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「ホームへの自信はいかに?」 UEFAチャンピオンズリーグ ラウンド16 アトレティコ・マドリード vs リヴァプール 1stレグ マッチレビュー

試合結果

試合結果:ATM 1-0 LIV
得点者:4‘ サウール(ATM)
場所:ワンダ・メトロポリターノ
審判:パベル・ソコルニツキ
スタメン:下図
赤がアトレティコ・マドリード 黒がリヴァプール

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【前半】 自分たちの土俵で戦う

前回王者、そして今季も圧倒的な強さでリーグ戦を独走するリヴァプールをホームに迎えたアトレティコ。筆者が持っている両チームの特徴として挙げられるのは、「ホームスタジアムでサポーターが一体となって作り出される熱量と雰囲気で相手を飲み込むことができる」という点である。普段から両チームを追っているわけではないので何とも言えないが、リーグ戦では調子を崩しているアトレティコに対して、リヴァプールは独走状態。相反する近況を熱量で打破できるか!が1stレグの展望である。

戦術的な視点では、4-4-2守備というシメオネ率いるアトレティコの強力な持ち味を発揮できる局面にどれだけ持っていけるか!が鍵。リヴァプールの方も前節のノリッチ戦ではファイナルサードでの崩しに苦労した。リヴァプールの攻撃×アトレティコの守備という局面となれば、アトレティコの方は調子の悪さを引きずりすぎずに戦える。

そんなことを思っているといきなり試合が動く。4分にコーナーキックのこぼれをサウールが押し込んでアトレティコが先制。ボールがファビーニョの足に当たってたまたまサウールのもとにやってきたという形だったこのゴールは、正直なところラッキーゴール。もちろん開始早々は熱量を特に高く保って点を取りに行こうとはしていただろう。運も味方につけて一歩リードとなったアトレティコは、自分たちの土俵で試合を進められるようになる。

アトレティコの守備① ー前進守備ー

リヴァプールはいつものようにCB2人+アンカー+IHの傍らの4人で3-1を形成し、ボールを保持する。対してアトレティコは、先述のように4-4-2を形成。全体をコンパクトに保つことを主としているものの、リヴァプールの前線3枚の長所である「スピード」をロングボールで生かされないようにするため、最終ラインは高くてもハーフウェーラインより少し後ろ辺りに設定する。

基本的には待ち構える体勢を取るものの、SBからのバックパスがあればSHがリヴァプール後方の3枚にかけることもあり、それに伴ってCF2枚が後方3人のうちの残りの2人にプレスをかけ始める。ただ、リヴァプールの後方陣がボールの扱いに長けていることに加え、「裏」という選択肢を消すためにアトレティコの後方陣はそんなに前に出てこないことで、ここでボールを奪うことはほとんど出来ず、いなされる形となった。

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とは言うものの、アトレティコの方もものすごく緻密で、リヴァプールがアトレティコの1stラインを剥がしたとしても、ボール保持者がパスを出そうとする方向から回ることによってパス出しを遅らせ、陣形を整える時間を作っていた。

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結果的に、ボールは保持し続けるものの1stラインを突破できないリヴァプールは全体を押し上げるだけにとどまってしまう。前進するという目的は達成する一方で3つのラインを形成するアトレティコの守備を崩すという命題は変わらないまま。というわけで試合の大半は、リヴァプール崩しvsアトレティコブロック守備という構図になる。

アトレティコの守備② ーブロック守備ー

ブロック守備においては、アトレティコはブロックをコンパクトにすることで、まず中央攻めの手を断念させる。その結果としてリヴァプールの攻撃はサイドに誘導され、サイドが起点となる。

この試合においてアトレティコはある共通の狙いを持った。それが、「ペナ脇からフリーでクロスを打たせないようにする」ことである。ペナ脇からのクロスには、CBとGKの間を通すようなクロスと、マイナスの折り返しの2種類がある。ヘディングの強さというアトレティコの両CBの持ち味が生かせる土俵というのは、当然今述べた2つではなく浮いたクロスだ。この土俵に立つために、ペナ脇を塞ぐことを徹底していた。ではどのようにして塞いだのか。

(リヴァプール側から見て)右サイドでは、右WGのサラーが絞って半ばCFのような立ち位置を取り、その分幅取り役をアレクサンダー=アーノルドが行うという構造を取る。これに対してアトレティコは、幅取り役のアレクサンダー=アーノルドにボールが渡ればSBのロディが出ていって、SHのルマルが中に絞るという仕組みを採用。中に絞るサラーへのパスコースを切ることを徹底する。

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時としてIHのヘンダーソンがCBとSBの間を抜けていってパスを引き出そうとすることがあったが、それには中に絞るルマルがついていくことで対応。是が非でもペナ脇は使わせないぞ!といった風だった。

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一方の左サイドでは、右サイドと違ってマネがCF化することがないため、同じ方法を取ってもパスを引き出されやすい。これに対してはMFのトーマスがCBとSBの間を埋めるように下がることでカバーリングをし、対応していた。

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ただ、左サイドにおいてワイナルドゥムが攻撃に関わったり関わらなかったりすることがあったため、結果として左ではペナ脇への侵入を許してしまう形となった。それでもスペースを埋めているトーマスや、ヴルサリコがクロスを打たせまいと対応し、自由に使わせることはなかった。

開始早々の先制打で早々とアドバンテージを手に入れたアトレティコ。その後はリヴァプールがボールを保持しながらゲームを進めていくものの、自らの土俵に立つアトレティコを崩しきれず、1-0で前半は終了する。

【後半】 ハーフスペースで起点づくり

後半になると、リヴァプールは右サイドに修正を加える。前半のサラーはCF化することによってフェリペとマンツーマンの形となっていた。もちろんアトレティコの方でパスコースを塞ぐようにしてはいたものの、サラーの方もCBを背負うようにして留まるだけでボールを引き出せない。それ故にアレクサンダー=アーノルドは打つ手なし!となっていた前半であった。それを受けて、後半のサラーはCF化するよりはいわゆるハーフスペースで動きながらボールを引き出すようになる。

サラーは前半のような、CFとして背負いながらボールを受けてプレーすることの方が、狭いスペースでチャンスメイクすることよりも得意であり、むしろこれが得意なのはフィルミーノの方。後半に入ってからはだんだんとサラーとフィルミーノが立ち位置を変えるようになる。

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前半はこれが左サイドで行われており、何回かゴールに迫るシーンがあった。ただ前半はこれが左サイドだけというのが問題で、アトレティコからすれば対応しやすい。落ちてくるフィルミーノに対してサウールが出ていっても、右サイドで困ることはないのだから、そつなくフィルミーノへの対応ができる。その一方で後半は、両翼から突き刺せるようにすることで相手を揺さぶってできたスペースを突こうという手法をとった。後半最後の方には、右フィルミーノ、左チェンバレン、中央オリギとなっていたが、ハーフスペースを使うことに長けた選手をWGに置いているところからも、この狙いが垣間見える。

こうして修正をかけることでアトレティコが取らせまい!としていたペナ脇にもじわじわと侵入していくようになる。特にハーフスペースでの顔出しが巧妙なフィルミーノが置かれた右サイドからは何本かクロスも上がった。

こうして何度かチャンスを作りはしたものの、アトレティコの方もクロスやそのこぼれに対して8人で守るような体を張った守備をし、決定的なものは生まれず。そして徐々にクロップも2ndレグを含めた采配をし始める。ヘンダーソンに代わって投入されたミルナーは、ベテランとしてゲームを締めくくるタイプ。ここでなんとかアウェーゴールを!というよりは、失点を最小限に抑えよう!というような選手交代である。

試合はそのまま1-0で終了。自らの土俵に立ったホームチームが、冒頭で述べた「熱量で打ち勝つ」という部分を発揮し、1stレグはホームのアトレティコの勝利で幕を閉じた。

あとがき

開始早々に先制をし、ホームでのゲームを勝利で終えたアトレティコ。この試合でシメオネが度々サポーターを鼓舞していた姿はとても印象的で、詰め込んだサポーターが一体となった最高の雰囲気がつくられるホームスタジアムというのはとても羨ましい。

また、「守備」において普段から細かいところまでオーガナイズされていることも他にはない彼らの持ち味である。全体的な構造はもちろんの事、体の向きや走るコース取りなどまで徹底して仕込まれていることが、普段試合を見ない筆者にもものすごく伝わってきた。

一方で、相手のリヴァプールもアンフィールドというワンダ・メトロポリターノと同じ特徴を持つホームスタジアムを持つ。1stレグのこの試合でも後半にはじりじりと敵の侵入を許してしまうという展開になっただけに、アウェーでの圧力に飲み込まれてしまうのも想像に難くない。

逆に言えば、リヴァプールは全然勝機はあるということ。試合後のロバートソンの「次はアンフィールドだ。」というコメントからも、その自信が窺える。

ただ、アンフィールドに自信がある!というのは選手やスタッフ、サポーター含めた共通理解だろうが、それに伴った戦術を組むかはまた別の話な気がする。ホームスタジアムでの試合を行うということは、アウェーゴールを取られたらきついことを意味する。例えば、リヴァプールのCBは持ち上がりをしないことで知られているが、これは、中盤以上の選手にスペースを与えることやカウンター対策などの意図が考えられる。この持ち上がりを解禁すれば、攻撃の選択肢が広がる一方で、カウンター対策として新たな原則をオーガナイズしなければならず、その分失点のリスクが大きくなる。失点のリスクを大きくしても、もっと言えば失点をしても、それを上回るだけの得点力があると自信を持てばそれを採用するだろうし、そうでなければ採用はしないだろう。クロップがどれだけアンフィールドへの自信を持って試合に挑むかによって、組む戦術にも変化が出ると思う。2ndレグはその部分に特に注目していきたい。

トップ画像引用元
https://twitter.com/championsleague/status/1229861302631325696?s=21

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