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「機能不全のうちに」 プレミアリーグ 第29節 マンチェスター・ユナイテッド vs マンチェスター・シティ マッチレビュー

試合結果

結果:MUN 2-0 MCI
得点者:30' マルシャル(MUN)
    90+6' マクトミネイ(MUN)
場所:オールド・トラフォード
主審:マイク・ディーン
スタメン:下図
赤色がユナイテッド、水色がシティ

第29節 vs Manchester United スタメン

【前半】 欠けたラストピース

ユナイテッドのホームで迎えた今季4度目のダービー。シティがボール保持に強みを持つのに対し、ユナイテッドは非保持状態からのカウンターを特長とする。ボールを持って主導権を握るシティに対して、ユナイテッドがどれだけ耐えてカウンターという主戦場に持っていけるか。それが、182回目を迎えた伝統の一戦の展望である。

ボールを握れば強みを見せるシティにリズムを作らせないために、ユナイテッドは開始早々からエンジン全開の前プレを仕掛ける。この日ユナイテッドが採用した3-4-1-2は、シティの4-3-3との噛み合わせがとても良いため、ユナイテッドはマンツーマンで前プレを行う。

マンツーマンでの前プレには、GKにも圧力をかけるものとGKにはボール保持の余裕を持たせるものの二種類があるが、ユナイテッドが選んだのは前者である。11人目のフィールドプレーヤーとして最後方に君臨するエデルソンに対して、前線3人のいずれかがそれぞれの担当である選手へのパスコースを切りながらプレスをかける。

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しかしこのようなマンツーマンの前プレは、ボール保持型のチームが避けて通ることのできない道。シティはIHが一工夫加えることで、この前プレを回避する。左では、ギュンドアンが低い位置を取ることでフレッジをついて来させ、それによって空いたスペースにFWが降りることでプレスを回避。右でも、カバー範囲外となりやすいCHの脇にベルナルド・シウバが立ち位置を取って、直接エデルソンからボールを受け取ることでマンツーマンを潜り抜ける。

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また、ビルドアップの方法はショートパスだけでなくロングボールでも。マンツーマンで前からプレスをかけるユナイテッドは、後方に数的同数を背負わなければならない。その上、シティの前線陣はスピードという面で質的優位である。特にスターリングはそれが顕著で、リンデレフはついていくのが精一杯。CBのマグワイアがカバーリングに入ってロングボールをヘディングで返せば、アグエロがフリーでボールを持てる。このような質的優位を生かすようなロングボールを前線に供給することで前進する。

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前進に成功すると、シティは3-2-5にフォーメーションを可変。左SBのジンチェンコが内側に絞って2ボランチの一角を担う。それと同時に、オタメンディが左に動き、右SBのカンセロとCB2人で3バックを形成。5-2-1-2となるユナイテッドに対し後方で5vs3の数的優位を作る。また、3-2-5のフォーメーションはCHに対しても数的優位。IHとボランチの2人をCH1人が見る形であるため2vs1。後方で数的優位が担保されたシティは低い位置を起点にしてボールを回す。

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となれば、どのようにしてその数的優位を生かして前進するかが鍵。3バックの真ん中で配給役となったフェルナンジーニョは、CHがユナイテッド前方での数的不均衡を解消するために前にでたタイミングでIHに楔を刺す。直接楔を刺すほか、降りてきたアグエロに楔を刺し、それをIHに落とすことでフリーのIHへボールを供給するという手法もとった。

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この試合、シティの実状としては、IHに渡すところまではスムーズにいくが、そこから手詰まりしてしまうという状態であった。基本IH担当のCHが間に合わないとなると、ユナイテッドは左右のCBを前に出すことで対応。左サイドでギュンドアンがフリーで受けると、リンデレフが前に出てきてプレーを遅らせ、CHのフレッジが戻ってくる時間を作る。打つ手なしとなったギュンドアンは、WGのスターリングへ展開。

ギュンドアンからパスを受けたスターリングとマッチアップするワン=ビサカは、スターリングでもドリブルで簡単に抜ける相手ではない。CHのフレッジもスライドでギュンドアンに対応可能となっており、同サイドからこじ開けるのはかなり厳しい。縦に突破しようにもCBがカバー範囲内だし。

5-2-1-2というフォーメーション、その弱点となるのが「2ボランチ」である。横幅いっぱいを2人でカバーするというのは実質的に不可能であり、片方のサイドへスライドをすればもう片方のサイドを空けてしまうという弱点が存在する。

この試合でも、左サイドへCHの2人がスライドすると、逆サイドのIHであるベルナルド・シウバが空く。シティとしてはここを使いたく、ボールと同サイドからの突破が厳しい中で「どうベルナルド・シウバに展開するか」が得点のためのポイントとなる。

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そこでシティは、スターリングに「CHをスライドさせる時間を作る」ことを役割の一つに含ませることを選択。基本はドリブルで1vs1を仕掛ける姿勢ではあるが、ワン=ビサカが対応してついていくようであれば無理に抜こうとはせずにパスを選択する。仕掛けている間にCHがスライドしてくれば、逆サイドへ展開すれば良い。むしろ逆サイドを使ったほうが効果的。近くのギュンドアンが塞がれている中ドリブルでこじ開けられるなら行ってもいいし、無理でも次の手はあるぞ!といったところだろう。

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無理に仕掛けてボールを奪われてしまえば、即座にカウンターを受ける。スピード勝負となればオタメンディやフェルナンジーニョよりもユナイテッドの前線陣の方が分がある。その点、左サイドを攻撃の起点としたのはこの部分に理由があり、まだシティでの経験が浅く被カウンターとなったときに穴になりやすいカンセロがいるサイドではなく、ジンチェンコ側にしてあげることで、被カウンターによるリスクを軽減したのだろう。

ユナイテッドの方も守備がしっかりしており、前線のプレスバックはシティにとってかなり厄介なものになっていたはず。特に、シティの攻撃の起点となっていた左サイドでは、D・ジェームズがプレスバックでジンチェンコへのパスコースを消すことで、逆サイドへの展開を遅らせることに貢献したようにも思える。

ただ、この日のシティは逆サイドのスペースで受けてからの選択肢にものすごく欠けていた。このスペースで受けると、スライドの間に合わないCHに対応するように左右のCBが前に出てくるが、それによって空いた裏のスペースを使うことが全くと言っていいほどできなかった。特に、ショーが出てきて空いた裏のスペースを有効活用したかった。マフレズではなくフォーデンを起用した意図はあまりわからない。ベルナルド・シウバとのポジションチェンジがあっても面白かっただろうが、そうもうまくいかないのか。

ベルナルド・シウバの方も左利きというだけあって、裏への配給をするのは少し難しい。カンセロをパサーとしてみたりという手もあっただろうが、リスク管理という点から見て難しいのだろう。機動力抜群のウォーカーがフルスピードで駆け上がるのを見たかったが、常時フル稼働の彼はこの日お休み。

立ち上がりこそユナイテッドのエンジン全開のプレッシングで展開の激しいものとなっていたが、試合は徐々にシティのボール保持に落ち着いていく。しかしシティの攻撃は、「2枚のCHの脇」という相手の守備ブロックの「弱点」自体は突いていたものの、そこを起点にしてゴールに迫る手に欠けていたと言える。シュートにまで持っていかせないようにユナイテッドが対応できるようになると、少しづつカウンターの機会も増えてくる。先述したようにシティの攻撃は左サイド起点であったため、ユナイテッドのカウンターは右中心。D・ジェームズはプレスバックを怠らなかったことでサイドへ流れやすくなり、オタメンディとの1vs1が作られやすくなる。この構図になれば、オタメンディが抜かれるか、ファールするか、ジンチェンコのサポートのもとでボールを奪うかの3択。オタメンディが劣勢となりやすい状況にせざるを得ないのが、少々切ない。

ユナイテッドがカウンターという長所でゴールに迫る機会が増える中、30分に試合が動く。左サイドでB・フェルナンデスがFKを得ると、自らのキックでニアの裏へ走り出すマルシャルへ浮いたパス。抜け出したマルシャルがダイレクトボレーで合わせてゴール。FKのきっかけとなったファールの真偽はわからないが、隙を突いた見事なゴールだと言える。

実は、このFKに似たような形のFKが、この前に一度あった。9分辺りにマルシャルがもらったファールによるFKで、D・ジェームズが同じニア裏を狙うランニングをしていたのである。その前にもマルシャルがそこを狙う素振りを見せてもいる。これらから考えるに、確実にこのFKは用意されていたものだと推察できる。

ボール保持において「ゴールに迫る」という部分で手詰まりしたシティは、ユナイテッドから得点できず。ボールを握られたままではあるが、セットプレーで「弱点」を突いて先制したユナイテッドがそのままリードを維持し、前半を終える。

【後半】 「ポケット」侵入で打開を

後半になると、シティは本来の4-3-3に変更。前半の40分頃からではあったが、内側に絞っていたジンチェンコがサイドに開くようになるとともに、カンセロの自由度も上がって攻撃参加するようになる。その分、後方では数的同数になるわけだが、そのリスクを受け入れてでもゴールに迫ろうというものであろう。

それに加えてシティは、潰し屋となっていたワン=ビサカから逃げるようにして右サイドを攻撃の起点とするようになる。狙い目となったのは、左CBに入ったショーのところ。左CHに入ったマティッチは、フレッジほど縦横にマークについていくようなタイプではないため、本職がSBで機動力のあるショーがベルナルド・シウバについていく。

ベルナルド・シウバは、少し引き気味になってボールを引き出し、受けたボールを運ぶ役割を与えられている。このベルナルド・シウバをショーが担当すると、引き気味のベルナルド・シウバにどれくらいついていくべきなのか、ショーは当然混乱する。そこでシティは、ショーが不用意に前に出て行って空いたスペース(パスコース)を活用して裏をとることに成功。前半にはあまり裏を狙わなかったフォーデンも後半になって裏へ動き出すようになった。

60分には、WGが本職であるマフレズをフォーデンの位置に投入。ユナイテッドの最終ラインの裏を取れるようになったことで、そこからサイドをえぐっていける力、個の力が必要となったと言える。

同じ60分頃、左サイドにも修正を加える。スターリングを内側に絞らせ、ワイドで幅をとる役割をジンチェンコオンリーにする。スターリングを優位性を作り出せなかった対ワン=ビサカから逃れさせ、リンデレフとのマッチアップにさせることで、ギュンドアンではいまいちだったハーフスペース活用を行う。

その後のシティはハーフスペースの奥深く、「ポケット」と呼ばれるスペースを取ることに専念。ハーフスペースを取る選手が縦へランニングしたり、大外から回ってきたりと、「ポケット」を取るための引き出しがたくさんあるのは流石シティといったところ。WGもこなせるジェズスがサイドに流れて「ポケット」を取る場面も見られた。

「ポケット」を取る利点として、成功すれば点が取れる形に直結しやすいというのが挙げられるが、その一方で成功までに多くの手数を要するという問題点がある。多くの手数を要する以上丁寧さは不可欠となるわけだが、ダービーという舞台で一点を追いかける中で焦燥感に駆られる選手たちが、判断やプレーのミスなどをしないように丁寧に行うことがどれだけ難しいか。枠内シュートが少ないという事実はこのことに起因しているように思える。

78分には、ポケット侵入の門となっていたCBのところにバイリーを投入。同時にマクトミネイを入れて5-3-2とし、スライドでの対応を強化する。

その後も変わらずポケットを狙うシティだったが、そこの封鎖とポケットからのクロスにユナイテッドは必死で抵抗。決定的なシュートに至るまでは程遠く、シティは点を取れないまま。

アディショナルタイムに突入し、このまま終わりかけたかと思われた90+6分、試合が動く。イガーロのポストプレーを受けたフレッジが出したスルーパスはエデルソンに対応されたが、その後のスローイングをマクトミネイがカット。ダイレクトで無人のゴールへ突き刺し、追加点を奪った。

この得点で試合は終了。ホームのユナイテッドが、10年ぶりにダービーのシーズンダブルを達成した。

総括

(今回から、ここまで述べてきたことを整理するため、最後にこの試合のまとめを書いておきます。これに限らず何か意見等が御座いましたら、是非Twitterにて宜しくお願い致します。)

◇ 勝負を分けたのは前半
 ・ユナイテッドの5-2-1-2の弱点を突くことには成功した。
 ・しかし、その後の裏を取る(=最終ラインを超える)ところで手詰まり。
 ・その間にセットプレーで弱点をついたユナイテッドが先制。あとは守るだけ。

◇「ポケット」侵入にこだわる後半
 ・前半からの修正として手詰まりしていた裏取りを実行。
 ・一点を追いかける焦燥感でポケット侵入の精度に欠ける。
 ・守るだけとなったユナイテッドは必死で抵抗。シティは得点できず。

あとがき

10年ぶりのシーズンダブル。この事実だけを目にすれば、驚いてもおかしくはないであろう。10年ぶりなんか!って。しかし、それが全くおかしくないことであるのは、試合内容を踏まえれば明らかだ。

ユナイテッドは強かった。マルシャルやD・ジェームズはカウンターでの脅威となる。トップ下には高い技術にカリスマ性を兼ね備えたB・フェルナンデス。MFはよく動くし、後方は屈強。おまけにSBにはワン=ビサカ。今季のシティを見れば、「苦手」とするチームであるのは明らかである。

やはりこの試合でフォーカスを当てるべきは「先制点」だろうか。今季は、守備陣の度重なる怪我で失点がかなり増えた。特にカウンターはそれが顕著に表れている。各チームは、シティに主導権を握られる中で、カウンター攻撃やセットプレーなどの「機会は少なかれどそれぞれの期待値は大きい」チャンスをものにしようと必死である。この試合もそうだった。ユナイテッドは用意されたセットプレーを得点にして、「あとは守るだけ」の状況に持ち込めた。

シティはその後今まで積み重ねてきた「ポケット」侵入を続けたが、得点できなかった。一点を追いかけ焦燥感にかられる中で、手数を踏む必要がある「ポケット」侵入は成功する確率が極めて低い。そして、この試合はなかったが、もし「ポケット」侵入ができなければ「空中殺法」いわゆる大外からのクロスボールに頼らざるを得なくなってしまう。「ポケット」が取れないとどれだけ辛いか。得点の匂いがしない感じ、今季何度も味わった。先制点を取られるだけで勝利が途端に程遠くなる現実。とてもシビアである。

守備陣不在や新加入選手の適応などイレギュラーな状態を迎える今季のシティは、圧倒的に先制されやすくなっている。先制点を取られ一点を追いかけるという展開と、しばらくの間付き合っていかなければならないだろう。



トップ画像引用元
https://twitter.com/ManCity/status/1236690674013143040?s=20


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