ホロライブのよくわからなさ

最近敵國を口擊してゐるのかオタクトークをしてゐるのかよくわからないと言はれることがなくはないが、そこに敢てホロライブの話を捻ぢこんで行く。ホロライブと云へば昨年の「冷えたチキン」やるしあ解雇騷動からのYouTubeに於る世界のスパチャランキング上位をこゝの所屬メンバーが占めて億單位を稼いでゐると云ふ話を小耳に挾む程度であまり良い印象はなかつた。スパチャで億を稼ぐと云ふことは、その分だけ國富が敵國に流れてゐると云ふことでもあり、その觀點から亂暴にレッテルを貼るとすれば敵國に國富を垂流し續けるホロライブは賣國企業であり、これに投げ錢をするファンも賣國奴と言はざるを得ないからである。敵國企業のあらゆるサービスは無料利用にこだはり、あくまで强奪すべきである、と言へる程には自分はまだまだ革命的ではないので、YouTubeを快適に視聽するためのサービス自體への課金まで忌避するものではない。しかしながら投げ錢と云ふのは本來そのクリエイターに對して自らのお金を渡したいと云ふ氣持ちの問題である筈であるから、その額がクリエイターに全額行かずにプラットフォーム(しかもその運營母體は敵國の企業である)に中拔きされることに抵抗感がないとすれば、その感覺は正直よくわからないところはある。その前提でクリスマス配信をすつぽかされてチキンを冷やしてしまふとすれば、今までの投げ錢に對する裏切りとしての恨みをどこにぶつければいいのかさへも分らなくなるやうに思はれる。思ひの投げ錢先のVYuberに7割、中拔きしたGoogleに3割の怒りをぶつければいいのだらうか。

そんなわけでホロライブの動畫本篇自體は全く見たことがなかつたのだが、こゝ最近こちらの主戰場であるところのグラブルにホロライブ所屬のVTuber兔田ぺこらが參戰したとのことで、「おまへの編成ぺこーら以下」と云ふフレーズとともに視界に入ることが殖えてきた。詳細を追つてみると確かに私のグラブルの光編成は無課金で揃へた(※)と言はれるぺこらの編成以下の强さであつたので、ゲームとしては眞面目にやつてはゐないがガチャゲーとしてはそれなりにリソースを注いでゐる(具體的には廢課金と云ふにはほど遠いが、微課金と云ふには疑義申立てをする人がゐるかもしれないレベル)こちらとしては、中々のショックを受けることになる。そんな中いつものやうにヒヒ掘りのお供にグラブル動畫を探してゐると、ぺこらのガチャ配信があつたので折角だから見てみることにした。そしてこれが中々に衝擊的であつた。

一般にグラブルに限らずソシャゲ配信は同じゲームをやりながら武器や素材集めの苦業を共有してこれを乘切ると云つたコミュニテイ感覺の目的で視聽することが多い。從つて配信者はプロ的である必要がなく、むしろ自分と同じやうな感覺を持つ人のところの配信に居着くことになる。グラブル配信でも事務所に所屬してゐる配信者がをり、彼らの配信を自分も見ることがあるが、その內容はそこまでプロを感じさせるものではない。一プレイヤーの個人的な配信として見ることが十分可能な形式であり、そしてそれは意圖的になされてゐるやうにも思へる。

ところが兔田ぺこらの配信は違つた。まづ驚いたのがオープニングやエンディングがいかにも仕事と云ふ"形式"を感じさせるものとして流される(プロ的ではないソシャゲ配信に於てもオープニングやエンディングが流されるものもなくはないが、それらはあくまで個人の配信のノリからはみ出るものではない)。ゲームの規約的に流してはいけないものに對する配慮もあくまでプロ的である。これはプロ的ではない配信者によるBAN對策、あるいは好きなコンテンツに對する純粹な配慮から出てくるそれとは明らかに異なる態度として見られた。そして配信から聞こえてくる聲も兔田ぺこらのものであるときちんと感じさせられる。プロ的ではない配信であれば、その配信者の生身の聲としてそれを聞くことになるが、ぺこらの配信では配信者の生身の聲ではなく、あくまで兔田ぺこらと云ふアバターの聲としてきちんと聞くことができる。

これだけであればプロはやはりすごい、と云ふだけで終るのだが、さうとも言へないところがどうにも引掛つた。例へば昔聞いた記憶のある文化放送の林原めぐみのラジオ放送であつたり、最近だとYouTubeでたまに見かける田中理惠の原神配信なんかを見てゐると、彼らの放送からは常にプロとしての聲、つまるところ"林原めぐみ"や"田中理惠"の聲しか聞こえてこない。しかしぺこらの配信は常に兔田ぺこらの聲が流れてくると云ふわけではない。ガチャの結果の山場等所々でぺこらではない、中の人の生身の聲らしきものがおそらくは無意識に漏出てゐるのが聞こえてしまふレベルには演技が徹底されてゐない。そして恐らくこれは彼の人氣に對してマイナスには働いてゐないやうに思はれる。日本のオタクコンテンツは完璧であればあるほど人氣が出るわけではないからである。

例へば東方はその道のプロが造つてゐたのでゲーム本篇は彈幕シューティングゲームとしてしつかりしてゐたが、キャラクターのイラストはどちらかと言へばさうではなかつた。そしてさうではなかつたがゆゑに二次創作的慾求が促進され、一大同人コンテンツになつたとも言はれてゐたやうな記憶がある。他にはAKB48邊りも最初から完璧なアイドルが齎されたと云ふわけではなく、會ひに行ける身近なアイドルとしてファンと一緖に成長していく感覺が得られると云つた要素が受けて支持を得たと云ふ印象がある。さう云ふ流れからするとぺこらの配信から流れてきた中途半端さはよくよく考へればむしろオタクコンテンツとしては王道を行つてゐることになる。

覇權コンテンツはちやんと聞いてみると覇權である理由がすぐに理解できると云ふたゞそれだけの話ではあるのだが、つよバハの靑箱のヒヒ率が0.8%を切つてしまつた虛無の中では普段聞かない異文化のコンテンツがとても新鮮に感じられたので、思はず言及してしまつた。

(※)ぺこら曰く、8周年アニバチケやグラブルVS購入特典を利用してゐるので無課金と云ふのは盛りすぎであつたと訂正があつた。グラブルに於ては無課金であるかどうかを僞ると禊が發生する業界であるので、一應補足しておく。

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