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試合を変えたシステム変更 〜 プレミアリーグ第6節 レスター・シティ vs トッテナム・ホットスパー レビュー〜

タイトル画像https://www.soccerking.jp/news/world/eng/20190921/982175.html

スタメン

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青→レスター 白→トッテナム

試合結果
レスター 2 vs 1 トッテナム
得点者
29分 ハリー・ケイン(トッテナム)
69分 リカルド・ペレイラ(レスター)
85分 ジェームズ・マディソン(レスター)

なお、以下ではトッテナムをスパーズと呼ぶこととする。

スパーズの守備戦術

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 まずは、レスターの攻撃の局面での戦術について考える。レスターのビルドアップ時のスパーズのプレッシングは、CF2人がCBにプレスをかけ、トップ下のラメラがアンカーのエンディディをマークする。そうするとSBにボールが渡るため、スパーズはCHがスライドしてSBにプレスをかけ、カバーリングをアンカーのウィンクスが行っていた。つまり、スパーズのプレッシングにおけるボールの取り所はサイドだった。しかし、この試合のスパーズはボールを取りきれずに前を向かれる事が多かった。その原因は中盤のスライドの遅さにある。特にウィンクスとエンドンベレはスライドのタイミングが遅れており、レスターは簡単にプレスを回避できていた。このようなプレッシングによって空くライン間のスペースをレスターのマディソンやティーレマンスに使われてチャンスを作られるシーンが何度もあった。

 スパーズはリトリート時も同様で、中盤の3人がスライドしながらボールのあるサイドに人数をかけるやり方だったが、レスターはその時空くバイタルエリアを使うことが多く、守備の強度の低いウィンクスがスパーズの守備における穴になっていた。

 このほか、当然リトリート時のボールを奪ってからのカウンターも攻撃の1つであり、スパーズのSBが上がって出来たスペースをヴァーディが使うシーンは何度もあった。

守備におけるレスターの問題点

Leicester vs  Tottenham ③ あ

 次に、レスターの守備戦術を分析する。まずは前線からのプレッシング時の戦術。スパーズのビルドアップ時のレスターは全体を高い位置に保ちながら相手のミスを待ち、ミスが発生したところで一気にギアを上げてハメにいくという戦術だった。具体的には、CFのヴァーディがCBをみていて、CBがボールを持ったら逆サイドのCBへのパスコースを切りながらボールを持つCBへプレスをかけており、SHはSBを、そしてIHは2人で中盤3人をみる形で、ボールのあるサイドと同サイドのIHはスパーズの同サイドのCH(アルデルヴァイレルトがボールを持った場合のシソコ)をマークし、反対サイドのIHはアンカーの位置にいるウィンクスをマークするようなディフェンスだった。そしてアンカーの位置に入っていたエンディディはプレスをかけるMFのカバーリングと、降りてボールに関わりにいく選手(主にラメラ)のマークをしていた。

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 しかし、このような守備には当然弱点が存在する。それはエンディディの脇のスペースだ。このような守備の場合ピッチを縦横に動かなければならないエンディディのタスクは非常に大きく、負荷を伴う。中盤の人数は2vs3と不利であり、例えばアルデルヴァイレルトがボールを持てばエンドンベレがフリーになる。しかもスパーズにはケインというターゲットがいて、スパーズのCBはロングボールの技術に秀でている。CHもシソコとエンドンベレという対人能力に優れたMFであり、ケインに当てたこぼれ球をエンディディ脇のスペースでの数的かつ質的な優位性によって回収されればスパーズにチャンスを作られる。これはノースロンドンダービーでも発生していた現象で、アーセナルの1失点目の根本的な原因はここにあった。これがレスターの前からのプレッシングの穴である。また、このような状況下にも関わらず守備時のタスクが不明瞭だったのがティーレマンスだ。CHを見ながら縦へのスライドでウィンクスをマークするというタスクだったのにも関わらず、ティーレマンスは無駄にCBにまでプレスをかけることがあった。先ほども述べたようにスパーズにはケインというターゲットがおり、スパーズのCBにしてみれば、ロングボールを蹴ってもいいという状況下にある。ただでさえ数的にも質的にも中盤で不利な状態が生まれているのに、わざわざ長い距離を走ってCBにプレスをかけようとしてロングボールを蹴られてしまったらどうしようもない。VARで取り消しとなったオーリエの幻のゴールはこのプレーからの流れだった。

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 次に、レスターのリトリート時の守備戦術を分析する。これは先ほど述べたような前線からのプレッシング方法とさほど変わらない。スパーズがボールを持って敵陣へ前進した時、SBが高い位置を取るようになっている。ローズはレスターのSHのアヨセ・ペレスよりも低い位置を取っていたが、右SBのオーリエはSHのバーンズを越す高い位置を取っていた。それに対しレスターは4141のようなブロックを組みつつ、ウィンクスにボールが入った時はIH(主にティーレマンス)がプレスをかけるという戦術だ。そうすると空いてくるのはまたしてもエンディディの脇であり、IHとのギャップにパスコースができる。このギャップをついていたのがラメラ、ソンフンミン、ケインの3人であり、ここからチャンスが生まれることが何度もあった。

 この試合におけるスパーズの攻撃のパターンは3つある。1つ目は前に述べたようなケインの頭や裏へ抜けるソンフンミンめがけたCBからのロングボール。これは主にビルドアップ時にできる選択肢だ。ビルドアップ時にできるもう一つの選択肢がショートパスによる前進であり、それによって押し込んだ時に先ほど述べたようなエンディディの脇をラメラやソンフンミン、ケインがついて生まれる攻撃がある。これが2つ目だ。そのスペースをついてライン間で前を向くとソンフンミンやケインの1vs1からシュートへ持って行ったりSBからのクロスを供給したりといくつかのパターンでゴールに迫っていたように思われる。3つ目の選択肢は、間を閉められた時にSBへボールを預けて、プレスに来るSBの裏に動くCF2人に出すか、ボックスめがけたクロスをするという攻撃だ。このように、スパーズの攻撃は中盤での数的優位から生まれるギャップをついた攻撃だと言えるだろう。

 スパーズの攻撃方法から考えてもレスターの中盤での数的不利はIHやアンカーに大きな負担となっていた。では、レスターはこのような問題点をどのように解決していったのか。これについて考えていく。

4312へのシステム変更

 66分にアヨセ・ペレスに代えてプラートを投入したレスターはシステムを4312に変更する。アンカーにエンディディ、CHにティーレマンスとプラートが入り、トップ下にマディソン、2トップにヴァーディとバーンズという布陣に変わった。では、この変更はどのような影響をもたらしたのか。これについて考えていく。

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 まずは守備の面。これまでは中盤で数的不利が作られており、IHやアンカーの負担が大きくてタスクも不明瞭だった。しかし、4312に変更することで、トップ下のマディソンがアンカーのワニャマを、CH2人がスパーズのCH2人をマークするような形となり、マンマークに近いような守備になった。これによってこれまで不明瞭だったそれぞれの守備におけるタスクが明確化され、守備の改善につながった。

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 次に攻撃の面。これは、ビルドアップ時における恩恵が大きい。スパーズの前からのプレッシングは前3人でサイドに追い込み、ボールを持ったSBに対してCHがスライド、アンカーがそのカバーをするというものだった。これに対し4312の布陣を敷くことでアンカーをトップ下のマディソンに釘付けの状態にさせてレスターのCHをフリーにし、スパーズのCHがプレスにいっても2vs1の状況を作って突破することに成功した。仮にワニャマがレスターのCHへスライドしてもスパーズの逆サイドのCHがスライドしきれず、マディソンがフリーになっただろう。

 85分のレスターの勝ち越しの得点シーンはその効果が十分に表れたシーンである。ボールを持ったチルウェルに対してウィンクスがプレスをかけようとするものの、ワニャマはマディソンを気にしてスライドを行えず、結果チョウダリーがフリーになる。チルウェルの前線へのロングボールのこぼれ球をフリーの状態で回収したチョウダリーは、ワニャマがチョウダリーへプレスをかけようとしたためにフリーになったマディソンへパス。マディソンが強烈なミドルシュートを決め、勝ち越したというシーンだった。

 このように、4312へのシステム変更は守備の面ではタスクの明確化、攻撃の面では相手のスライドへの混乱を招いてCHの位置的優位性を生み出し、ロジャーズの采配が的中したと言えるだろう。

まとめ

 スパーズの前線からのプレッシング時は、前線3人でボールをサイドへ追い込み、中盤がスライドしてボールを奪う戦術だったが、その中盤のスライドのタイミングが遅れたためにプレスを掻い潜られることが多かった。リトリート時も同様で、ボールを左右に振られた時にスライドしきれずにチャンスを作られることが何度かあった。

 レスターの前線からのプレッシング時は、中盤の人数が数的不利であるためにIHの負担が大きく、ケインへのロングボールのこぼれ球をスパーズの数的かつ質的優位性によって回収されることが多かった。リトリート時もIHの負担が大きいのは変わらず、ティーレマンスの縦スライドが遅れてIHのギャップを簡単に突かれることが何度かあった。

 この問題に対してロジャーズは4312へのシステム変更を試みる。これによって負荷が大きくて不明瞭でもあった守備時のタスクをマンマーク気味た明確なものとした。そしてスパーズの中盤のスライド時に迷いを生じさせてフリーの選手を作ることに成功した。この流れからマディソンの決勝点が生まれたことから、ロジャーズの采配は見事に的中したと言える。


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