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現状を踏まえた人選 〜 プレミアリーグ第8節 マンチェスター・シティ vs ウォルバーハンプトン マッチレビュー 〜

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https://www.soccer-king.jp/news/world/eng/20190921/982175.html

スタメン
(水色→マンチェスター・シティ オレンジ→ウォルバーハンプトン) 

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試合結果
マンチェスター・シティ 0 vs 2 ウォルバーハンプトン
得点者
80分 アダマ・トラオレ(ウォルバーハンプトン)
90+4分 アダマ・トラオレ(ウォルバーハンプトン)

以下では、マンチェスター・シティをシティ、ウォルバーハンプトンをウルブズと呼ぶ。

〈前半〉
機能しない右サイド

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 まずはウルブズの守備戦術から。ウルブズは守備時5-3-2の形。2トップはアンカーのロドリへのパスコースを切っていたため、構造上フリーになるSBにボールが渡る。ウルブズの狙いはここ。CHがスライドしてSBに対してアプローチし、WGに対してはWBがマークしてハーフスペースをとるIHに対しては5バックの左右のCBがつく。このようにすることでビルドアップを妨害し、あわよくばカウンターを狙おうという手法だ。実際、18:28ではこの妨害によってマフレズのパスミスを誘発し、決定機まで繋がった。

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 このようなウルブズの守備戦術の中でシティは左サイドと右サイドで攻撃のスムーズさが全く異なっていた。もっと具体的に言えば、左サイドはいつものシティで行われる「旋回」が起こっていたのに対し、右サイドは「旋回」が行われるどころかWGのマフレズが前を向くことさえほとんど無かった。この原因はSBの立ち位置の違いにある。左で起用されたカンセロは高い位置を取っていたのに対して、右サイドのウォーカーは一つ内側のレーンで半ばCBのような立ち位置だった。ウォーカーがこの位置を取れば、2トップがプレスをかけてきたとしても2vs3で数的優位を作り出せるし、カウンター対策にもなる。しかしその分「旋回」は起きないし、それどころかウォーカーからマフレズへのパスに距離があるためにWGにつくWBがアプローチする準備がしやすくなる。結果、マフレズは前を向けずボールを受けようとして下がるために低い位置でプレー。ハーフスペースにポジションを取るギュンドアンにもパスは出ない。仮に出てもすぐ囲まれてしまうという状態だ。「旋回」が起これば、マークに混乱が生じるから瞬間的にフリーで受けられることが多くなる。左サイドでは瞬間的にフリーになる選手をダビド・シルバを中心に作り、そこからチャンスを演出するシーンがいくつかあった。

 では、左サイドでの攻撃のメカニズムはどのようなものだったか。サイドで幅を取るカンセロにWBを引き出させられれば、ウルブズのサイドのCBとシティのWGで1vs1の状況になるしスペースもできる。その状況を作るには本来SBにつくCHをつかせないようにしたい。そのためにダビド・シルバがやや落ち気味になってCHのデンドンケルの気をシルバ側に向ける。このようにして内側に入るWGを生かそうという手法。これをこの形のままで行えば相手も対応しやすくなるため、「旋回」を行って相手に混乱を生じさせながら先ほど述べたような方法でMFとDFのライン間での優位性をつくといった感じだった。

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 ペップはCB2人にウォーカーを含めた3バックを作り3-1-6のような形で5バックに対し6枚の攻撃陣を敷いて攻略しようという考えだったが、この数的優位を生かすにはMFを引き出してライン間にスペースを作らなければならない。5-3-2の守備ブロックの構造上スペースができる、本来SBがいる場所をCBあるいはアンカーの選手が持ち上がって使えれば、MFを引き出すことができてライン突破が容易になる。これができているシーンが何回かあった。例えば32:11のシーン。オタメンディからのパスを受けたフェルナンジーニョがボールを持ち上がる。この時デンドンケルはボールを持つフェルナンジーニョかサイドのシルバかアプローチに迷いが生じており、それによってMFラインの突破に成功している。ちなみにこの後のスターリングのミドルシュートをルイ・パトリシオが弾くシーンは、この試合唯一の下田さんの「ナイスキーパー!!!」なので要注目。

 ウルブズの守備戦術に対しウォーカーを含めた3バックを形成したために右サイドでは攻撃が停滞。左サイドではダビド・シルバを中心とした攻撃でゴールに迫ったが、人数をかけるウルブズの守備陣を攻略しきれず、0-0で前半を終えた。

〈後半〉
攻守のバランスを取ったシステム変更

 後半開始と同時にシティはウォーカーに代えてジンチェンコを投入。ジンチェンコは左SBに入り、カンセロは右SBに回った。

 狙いはざっくり言えば、左サイドで行われていた「旋回」を右サイドでも起こそうって感じ。しかし、ウルブズの守備ブロックは前半にも増して低く、ライン間にスペースがほとんどない感じ。「旋回」によってボールを保持し続けられたとしても攻撃の方法は結局クロスになってしまい、糸口が見つからない状況。これを解決するためにシティは60分にベルナルド・シウバを投入した後、フォーメーションを変える。具体的には、ギュンドアンが完全なボランチの役割に回って両SBを高い位置まで上げる2-2-6のような形になった。幅を取る役割はSBが担い、WGは一つ内側のレーンに位置するようになった。

 重要なのは5バックに対して6枚置かれた前線での数的優位をどこで生かすかだ。中盤の3枚がDFラインと非常に近い位置を取れば、ウルブズにとってみれば数的不利は解消されるわけで、シティお得意のハーフスペース攻略に対しても、CBとCHの2枚で対応できる。だから、何らかの方法でMFが守備ラインに参加することができないような状態を作る必要がある。

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 もし中央のバイタルエリアでその数的優位を生かすのなら、後方からの楔のボールが必要だ。ダビド・シルバなんかは狭いスペースでも高い技術と判断力でワンタッチやツータッチで得点を演出できるだけのパスを出すことができる。問題はこの楔のパスを誰が出すか。ウルブズの前線2トップに対してCB2枚+2ボランチで数的優位を作っているシティの後方4枚のうち誰かが持ち上がることができれば、ウルブズのCHは前に出て来やすくなるし、仮に出せなくてもペナルティエリアよりちょっと後ろに位置するSBに叩けば、パスコースはできやすくなる(持ち上がると言っても相手を引きつける程度)。2-2-6にしたのはこのようなパスを出せるだけの能力のある選手を少しでも多く置きたかったからではないだろうか。むろん、シティの場合ならSBの選手でも出せそうだが。

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 ではサイドで生かす場合はどうだろうか。例えば、ジンチェンコがボールを持った場合は右サイドでWGのベルナルド・シウバとSBのカンセロがヴィナーグレに対して2vs1を作ることができる。この場合はサイドチェンジが必要になるわけで、中盤の2人はサイドチェンジの中継地点としての役割になる。

 要するに、2-2-6へのシステム変更の狙いは前線で数的優位を作り生かすために重要なパサーの役割を2人で担うこと。もちろん、カウンター対策も込みでの手法だ。まあダビド・シルバに代えてジェズスを投入したことから考えても、数的優位を中央で生かすというよりはサイドで生かす方が色合い的には強かっただろう。

 しかし、ウルブズのトップ2人がシティの2ボランチにつき、マンツーマン気味になったこともあってサイドチェンジはうまくいかない。それに加え4-3-3の場合と違ってIHとSBとWGのトライアングルを作るには2ボランチがスライドしなければならない。その点、後方からでも鋭いボールを縦に斜めに出せるラポルトの存在の大きさをもろに感じた。

 カウンター対策との兼ね合いをしなければならない以上、無駄に中盤が前に出ていけばSBが低い位置を取らなければならず非効率になる。ウルブズの1点目も2点目も点が入らずに焦るシティが前がかりになったことがきっかけ。シティの1失点目はカンセロのボールロスト後にラウール・ヒメネスに間延びしたMFとDF間のスペースを使われてしまったことがきっかけ。それに加えて守備の対応に難があるオタメンディがまたもや攻撃を遅らせることなく軽い1対1の対応をし、最後はアダマ・トラオレに決められたという失点だった。2失点目も同じような形。ロドリの不用意なボールロスト後間延びしたスペースにいるヒメネスを経由されて、ボールはアダマ・トラオレへ。フェルナンジーニョが追いかけるも追いつかず、そのままトラオレがゴールを決めた。

 揺さぶりをうまくかけられないシティは最後まで体を張るウルブズからゴールを奪い切れず、0-2で試合は終わった。

あとがき

5バックの攻略法

 シティのハーフスペース攻略に対して5バックを敷くのはもはや主流になっている。シティは5バックに対して前線5人に加えてSBのジンチェンコを加えた6人で数的優位を作ることはボーンマス戦でも行われていた。各々のチームのフォーメーション上できるフリーの選手・スペースをどう生かすかが鍵。今回の試合では本来SBがいる位置がそのスペースで、前半はそこにボールを持ち運んだ時がチャンスを作れたシーン。フェルナンジーニョがボールを運んだ時がそれにあたる。後半はそのスペースを埋めるためにスライドする中盤を逆手にとってサイドチェンジによって数的優位を作ろうとしていたがあまりできていなかった。むしろベルナルド・シウバやスターリングがドリブルで剥がした時の方がチャンスを作れてただろう。

CB不足に合わせた形

 ラポルトとストーンズが怪我の状態で唯一の本職CBオタメンディの1vs1対応が酷すぎるという現状。フェルナンジーニョの持ち上がりが何回かあったとはいえ、楔のパスとサイドチェンジのロングボールという2種類のボールを使い分けられるラポルトの存在はやっぱり大きすぎる。若手のエリック・ガルシアを使うべきという意見も見られたが、正直若手にリーグ戦のスタメンを任せるのはまず荷が重すぎるし、CBがいない状況でCBの1人を切り捨てるのもどうかなとは思う。まあエリック・ガルシアのプレーは本当にペップが言うように24歳くらいのプレーに見えるが。そう考えたらギュンドアンを置いて2ボランチにするのは守備のためには必然なのかなとも思う。IHとしてのギュンドアンはデ・ブライネに比べたら目劣りする部分の方が大きく見えるし、CB不足が招く影響は守備面だけでなく攻撃面にまで影響が出ているのは確かだ。早急に対策を取らねばならないだろう。


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