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守備戦術に組み込まれた奇策 & 「狙い」を持ったビルドアップ 〜 ノリッジ・シティ vs マンチェスター・シティ プレビュー 〜

タイトル画像 https://www.footballchannel.jp/2019/09/15/post338355/

スタメン

スタメン

ノリッジの守備戦術

 ではまず、前半のノリッジの守備について分析していく。

vs Norwich ① あ

 立ち上がりはゾーン3での前からのプレスを実行していたが、前半のほとんどの時間、ゾーン3に442の守備ブロックを組んでいた。2トップのうち、プッキはCBの2人を、シュティパーマンはロドリをみるような意識はあるが、つきっきりのマンマークではなかったという感じだった。442というゾーンディフェンスの中にマンマークを組み込んでいるのが特徴的で、中盤に入っていたテッティがダビド・シルバを、マクレーンはギュンドアンをマークしていたようだ。普段シティはIHがライン間を取りつつSB・CB間(チャンネル)が空いたらそこへランニングをしてクロスを上げるというパターンが多い。そんなシティの攻撃に対してマンマークという要素を取り込み、チャンネルが大きく空いても自由に使わせないようにしようとしていた。

 このように、ノリッジはマンチェスター・シティよりも劣る組織力をマンマークという組織的な守備の概念から離れた新しい要素を取り込むことによって綻びを繕いながら戦うという守備プランだったと言えるだろう。

 では、このような守備戦術の中でどこに隙が生まれるのか。相手チームの守備の隙をついて攻撃するというのがシティだ。どこを突くことでチャンスを作れたのか。

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 WGがサイドに張って幅を取り、チャンネルをIHが狙おうとランニングする。それに中盤がついていく。するとどこにスペースが生まれるのだろう。それは中盤2人の間の部分である。この中盤のスペースを使うことでチャンスを作り出せたのではないだろうか。

 実際、このスペースを使うシーンがなかったわけではない。1:47のシーンを見てみる。

vs Norwich ③ あ

 マクレーンがギュンドアンへのパスコースを切りながら前へ。テッティとの間が開いたため、そこにアグエロが入りストーンズからの楔を受ける。アグエロはダイレクトでフリーのギュンドアンに落とし、ギュンドアンはそれをまたダイレクトでシルバへ。このようにしてライン間で前を向いてボールを持つことに成功している。

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 また、マンマークによるスペースの利用という意味では10:28のシーンの方がわかりやすいかもしれない。オタメンディからのサイドチェンジのボールを受けたウォーカーから、ボールはサイドで幅を取るベルナルドシウバへ。それと同時にギュンドアンがチャンネルへのランニングを開始。マクレーンはそれに必死についていっており、またウォーカーが低い位置を取っていたことからカントウェルはボールウォッチャーに。このようにして空いた中盤の間(バイタルエリア)をウォーカーがついたというシーンだった。マクレーンのギュンドアンへのマンマークが生み出したスペースをうまく使えたシーンのわかりやすい例でしょう。

 そして、単に中盤の間のスペースを突くという以外にもマンマークという戦術を逆手にとってライン間でボールを受けていたのが、アグエロとシルバのコンビだ。例えば35:47のシーン。プレスを剥がしたロドリがボールを持って前進。この時テッティにみっちりマークにつかれていたシルバが内側に動くことでブエンディアとの間に大きなスペースをつくっている。それと同時にアグエロがそのスペースに走り込んでボールを受けようとしているというシーンだった。画面上ではアグエロをシルバが確認するような仕草は見られないし走り出すタイミングもほぼ同時だから、長年同じチームでプレーしたきたからこそのプレーなのだろうと思われる。

 ここで浮かび上がってくる疑問が1つある。それは、このような隙がノリッジにありながら何故シティは攻めあぐねてしまったのかということだ。次の章ではこの疑問点を考えていく。

サイドの「孤立化」

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 ノリッジの守備にこれまで述べたような隙があり、それを突くような動きがあるのにも関わらず、攻めあぐねてしまったのは何故なのだろうか。それは、その隙を突く意識があったのがアグエロのみだったことが大きいと思う。アグエロがそのスペースに落ちてくる動きをしたときはノリッジのCBはついていこうとしなかった。そのため、アグエロには落ちてボールを受けられれば数的優位になってライン間で前を向けるという意識があったと思う。しかしWGやIHは使う意識は低く(シルバは自分が囮になって周りが使えるようにしようという意識があったとは思うが)、サイドではSB・IH・WGの3人の集団として「孤立化する」という現象が起こっていたように見受けられた。特にWGはサイドで幅を取ることが多く絞ってハーフスペースに入ることはほとんどなかった。その事実は37分ごろにWGの左右を入れ替えたことからもわかるだろう。この変更はWGの役割を、内側に絞ることと開いて幅を取ることを使い分けさせるのではなく、縦突破からのクロスというものに一本化することが目的としてあったのではないだろうか。

 また、戦術的な側面以外にも原因はあるだろう。試合の前の週が代表戦ウィークだったことが根本的な原因にあると思う。これにより普段しないようなパスミスだったりタイミングのズレだったりがあったように思われる。ミスが多く突きたいところで突ききれず、それによるいら立ちの中での2失点という流れだっただろう。実際、1失点目の後から先ほどまでに述べたようなスペースを使う効果的な動きは圧倒的に減っており、失点という事実が連戦や移動の中での疲れからくるミスへのいら立ちや焦りをさらに際立たせることとなって本来のプレーをすることができなくなったのではないだろうか。

 では、その転換点となった1失点目はどのような流れがきっかけだったのか。次の章ではその流れの部分からノリッジのビルドアップの狙いについて紐解いていこうと思う。

狙いを持ったビルドアップ

 ノリッジはビルドアップ時は4231の陣形を組んでいた。対するシティはIHであるシルバが2トップの一角となって442の陣形でプレッシングを行なっていた。

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 8:01のシーンを見てみよう。上図から分かるように、ノリッジは442の陣形に対してサイドで3対2の数的優位に立つことができる。そのような状況になると簡単に逃げられてしまうため空いたマクレーンのところにギュンドアンがプレスに行くような形になっていた。しかしここではウォーカーはマークについておらず、カントウェルがフリーになる。そのため本来マクレーンをみていたギュンドアンがカントウェルにプレスをかけざるを得なくなり、その対応の遅れが結果的に前を向かせるということになってしまったのではないだろうか。

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 また、「狙い」という側面ではこっちの方が最もらしいかもしれない。17:00のシーンだ。シュティパーマンがCBのアマドゥからの浮き玉でロドリの背後を突いたシーンである。ハイプレスをかけ続けてなるべく高い位置でボールを奪うためにシティの中盤の2枚は前線との距離感を近くすることで、DFとのライン間に広いスペースを作ってしまうという穴を上手く突いたシーンだった。実際この数秒前にも背後を取ろうとする動きを見せていたし、前節のブライトン戦でもそのようなシーンはあったから、この動きはあらかじめ用意されていたものだと思う。

 このように、ライン間を一つの明確な狙いとしながらその中で生まれた隙、具体的にはマークを外すなどしてフリーになった選手を使ったりして、ビルドアップしていったのではないだろうか。シティを相手にビルドアップに狙いを持たせてそれを実行できたことから考えると、非常によく整備されていたと思う。

まとめ

  ノリッジの守備は442のゾーンディフェンスの中にマンマークという要素が取り込まれており、IHにみっちりつくことでチャンネルランへの対策をしていた。そのマンマークによって生まれる守備の穴が中盤2人同士の間、特にバイタルエリアであり、シティはそのズレを利用する事でいくつかのチャンスを生み出し、得点もしていた。ただ、その穴を突く意識がチーム単位では低く、マンマークを取り入れる守備に試合中で対応仕切れていたとは言えない。これには前週にあった代表戦による疲れも影響しているだろう。逆にその間試合への準備をより綿密に行えたノリッジがシティの守備の穴を突き、得点し勝ち切れたという試合だった。

試合結果
ノリッジ・シティ 3-2 マンチェスター・シティ
得点者
ノリッジ・シティ 18分 マクレーン 28分 カントウェル 50分 プッキ
マンチェスター・シティ 45分 アグエロ 88分 ロドリ

最後まで読んでくださり、ありがとうございました。 

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