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原神 若陀龍王周りのまとめ(ネタバレしかない)

はじめに

本Noteは、原神公式とは全く関係のない個人が記述する、非公式まとめです。
原神ゲーム本編の内容のネタバレを大前提にしているため、未プレイでネタバレを避けたい方はお引き取りいただくことをおすすめします。
加えて個人の解釈と妄言を多分に含むため、受け付けないと思われる方も見ないことをおすすめします。

また情報量が多くまとめづらいため、公開後も適宜加筆修正を行うことになろうかと思われます。予めご了承ください。

前提:鍾離伝説任務

璃月の任務クリア後に所定の探検ランクを満たすと遂行可能になる鍾離の伝説任務は1と2があります。この記事では主に2やそれに付随する内容を取り上げるつもりでいます。とは言え任務自体のあらすじなどは実際プレイしてくれ!と思うので特に記載はしませんが…
YouTubeなどにも任務プレイ動画は散見されるので、別の言語で見たいとか、何回でも見直したいとかそういう方は配信サービスをご利用ください。(私は配信していませんがアップロードされている動画にはめちゃめちゃお世話になりました…)

該当伝説任務中でクンジュから明かされる「鉱石の記憶を見ることができる」能力について、鍾離は「石を目に…(Stone-seeing…/以石為目…)」と言い興味を示しているので、ぜひ注目してほしいポイント。
後々の「創龍点睛伝」のことを考えると趣深い。

鍾離伝説任務2ではところどころ「匪石」のネタが出てきますが、出典は『詩経』の「柏舟」

汎彼柏舟
亦汎其流
耿耿不寐
如有隱憂
微我無酒
以敖以遊
 
我心匪鑒
不可以茹
亦有兄弟
不可以據
薄言往愬
逢彼之怒
 
我心匪石
不可轉也

我心匪席
不可卷也
威儀棣棣
不可選也
 
憂心悄悄
慍于群小
覯閔既多
受侮不少
靜言思之
寤辟有漂
 
日居月諸
胡迭而微
心之憂矣
如匪澣衣
靜言思之
不能奮飛

石ころみたいにコロコロ転がせるものじゃないよ(私の心はそう簡単に変えられないよ)というような話です。この詩から「匪石」は「志高く、堅固で動かすことのできない心」の意を持ちます。

https://www.youtube.com/watch?v=_-F7R1jMeRY

若陀龍王創作裏話(公式)にて小ネタの話とか色々聞けるので重宝しています。動画について教えてくださったはもすぎ(@rairei10110)さん、ありがとうございます。
公式が詩経出典の詩を小ネタ扱いするなとは思いました。中国の人的に小ネタレベルの知識なんだろうか詩経って…個人的に小ネタ扱いしていいの画竜点睛までだろの気持ち…

鍾離先生伝説任務「匪石」の任務名称
「世多古怪,横生盗匪」(失踪した鉱夫)
「事出有因,矿山奇石」(真実は奇石の中にあり)
「易地则明,失线则弗」(明るみに出た手がかり)
「变乱似流,盤石不转」(混沌の中、岩は動かず)

中国語の任務タイトルの最初と最後の字をそれぞれ縦読みすると
「世事易变,匪石弗转」となるとのこと

匪=非
弗=不
转=転

日本人が読みやすい字に起こすと
世事易変,非石不転
となる。

「世の事は変わり易いが、石に非ず転がらぬ」
というような訳。世の中が変わっても、私の心はそう易々と変えられないのだ、という。

千岩不動、堅如盤石、というのが璃月の、ひいては岩王帝君の命題なんですね。
ただそれでも、どんなに堅い岩でも、歳月の流れと共に風雨に削られ形を変えるので、永遠に摩耗せずにいることはできない。示唆に富んだストーリーになっています。

モラクス礼讃詩

鍾離伝説任務2においてクンジュと阿鳩が口ずさむ漢詩。内容がモラクスを讃えているように読めるので勝手に「モラクス礼讃詩」と読んでいます。
こちらについて、ver.1.5 preview videoにて全文が公開されている…との情報を見かけたものの、該当するものが見つけられず…

原神中国公式では最初4文、
https://ys.mihoyo.com/main/news/detail/11828

bilibili動画には最後4文と一致するものの記載が確認されたものの、すべてまとめて記載している公式ページが見つからず…

(しかし中国人ユーザーと思われる人が色々なところに以下の順番で書き残しているのでどこかにはこの順番での記載があったと思われ…出典が分かる方、いらっしゃいましたら教えていただけると幸いです。)

韬玉之石,可明八荒.
灿若天星,纵横无双.
天动万象,山海化形.
荒地生星,璨如烈阳.
皎月落枝,南天龙吟.
灿阳一瞬,不动岩心.

さて和訳。

石、玉の揺り籠、世界の果てをも照らす。
宛ら天星の如く、この世に比肩するものなし。
天は万象を動かし、山海は形を変える。
荒地に星は生まれ、太陽の如く光り輝く。
木々の枝に月光は冴え冴えと落ち、南天に龍は吟う。
瞬きの内に陽光は煌めき、岩心は揺らぐことなし。

シンプルな訳をすれば上記のようになろうかと考えられます。

所感と妄言

天动万象,山海化形.
荒地生星,璨如烈阳.
の英訳が
All powers under heaven, rise and fall of land and sea.
A star appears within the wild, a sun ascends as bright as jade.

やたらキラキラ燦々光り輝く表現の多いこの詩を口ずさんだもうちょっと後に 、
「目が見える者には分からんよ、盲目の龍が日の光を追い求める気持ちが(You wouldn't know the yearning of a blind dragon, searching for the sun.)」
と言っているので、初見の想像を絶する重さではあります。
かつて盲目だった若陀龍王にとって「光」は非常に強く焦がれた憧憬そのものであり、モラクス自身を表現しようとするとこう光に満ち溢れた表現になると…あなたは私にとってこれほどまでに眩しいのだというような…

「太陽の美しく輝く様」をjade(翡翠)とするのなぜに…?と思ってたんですが、仁義礼智勇の五徳を高めるパワーストーンとして中国で人気であり、成功と繁栄を齎すとされ、中国では古来よりダイヤモンドよりも価値が高いとされる宝石で、且つ友情のパワーストーンなんですってね。

漢詩は一文字、一文に複数の意味を含めることができるので、あのシンプル訳の解釈にとどまらないと言うのは念のため申し添えておこうと思います。
中国ユーザによる非公式解釈では
「“荒地生星, 璨如烈阳。(荒地に星が昇り、燃える炎のように輝いている)”というのは、若陀龍王が目を与えられて初めて見たモラクスの金色の瞳のことではないか」
とか
「個人的には“天动万象, 山海化形. ”は天を動かし山海の形を変えるモラクスの力、“荒地生星, 璨如烈阳”は荒地の唯一の星、燃える太陽のようなモラクスの内面に対する賞賛ではないかと思っている」
とかいろんなコメントが見られて強火オタク最高だなと思うなどしていました。

追記

2022/07/30 記
「韬玉之石,可明八荒.」について。
鍾離の命ノ星座二つ目が「石、玉の揺りかご(石者,八荒韫玉而明/Stone, the Cradle of Jade)」となっています。
英語でJadeと明言されているのでここの「玉」も翡翠のこと、「韫玉」も「韬玉」もほぼ同義と考えていいでしょう。世界の果ての荒地まで明るく照らす翡翠を包む石のこと。石の中から翡翠…の話がver.2.8で言及されたことについてはページ下部の小ネタにて。
鍾離伝説任務2のクンジュ初登場時点で、彼は水を含んだ水晶を内包する石を所有していましたね…
他にも、「天星」は鍾離の元素爆発(隕石落ちてくるやつ…)の名称、「天动万象(天動万象)」は「天星」発動時のスキルボイスと、鍾離の命ノ星座やスキルとめちゃめちゃリンクした詩になっています。
(中国語が一番リンクしているのが分かりやすく、英語はあまりリンクしていないようです(ただし玉ってなんだよとかが英語の場合明言されがちなので考察の一材料としては最高…)。日本語はある程度わかるようになっているのでありがたい…)

恥はかき捨て(耐えられなくなったら削除)

超個人的にはモラクスを礼賛する詩であると同時に、若陀龍王が封印される直前の描写のようにも受け取れるなと思って厨二超解釈訳を作成したりしていました…

堅牢な岩が翡翠の輝きを抱いている
その光は世界の果てまでも照らす
天星のように輝き
どこを探してもこの世に双つと無い
天は万象を治め
山海は形を変える
吾が暗闇に星の輝きを与え
あんなにも追い求めた陽の煌めきはあまりにも眩い
優しい月光は白々と木々の枝に落ち
南天に龍は友を讃え吟う
太陽は瞬きの間にも輝き
岩心は匪石、何者にも動かせず

岩は吾が揺り籠
地下深くでさえその輝きが見えるよう
眼前に迫った天星はあまりに眩く
強大な力が縦横無尽に奔る
神は万物を動かし
その力は山海の形を変える程
数多の星を生み
その輝きは吾が体躯を砕いて光る
月光が静かに枝葉の影を象り
南天に龍の悲鳴が轟く
最期に一瞬の輝きを見れば
揺らがぬ怜悧な眼差しがあった

天穹の歌(原題:天遒歌)

若陀龍王のテーマソング1。歌詞は中国語ですが古代詩調で作られているため、そこここで現代中国語訳が見られます。

肃雍!
昔若陀徽土
越天遒广及青墟浦
川亹亹毖流兮
金阙连望舒
哀时兮时兮 焉薄余属
恚君常违兮 灵囿作堀
夫黯黮命兮 险巇壅阻
咄!
怨憺兮 瞀乱
山峦耸荡
龙躣之出
嗟!
安归乎?
蕙园憭栗兮 宫为渚

公式英訳詞!こちらは公式の日本語訳詞がないので(中国語わからないユーザ的に)めちゃめちゃ助かります。

Solemn!
In the past, the territory of Azhdaha was vast
Crossing Tianqiu Valley and Qingxu Pool
As the mountains and rivers flowing slowly
The imperial palace even reached Wangshu
Saddened by the lost of time, why did you (Rex Lapis) fail me?
Maddened by your (Rex Lapis) annoyance too often, turning the rich earth into wasteland
(I lamented) the injustice and vagaries of fate, as dangerous and painful as the rugged mountain road
Alack!
Annoyed by this peaceful (Liyue), such serenity never belonged to me
When the mountains are crumbling
The dragon leaps forth
Alas!
Can I still go back to the past?
But the homeland's now a sorrow land, and the palace's now an oasis.

公式日本語訳詞がないので下手な個人的解釈で日本語訳詞のようなものを置いておきましょう。

かつて若陀龍王の領土は
天穹の谷から青墟浦へ及び
川は滔々と流れ
宮殿は望舒へ続いた
時代を嘆く、何故吾が眷属を無下にするのかと
怒りは収まらず、豊かな大地は荒れ地になり果てる
急峻な山岳の如く、暗澹たる宿命を嘆く
ああ!
決して吾がものとならぬ平穏に心を乱す
山岳は崩れ
龍は躍り出る
おお!
あの頃に戻れるだろうか
故国は荒涼とし、宮殿は只の泥濘に

所感と妄言

「夫黯黮命兮险巇壅阻」を「険しい山道が行手を阻むように運命は暗澹としている」と取ったんですが、「险巇」(山道の険しいさま)って「若陀」(陀(険しい山道)のごとく)と同義ではということ
モラクスと、彼が味方する人類の行いを糾弾する内容でありながら、その暗さと関連づけられる形容は若陀を彷彿とさせるところが苦しい
例のモラクス礼賛詩で「韬玉之石,可明八荒」「灿若天星」「璨如烈阳」って明るく綺羅綺羅しい形容が頻出したのとあまりに対照的な暗さを歌っていてつらい…

全体的に平和で穏やかな璃月(人類の世界)と搾取され荒れ果てるばかりの山岳(若陀龍王たち元素生物の世界)の対比になっていて、且つ岩王帝君は人の神なので、これらが対立するときは確実に若陀龍王の味方にはなってくれないんだ…ということも表現されているのでつらい…つらいしか言ってませんねつら…

「春望」とかの有名な漢詩は下敷きにしてる気がします。戦があって国は荒れ、城は朽ちるがそこに草木が芽生える…みたいな何とも言えない破壊と再生と寂寥みたいな…そういうニュアンスが共通してる気がする。気のせい?

英訳にあるRex Lapis は、いずれもラテン語でRex=王、Lapis=石 なので岩王帝君を指します。

山岳は崩れ(原題:岩壑之崩)

若陀龍王のテーマソング2ですね。

邃宇兮 黑翳逐
山野兮 窘步
出!(幽宫兮 余既伏)
君常违兮 国隳芜(乌有兮 归处)
蓄雠怨增欷(零落兮 困洿渎)
惶惶兮 索陵迟恶途(奈何乎)
归兮!
巉石峦岳毂转乎
万川湍流吞穹庐
山崩岩崒
愆辜安除?(愆辜安除?)
零落兮 困洿渎
浇季兮 穷路
林峻茂兮 掩殊途
审行迷延伫远兮 山穹覆

公式英訳詞。助かる~~~~~~!

(Long ago) In the field of stars, expelling the dark shadows
(Now) Lost in the mountains and wilderness, with no way to go
Show yourself! / O deep, cold palace, the place of my sins
Since you left, this country has fallen into a terrible state / Already long lost and forgotten, as for my home
Hatred, sorrow, and grief accumulate day after day / (Fate) Lonely and wandering, trapped in such a harsh place
Panicking and not knowing where to go, I embark on the treacherous journey ahead / What can I do!
It's time to return!
The steep rocks and mountains withstood the test of time
Thousands of rivers rush rapidly, seemingly swallowing the sky
(But even if) Mountains fall and the earth tremors
How can the evil (which caused all this) be eradicated?
(Fate) Lonely and wandering, trapped in such a harsh place
There is no way out of this miserable generation
The mountains are precipitous and lush, hiding the path that diverged (between you and me)
Recounting how I had lost my way and wandered away from you, engulfed by the shadow of a mountain ridge

こちらはありがたいことに公式日本語訳詞があります!

凋落し 此処まで落ちた
吾が成せることなど いずこに在る?
出でよ!
貴下が背いてより この国土は荒れ堕ちた
怨恨と悲哀は溜まりゆく
惧れに導かれ 嶮しき道を歩んだ
帰りし時 今来たれり!
峻厳な岩と山々が幾重にも屈曲し
万本の川は天穹をも呑み かの勢いで荒らかに流れたり
山崩れ 岩砕かれても
全てを招きし元凶を祓えるか?
凋落し 此処まで落ちた
乱世よ もう往く先がない
葉を茂らせる林よ 貴下を吾が違えし道程を隠し
彷徨い立ち留まり 貴下と遠ざかりし吾を顧みて 峻嶺の影に覆われん

所感と妄言

若陀龍王のセリフや歌詞から、帰る道のわからない迷子のような稚い不安を感じて苦しい。
天遒歌で「安归乎?(帰れるだろうか、いや帰れない)」って言うのに対して 岩壑之崩では「归兮(帰るのだ)」って言う割に「乌有兮 归处(帰る場所いずくんぞあらんや=何処にも帰る場所はない)」「掩殊途(道は閉ざされた)」
と言うのも絶望に満ちて悲しい。

安归乎?の英訳がCan I still go back to the past?となっていることから、若陀龍王の「帰る」先は、既に彼がこの苦しみを歌っている世界には存在せず、ただ過去にのみ在るということも示唆されています。
当然彼らに時間を操る力はなく、過去に戻ることはできないと痛いほど知っていながら、それでも帰れるだろうか、帰るのだと歌い、どれだけ帰りたくともどこにも帰る場所はないという現実を自分に突き付けて歌が終わる。こんな苦しい歌があるでしょうか。私は号泣しました。

加えて、若陀龍王戦のセリフで
「吾を裏切った貴様が、また吾を裏切ると言うのか?」(Is once not enough!? You would forsake me again!? )
というのがあったりするんですが、
Is once not enough?は「一度では足りぬと言うのか」といったニュアンスで、forsakeは「見捨てる」という意味を持つので、本当に親に見捨てられた子どものような痛切な響きを持っていると思います。

今はbilibiliにしかないショートボイスドラマの話

勘弁してくれ

こちらは日本語版若陀龍王役の喜安浩平さんのインタビュー動画で、インタビュー部分はYouTubeにもあるようなのですが、最後についているボイスドラマがYouTubeには無いようなんですね…ドウシテ…ココデオワルハズガナイノニ
こちらもはもすぎ(@rairei10110)さんのご紹介です、ありがとうございます。

とりあえずボイスドラマ全文書き出し(聞き取りの結果なので誤りや漢字が不正確な部分があるかもしれません)


山の麓には、この山より永く生きている古龍が、深い眠りについている。
惰眠を貪っている最中、龍王は車と月の宮殿の夢を見ていた。
甘美な微睡みの中で、龍王は、かつて付き従っていた、小さき旧友の夢を見ていた。

「お前の背中に乗って、山に沿って登って行けば、月の宮殿にも辿り着けそうだ」

これは龍王の夢だ。龍王は、深い眠りの中で、過去の夢を見ていた。
時折、痛みを感じて夢から醒めれば、いつも思い出す。
あの方と別の道を進んだときに、己が言った言葉を。

「吾は貴様とこの地を平定させることもできれば、山を流河のように真っ二つに引き裂くことも、家々を薙ぎ倒し、城を地の底に埋めることもできるのだ。」

何故、自分はそのようなことを言ってしまったのだろう。
あの方と思い出を共有した大地を、深く愛していたと言うのに。
あの方が大切にしていた小さく短命な眷属も、愛していたのに。
何故こうなってしまったのか。

地に堕ちた龍王は時折、思い出の中に深く入り込む。
だが、考えることは最早彼が得意とすることではなかった。
過去を思い出せば、最期の時も思い出す。
矢に貫かれたときの、燃えるような感覚。
首を絞められたときの息苦しさ。
そして、あの方の黄金のような瞳で冷たい視線を向けられたときに心に走った、激痛。


恐らく若陀龍王戦において、岩王帝君の命を受け、甘雨が参じていたことから矢傷の描写があるものと考えられます。

また、若陀龍王のもとになった伝承にペルシャ神話のアジ・ダハーカ(Azhdaha)があり、これはそのまま英語版若陀龍王の名前にもなっています。
アジ・ダハーカの伝承では、アジ・ダハーカを切りつけると、傷口から蛇や毒虫、魔物が次々に湧いてくるため、当代一の英雄をもってしても殺すことができず、地下深くに封印することになった、というものがあります。
こうした元ネタから首を絞める、最終的には封印する、といったストーリーが出てきたものと思われます。

層岩巨淵の石碑に
「…龍王が山岳を踏破すれば、山は高き堤の如く崩れ去る…ありとあらゆる魔物たちが、瑠璃色に茂った野を彷徨う…」
とあるのも、上記アジ・ダハーカの伝承を踏まえた描写と言えるのではないでしょうか。

創龍点睛伝

層岩巨淵ストーリーの話をしよう。

若陀龍王が封じられているのはご存じ南天門ですが、主戦場となったのはおそらく層岩巨淵です。
このため層岩巨淵実装と共に若陀龍王関連の小ネタも色々と追加されました。

石碑の文言とかについてもその内追記したいところですが、一番書いておかなければいけない気がするのが創龍点睛伝。

鍾離先生も大好きな講談師の田 饒舌の十八番ネタが「創龍点睛」。
このストーリーでは「岩王帝君が霊石から若陀龍王を彫り上げ、その岩に目と魂を与えた」とされています。

田の講談に対する鍾離先生のご意見がこちら。
「物語は良いが、 細部が少し異なる。 他の者も考察しているように、岩王帝君は彫刻の腕がさほど高くなかった。 あまり美しいものは彫れなかっただろう。」
「考えてみてほしい、岩王帝君はあの若陀龍王を本当にその地下に封じたのだろうか?」
「専門家の話によると、 層岩巨淵の下には洞窟と坑道がいくつもあるらしい。 もしも若陀龍王がそこに封じられているのなら、きっと毎日のように眠りを妨げられることになる。 そのような可能性を、 岩王帝君は考えなかったのだろうか?」

白々真君…
えっ何ですか、若陀龍王の安らかな眠りの為に層岩巨淵から南天門まで遥々場所を移したってことですか?五体投地しちゃった…

「岩王帝君は彫刻の腕がさほど高くなかった。 あまり美しいものは彫れなかっただろう。」ってどう…モラクスが若陀龍王の身体を作ったわけじゃないって解釈でいいんですかね…いいんですかね…

層岩巨淵地下探索中に志璇によって「肉陀の鼻息」と表現される地脈異常が発生しますが、中国語だと若陀retuoで、肉陀routuoになるので、発音が似ているために誤って伝わった…という感じが出てますね(ずっと印象派展評論みてえな表現してんな私)
なおこうした地脈異常は人間が掘削を行い自然を破壊するために発生する現象であり、若陀龍王の呪いとかそういうものではなく、むしろ若陀龍王自身こうした地脈異常によって苦しみ、摩耗していったと考えられます。人間は愚か。

追記

2022/07/30 記
「モラクスが作ったわけでなければ若陀龍王はどういう感じで発生したのか?生まれつきああした形だったのか?」
というお話があったので…
「前提:鍾離伝説任務」の項にリンクしている若陀龍王創作裏話にて、「ベビーヴィシャップ、ヴィシャップ、エンシャントヴィシャップと若陀龍王はそれぞれ同種の生物の異なる成長段階」という話があります。
また、若陀龍王の元ネタとして紹介されているペルシャ神話の魔獣「アジ・ダハーカ」は、蛇が何百年も何千年も生き、数メートルもの大蛇になったものとされています。
そのため若陀龍王は、生まれた時はベビーヴィシャップの姿をしており、ヴィシャップたちの中でも特別長生きをしてあの大きさ、姿まで成長したのではないかなあと思っているところです。
盲目でも長生きをして一大王国を築いた元素生物に、人を守護する魔神モラクスは何故瞳を与え、友人となったのか?といったところは未だに謎。今後追加されるエピソードに期待したいところです。

鍾離待機ボイス

小ネタに入れようとしたらまあまあの文量になったので独立した鍾離待機ボイスの話…元ネタについてご教示くださった もよぎ(@moyogi1618)さん、ありがとうございます。

欲买桂花同载酒…只可惜故人,何日再见呢?」
「花を買い、酒を持ち、船の上から璃月の景色を堪能しようとしたが、共に過ごした旧友はもういない。あの古き友との再会は、いつ叶うだろうか?」
英語の "Osmanthus wine tastes the same as I remember… But where are those who share the memory?" がどうもちょっと誤訳っぽいという話。Osmanthus wine は桂花陳酒なので「桂花陳酒の味わいは変わらない…だが、それを共有できる者は、どこにも…」といった訳です。
中国語のニュアンスは「花を買い、酒宴を設けても」であって、花を漬けた酒の話ではないのです。まあ大意のニュアンスに誤りはなく、結局「傍に旧友がいない寂寥感」が大事ではあります。
ただ、元のセリフがどうも劉過という南宋の詩人による『唐多令・蘆葉滿汀洲』という詩を敷いているようなので、そこを考えると「花を買い、酒を持ち、」という訳は大事なんじゃないかなあと思いました。以下、該当の詩。

蘆葉滿汀洲。
寒沙帶淺流。
二十年、重過南樓。
柳下繋舟猶未穩,
能幾日、又中秋。

黄鶴斷磯頭。
故人今在不。
舊江山、渾是新愁。
欲買桂花同載酒
終不是、少年遊。

黄鶴斷磯頭とは、「黄鶴磯の断崖の上には」の意であるそうで、此処には黄鶴楼があると。黄鶴楼と言えば李白の『黄鶴楼送孟浩然之広陵』(黄鶴楼にて孟浩然の広陵に之くを送る)ですね。国語の授業で習った方も多いのでは。

故人西辞黄鶴楼
烟花三月下揚州
孤帆遠影碧空尽
唯見長江天際流

李白のこれは「遠方へ去り、簡単には会えない状況になる旧友を送る」ことを主題にしているので、「会えない旧友」のテーマで本歌取りをされている感じですかね。この辺の中国語文に出てくる「故人」は原則「旧友」の意。
詩後半の大意は「花を買い、酒宴を催したが、若かったあの頃とは違う。旧友の姿はなく、故郷は悲しみに包まれている」と言ったところのよう。
桂花(モクセイ)は月に咲くとか、仙友にたとえられるとか、ちょっと咀嚼しきれないのでまた今度…

何故モラクスは若陀龍王を友としたか

色々考えていたんです。
モラクスは人の神であって、それ以外のプライオリティは明らかに下がる。明瞭な差がそこにはある。それくらい人間最優先にしている魔神だと思う。
では何故、元素生物という人との共生が困難を極めるものを配下/友としたのか?どんなきっかけがあったのか?

メタ発言をします。ギルガメシュ叙事詩を思い出しました。

ギルガメシュ王のレリーフ

ギルガメシュ叙事詩。世界最古級の物語。Fateとか通ってる人は読んでるかもなあと思う。聖書の元ネタとかもここにあって面白いって神父家系の先生に教わりました。
概要書ク。

メソポタミアの都市国家、ウルクの王の元に天より遣わされた、半神半人の王、ギルガメシュ。何故「天より遣わされた」のか?それは「天と人を結ぶため」だったと言われる。本当は、人民を天の望む通りの在り方とさせるため、天の意を汲む支配者として君臨することが求められた。しかし、最終的にギルガメシュは天の神々(アヌンナキ)の意に反し、人を愛し、人に寄り添った統治をする。

さて、とはいえギルガメシュも端から名君であったかというとそうでもない。むしろ結構な暴君だったので、天の神々は、ギルガメシュの競争相手となる強い生き物を創り、野に放った。エンキドゥという名で、初めは自分の使命を知らず、獣たちと暮らしていた。造形は人のようでも、人とは異なる生き物である。

ある時二人は出会い、力を競い、互いの力を認め合って共にあるようになった。二人の関係性は主従であったとも友人や恋人であったとも言われる。


小ネタという名の妄言

摩耗して大事なものとか何もわからなくなって、それでもかつての親友に敵意を向けられるのには身体を刺される以上に心が痛むし、その上首を絞められて苦しくても死ねなくて、そんな中でふっと正気を取り戻して封印を望むの…日本人的に「レモン哀歌かな」と思ったんですがいかがでしょうか。

摩耗によって友人が友人でなくなっていく様を見届け、彼を自らの手で殺す覚悟を決め、最終的には自分の力で封印することになったのがトラウマになってるモラクスはしんど可愛いですね。自分がいなくなっても摩耗しても大丈夫な様に整えつつ摩耗しない方法はないか探してもいる。
もし自分が摩耗の果てに璃月を襲ったとしても璃月の人々が自分を殺せるように整えているように思えてならないのですが…。
多分その関係で「永遠」を標榜する雷神に興味を持ってるんだと思うけど、雷神は雷神で摩耗してるので無理だよの気持ち。
(待機ボイス「徒然なるままに…」の文章の最後は「あやしうこそ物狂ほしけれ」(正気を失った気分になる)なので彼女も狂気の狭間にいるなあという所感)

モラクスはどこまでも人を庇護する魔神なので、人外勢を従えてはいても彼らを全力で守ってくれるかと言うとそういうわけではない…と思う。
仙衆夜叉が業障に侵されその果てに死ぬとしてもそれまで人間を守ることを求めたように、おそらく璃月を守る岩王帝君としてのモラクスは、人と人以外を天秤にかけて人以外に傾くということがなかったはず。
ということを踏まえると、魈を助ける選択肢は「鍾離」にしかなく、また一時とは言えモラクスが岩元素生物と友誼を結び共に歩んだことは奇跡と言っていいのではないでしょうか。

南天門の奇妙な木は若陀龍王のしっぽで、あの水晶様の枝は璃月港に向かって伸びているというのは有名な話だと思います。
若陀龍王の身体の造りからして顔、身体の正面を向けている方向にしっぽの先が向くことを考えると、彼は封印されてなお璃月港を向いて、且つ手を伸ばすように枝を伸ばしている…。
どういう気持ちで枝を伸ばしているのか考えるとやりきれないのです。

南天門の木

若陀龍王の名前の由来、「中国人ならピンとくるでしょ」的なノリで明言されていないので異邦人は苦労して元ネタを探すのですが、名前の元ネタは仏教やヒンドゥー教に出てくる難陀龍王でいいかなあと。
しかし難陀龍王には跋難陀龍王って兄弟がいるんですよね…仙衆夜叉の伐難ってここから来てますか…(情報量が多くてぐるぐるの目)

モラクス、妙法蓮華経の仏陀みたいなムーブするじゃんと思った(所感かつ妄言)のでいつか咀嚼したいですねサッダルマプンダリーカスートラ!

ver.2.8 サマータイムオデッセイにて何の前触れもなく唐突にクンジュの話されてビビり散らかしてTwitterで狂ってたのは私です。
翡翠って高価でかつ友情のパワーストーンって言いましたよね?
「石の中から翡翠を取り出すクンジュ」に狂ってたのは、若陀龍王からモラクスに向けた詩(私は常々モラクス礼賛詩と読んでいる)の初句が 「韬玉之石,可明八荒(玉(=翡翠)を包む揺籠の石、それは世界の隅まで明るく照らす)」 から始まるからです。とりあえずクンジュが健やかに生きてるようで安心しました…。

追記

2022/07/30 記
原神 Wiki の年表見て騒ぎ倒したのも追記。

話の発端は若陀龍王とモラクスそれぞれ何歳だよ…というところから。
wikiに年表あるよと教えてくださったぬん(@LtltyYfb)さん、ありがとうございます。
こちら参照で以下記述。
6000年以上前に魔神モラクスが降臨。
『神の目』を持つこの世界の英雄『原神』は、死後選定され神になる、ということなのでさらにそれよりも前に生きた人間の英雄だったのでしょう。
(余談ですが古代ギリシャとかでは生きている人間を「英雄」と呼ぶことはなく、死後も語り継がれ人々の記憶に残り続けているものを英雄と呼ぶのだそうですね。藤村シシン先生のツイートより。)
時期不明、璃月建国(璃月港が都市として成立することかな)以前に若陀龍王がモラクスと友誼を結び、配下となる。
璃月建国が3700年前。摩耗した若陀龍王との戦いが発生したのが1000年前…
ということは単純に最低でも2700年以上、もしかしたら5000年ほども、若陀龍王とモラクスは一緒にいたんですよね…そんな永い時を過ごした友人が、自分の愛し、庇護する人間たちの文明の発展によって摩耗させられ、その結果敵対し、自らの手で封印した…想像を絶する苦しみではないでしょうか。
これをただ一言、「これも俺が経験した摩耗のひとつ」と言ってのける岩王帝君、神として永く生きる間に、どれほどの苦行を重ねたのでしょうか。
しんどい情報が手に入りましたがモラクスと若陀龍王それぞれの年齢は未だにハッキリしないのでした…(モラクスは6000歳以上、若陀龍王は3700歳以上、という下限しか分からん)
あと若陀龍王がかなりの広範囲を治めていたと言うのは龍の七王が世界を支配していた頃の話なのか、全く別の話なのか…謎深すぎ…


変更履歴
2022/07/28 初版
2022/07/29 細部修正、クレジット追加
2022/07/30 細部修正、各章「追記」項目に加筆、クレジット追加
2023/03/06 悲しみの誤字修正


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