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刑務所しか居場所のない障害者たち Part Ⅳ 完結編 (だれもが排除されることのない世の中へ)

(2020.12.10 投稿)

どうも、おっさーです。

今回は、「刑務所しか居場所のない障害者たち」の Part Ⅳ となります。

前回までの記事では、身寄りのない知的障害者が、社会のセーフティーネットから漏れて、刑務所にしか居場所がなくなってしまう問題について取り上げてきました。

今回は、問題解決に向けての取り組みの一例をお伝えしたいと思います。

このシリーズは、今回で完結となります。

今回の記事は、こちらの本を参考にしています。


この本の著者は、このような方です。

山本譲二(やまもと じょうじ)

獄中体験を描いた『獄窓記』が新潮ドキュメント賞を受賞。障害者福祉施設で働くかたわら、『続・獄窓記』、『累犯障害者』などを著し、罪に問われた障害者の問題を社会に提起。NPO法人ライフサポートネットワークや更生保護法人同歩会を設立し、現在も高齢受刑者や障害のある受刑者の社会復帰支援に取り組む。PFI刑務所での運営アドバイザーも務める

出所後の再スタートを支える「出口支援」

障害のある受刑者の多くは、社会に戻っても身元引受人もおらず、住むところもありません。

それが、再犯に至る大きな原因となっています。

国も、この状況をなんとかしようと動き出しています。

刑務所を出るときの支援策なので「出口支援」といわれています。

2009年から、各都道府県に「地域生活定着支援センター」が設置されました。

刑務所を出ても行き場のない人を、福祉や、出所者を支援する団体などにつなげるコーディネート機関です。

この地域生活定着支援センターを利用して福祉の場に行く以外に、障害のある出所者の行き先として多いのは、「更生保護施設」と「自立準備ホーム」です。

どちらも、行き場のない出所者が一時的に滞在できる施設です。

しかし、大部分の更生保護施設や自立支援ホームは、罪名によって、あるいは障害があることによって、出所者を選別しています。

高齢なだけならわりと支援がしやすいので、すぐに受け入れ先が決まります。

ところが障害のある人はそうはいきません。

とくに、一見そうとはわからない、発達障害のある人は排除されやすいです。

障害があるがゆえに、空気を読むことが苦手で、施設やホームに入所したあと「こんなところに来たくなかった」などと言ってしまうこともあります。

結果、更生保護施設や自立支援ホームから追い出される人も少なからずいます。

せっかく制度ができたのに、障害のある出所者は、あいかわらず社会のすみに追いやられているのです。

東京にあるNPO法人「自立支援センターふるさとの会」は、そうした人たちを積極的に受け入れている、数少ない存在です。

以前、こんな話がありました。

窃盗罪で服役していたJさんは、70台と高齢でした。

仮釈後に更生保護施設に入ることが決まっていました。

ところが、出所直前に認知症であることがわかり、白紙撤回されてしまいました。

著者はその話を聞いて、ふるさとの会に相談をもちこんだところ、二つ返事で受け入れを約束してくれました。

彼は、出所後も再犯をすることなく、穏やかに暮らしました。

最終的には、ふるさとの会で天寿をまっとうしたのです。

とてもおだやかな死に顔であったとのことです。

障害者の就労に立ちはだかる高い壁

就労。

それは、刑務所を出所した人の前に立ちはだかる高い壁です。

仕事のない出所者の再犯率は、仕事のある出所者に比べて約3倍も高い。

なので国も、再販防止策として「協力雇用主制度」を設けています。

出所者 を雇用、あるいは職場体験のために受け入れた事業者に、国が報奨金を支払ったりする制度です。

雇用主として登録している事業者は、2017年に1万8555社になりました。

ところが、実際に雇用しているのはわずか4%、800社弱にとどまります。

制度はあっても、うまく機能していないのが現状なのです。

出所者の背景に合わせた雇用は、日本産業全体の課題です。

とくに知的障害がある人の就職は難しい。

しかし著者は、軽度の知的障害で、なおかつ発達障害もある人が、有能な働きぶりを見せている現場を知っています。

彼の仕事は、大手企業の本社内での郵便物の振り分けです。

大きな会社のため、毎日何千通もの郵便物が届きます。

そうした郵便物を部署ごとに分類します。

なかなか根気のいる作業ですが、彼の仕事は早いです。

障害の特性で、ものすごく記憶力がよいので、海外の支店名から外国人社員の名前まで、完璧に覚えていて、関心するほどテキパキと手紙をふりわけます。

その会社は、能力に応じた高いお金を払っていて、そのまま彼に仕事を任せています。

仕事は、お金を稼ぐだけのものではありません。

人との交流をもたらし、社会の一員としての再出発を、ささえてくれるものなのです。

「支援」と「役割」で活かされる

刑務所を出所した人が社会に溶け込んでいくには、住まい、仕事にならんで、もうひとつ欠かせないものがあります。

それは「役割」です。

障害のある人が役割をになっていけるかどうかは、”社会の目”にかかっています。

ふるさとの会の自立準備ホームに住んでいるMさんは、中度の知的障害があります。

彼の役割は、自立準備ホームの前の道を掃除することです。

いつしか、ゴミ袋を持ってバスに乗り、三つとなりの駅までゴミを拾い続けるようになりました。

コンビニのゴミ箱 を開けて、燃えるゴミ、燃えないゴミを分別することもあります。

これは、見方によっては不審な行為です。

でもここで、「何やってんだ!」と怒鳴られようものなら、彼はたちまちパニックにらなってしまいます。

しかし、この地域の人たちは違いました。

だれひとりとして、彼の行動を非難しませんでした。

別に同情しているわけではありません。

ただたんに、「いつもゴミを拾っている人なんだな」と、あたたかく見守っているだけです。

Mさんは安心して、毎日ゴミを拾い続けています。

まとめ

誰もが安心して暮らせる社会とは、どんな社会でしょうか。

キーワードは「ソーシャルインクルージョン(社会的包摂)」です。

ソーシャルインクルージョンは、社会から排除されているすべての人を、ふたたび社会に受け入れ、彼らが人間らしい暮らしができるようにしよう、という考え方です。

罪を犯した障害者は、それまでの人生をほとんど、被害者として生きてきています。

結果として、前科というものを背負ったがために、「障害者」「前科者」という二重の差別を受けて、いちばん排除されやすい存在になっています。

いちばん排除されやすい人たちを包みこめば、だれも排除されない社会が実現します。

もちろん、あなたも私も排除されません。

日本という国は、今後、爆発的に人口が増えることはありません。

経済活動の中心は人なので、それをどんどん排除していったら、とうぜん、先行きは苦しくなるばかりです。

罪を犯した障害者を社会に受け入れることは、この国にとっての成長戦略になることです。

それは、障害者本人だけでなく、社会の全体のプラスになることなのです。

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