりの規模の集會となりました。對局された方、取材・配信して下さつた方、諸々お立場もある中辯護士バッジをつけて來て下さつた辯護士先生、共に"卓を圍つた"自稱警察官の制服コスプレの皆樣、スキンヘッドを筆頭に私服のギャラリーの皆樣、公園事務所の皆樣、一般觀戰者の皆樣、配信を視聽して下さつた總ての皆樣、まことにありがたうございました。


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