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「経験を糧にして」 プレミアリーグ第27節 レスター vs マンチェスター・シティ マッチレビュー

試合結果

結果:LEI 0-1 MCI
得点者:80' ガブリエル・ジェズス(MCI)
場所:キング・パワー・スタジアム
審判:ポール・ティアニー
スタメン:下図
青がレスター、ピンクがシティ

第27節 vs Leicester スタメン

【前半】-1- 「不意打ち」で優位に

今シーズンのレスターの基本フォーメーションは4-1-4-1。ボール保持時も非保持時も基本的にこの形を崩すことはない。去年のエティハドでの対戦時もそうだった。年末に試合を行っただけあって、まだ記憶には新しい。

その一方で、この試合でのレスターは5-3-2を採用。ウルブズやシェフィールド・Uといった、シティを悩ませてきたチームが採用していたフォーメーションである。アヨゼ・ペレスやハーヴィー・バーンズといったサイドアタッカーを下げる代わりに、最終ラインを1人増やして厚みを持たせるとともに、CFを追加した形だ。

シティはいつもの通りの4-3-3。左サイドではSBのメンディが高い位置をとる一方で、右SBのウォーカーは絞って3バック化する。ベルナルド・シウバが内レーンへ絞り、中央レーンをアグエロとデ・ブライネが共有。ライン間に立ってボールを引き出すという、今までダビド・シルバが行っていたような役割を担う。普段のレスターが4-1-4-1ということもあってアンカー脇のスペースは一つの狙い目としていたのだろう。

ただ、不意打ちのようにレスターが5-3-2を採用したため、シティの選手たちは混乱する。レスターの守備時においてファーストDFとなるFW2人は、アンカーのロドリを切ることを徹底。そして、その後ろではMFの3人が面を作るようにして待ち構える。レスター は、中央突破を防ぐことを第一とし、外への誘導を徹底する。

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外への誘導を促したら守備は次の段階へ。この「次の段階」、左右で仕組みが異なるのがこの試合のレスターの特徴である。(レスターから見て)右サイドへ誘導した時は、2トップがスライドしてアンカーと近くのCBを切り、同時に大外担当のリカルド・ペレイラがボールホルダーのメンディへ寄せる。ティーレマンスも前に出て前線の選手へのパスコースを牽制し、囲みにかかる。レスターは右サイドにおいて、SBをボール奪取のための「囲い」のスイッチャーとした。

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また、左CBのラポルトも同様にスイッチャーとなっていた。2トップがアンカーとリベロ(=3バックの真ん中=フェルナンジーニョ)を切りながらラポルトにプレッシャーをかける。大外のレーンはSBのメンディしかいないため、奪うぞ!となればリカルド・ペレイラも前に出て牽制。先ほど述べた「囲い」の創出を、ラポルトのボール保持時も行っていた。復帰してまだ間もない彼にとっては、身体的な負荷はもちろんだが、脳の方にもかなり負荷がかかっていたと思える。ラポルトのパスミスから被カウンターという場面もあったが、カウンターとなればまた身体的な負荷が大きくかかると考えれば、後半の大事を取っての交代はあながち納得がいく。

一方の左サイドでは、役割が右サイドよりもマンツーマン気味。マディソンはウォーカー担当で、ウォーカーにボールが渡れば即座にアプローチを開始。2トップが左サイドでの守備を頑張っていたために手薄になりやすい逆サイドを、明確にマディソンの担当としたことで、ウォーカーにボール保持の余裕を与えない。

そして、この日のレスターのキーマンが、左CBで起用されたフクスである。マディソンが出て行って空いたスペースに立ち位置をとるギュンドアンにボールが渡れば猛然と飛びかかる。前を向かせないぞ!と言わんばかりのプレッシャーをかけて時間を作りつつ、周りの味方が囲むのを待つことがフクスの役割。厳しいプレッシャーで前を向かせないようにしているうちに、ウォーカーに出て行ったマディソンが戻ってきて挟み撃ち。当然、トップの2人もロドリやフェルナンジーニョへのバックパスを警戒してパスコースを切る。左サイドではギュンドアンをボール奪取における狙い目とし、「囲い」を形成した。

また、フクスが出て行った時にしっかりディフェンスラインがスペースを埋めるようにスライドをしているのも流石で、正直シティは(シティから見て)右サイドを攻撃の拠点とすることはできなかったと思う。

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シティの方も、所々で流石だと言えるようなプレス回避があったものの、ミスが目立ち、カウンターを受けることも多かった序盤。レスターはボール奪取できる!と自信を持って前に出てくるのに対し、シティがプレス回避できるか否かという序盤の展開。シティはプレス回避できれば、できるだけ早く攻めようとするし、レスターはボールを奪えば即カウンターへ。展開の激しい序盤となった。

【前半】-2- ベルナルド・シウバの工夫

ただ、このような展開でも黙っちゃいないのが、我らのシティだ。攻撃の拠点を、フクスが出てくる右サイドではなく左サイドとする。ここでシティは、WGのベルナルド・シウバを落とすことで出しどころに困っていたラポルトをサポート。同時に、WGである彼が落ちてくることで、MFのティーレマンスを連れて行き、デ・ブライネにアンカー脇のスペースを与えることに成功する。不意打ちで迎えたこの試合だったが、前半も半分が過ぎたかな?という時間帯で対応される結果となってしまったレスターは、当然混乱。新たな命題を見出されることとなる。

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一見、レスターが左サイドで行っていたようにCBが出ていけばいいじゃん!って思えるが、相手がデ・ブライネなのがポイント。マークを背負ってもなおドリブルをしたり簡単に叩いてもう一度受けたりと、質的優位性の象徴とも言えるようなプレーで一気に相手を押し込む。受けた楔をヒールでメンディに出したり、ボールを受けてから一振りで一気に逆サイドまで展開した場面は覚えている方も多いだろう。

また、拠点となった左サイドだけでなく、右サイドでもデ・ブライネがキーマンに。デ・ブライネが右サイドに流れることで右サイドでは人数が1人多くなる。デ・ブライネがフリーになることで、プレスを受けたウォーカーやギュンドアンがそれを回避できるようになった。

ただ、これには欠点もある。ドリブル突破を得意とするマフレズは、当然密集地帯よりもスペースがあった方が自分の持ち味を発揮できる。デ・ブライネが右サイドに入れば自分のスペースが狭くなるため、マフレズには少し厳しかったかという印象。結局、攻撃は左サイドが主となった。

序盤の苦しい展開を打破し、なんとかいつも通りの押し込んでからの崩しの場面にまで持っていったものの、これでゴールが決まるか!と言われるとそうではない。最前線の2トップはカウンター要員として残り、あとの8人は全員守備に戻って5-3ブロックを形成。ライン間を極力狭くし、中央で自由にはさせないぞ!という陣形で待ち構えるため、シティの攻撃は当然サイドに誘導される。

この日のメンディは絶好調。リカルド・ペレイラとの1vs1を制し、果敢にクロスを上げていた。先述のように、押し込むまでの形が左サイド中心であったため、攻撃の手はメンディの一本槍状態だった。

不意打ちで相手が混乱状態にあった序盤のうちに決定期を迎えたものの決めきれなかったレスター。前半途中には対応されてしまったが、シティの方も攻めあぐねた状態。0-0で前半は終了する。

【後半】 配置変換で安全確保を

後半になると、シティは前進時の立ち位置を修正。ギュンドアンが低い位置に入ることで3-4-2-1を形成する。この狙いとしては、前半にベルナルド・シウバが行っていたような後方のサポートを配置上しやすくしようというものだろう。そりゃまあ、わざわざWGが下がるよりはこれに慣れているギュンドアンがやったほうがいいわな、と割と納得のいく変更である。

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3-4-2-1にすることによって相手はどのような反応を示すか。前半は、ウォーカーにアプローチすることを自分の役割としていたマディソンだが、すぐ近くにギュンドアンが加わったことで2vs1を作られてしまい、ボール奪取の機会を失ってしまう。そのため、無闇に前に出ていくことはせず、後ろで待ち構えることを選択する。2トップの方も、シティの後方5人に対してボールを奪おうとするのは無理だと踏み、プレスをかけることをやめるようになる。

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こうなれば、シティは前半と同様に、崩しの方に専念できるようになるわけだが、どう崩すかという命題も前半と同様につきまとってくる。前半はあまりボールに触る機会を得られなかったマフレズが中でボールをもらいにくるなど、流動的になることで打開を試みるも、レスターの体を張った守備に悪戦苦闘。前半の頼みの綱になっていたメンディも、相変わらずクロスを上げ続けるが、決定期には至らない。

ただ、ホームのレスターは現在3位のCL出場権を争うようなチームであり、引き分けで良いなどとは全くもって感じていない。前半の攻撃方法に修正を加える。前半は、「奪ったら裏」を徹底し、CBとの1vs1を作り出すことのみを行っていた。この影響でシティのDFラインが低くなったため、後半になると「裏」だけでなく「手前」でうけることも行い始める。「手前」のスペースで受けた後、MFに落としてサイドに展開。機動力に優れた両WBや代わって入ったハーヴィ・バーンズの突破を頼りに、サイドをえぐっていく。速攻の選択肢を増やして、本格的に勝ちに行こうと試みる。

また、この姿勢は守備面にも変化を及ぼす。だんだんと、後方でのリスクを背負ってでも前から奪いに行こうという気を見せ始め、前がかりになる。シティが自陣側でボールを持っているのにカメラにチルウェルが映ってる!なんてことが何度もあった。

レスターの姿勢がアグレッシブな方へと移っていったことで、再び試合はオープンな状態へ。シティの方も、レスターのブロックを崩せないのならブロックが整う前に攻撃しちゃえ!と、デ・ブライネを中心に速攻を始めるようになる。

そんな中で80分に待望の先制打が生まれる。起点となったのはマフレズのドリブル。レスターが、ゴールキックからまた新たにブロックを構築しようとしていたところを、スルスルとマフレズがドリブルで抜けていったことで一気にゴール前へ。最後は途中交代で入ったジェズスが沈め、先制。前節のウェストハム戦ではゴールが遠かっただけに、ジェズス自身にとっても待望のゴールだっただろう。

一点をとってしまえばあとはシティが優勢。所々でゴールを狙う仕草は見せるものの、ゲーム自体を終わらせにかかるようなボール回しをして相手をいなす。

試合はこのまま終了。ミッドウィークにCLを控えたシティが試合に向けた弾みをつける形でゲームを終えた。

あとがき

ミッドウィークに大一番を控えての一戦。直前にウィンターブレイクを挟んでいたこともあって、CLでの選手起用を念頭に入れたメンバー構成や試合運びを考えていかなければいけない。シティの理想は「リーグ戦で勝ち点を落とさないようにしつつ、CLを万全の状態で臨みたい」である。

この日のレスターは見事に厄介な相手だった。4-1-4-1という基本フォーメーションではなく5-3-2というフォーメーションを採用するという「不意打ち」をすることで、相手を混乱させ、その隙に点をとるというゲームプランは、成功まであと一歩というところまでいった。そして、それにシティが対応した後も、しっかりとしたブロックを組んで隙を与えないようにしつつ、カウンターでゴールに迫るというプランニングまでされているのは、流石3位のチームといったところ。終盤に集中力が切れて隙を与えてしまったのは惜しいところだし、しょうがなさもある。終始シティを苦しめた。

ただ、これはシティ側からしてみれば負荷が大きかった。復帰して間もないラポルトは、何度もスプリントせざるを得ない状態に陥ってしまったし、それ以外の選手にも身体的な負荷は大きかっただろう。ここからマドリードへ移動して、、、と考えると正直ちょっと心配になってくる。

レスターの方のゲームプランが優れていたとはいえ、シティの方も負けていないくらい対応が早かったところは、ポジティブな要素だろうか。前半のヴァーディの決定期は入ったかと思ったが、20分ごろにはベルナルド・シウバが落ちるやつをやっていた。レスターからしてみれば、「不意打ち」での混乱をどこまで持続させられるか、そしてその間に点を取れるかがキーポイントにはなってくるが、流石に20分は早い。ヴァーディの決定期が10分経っていなかったとはいえ、対応が早すぎる。

これはおそらく経験則から来る部分が大きいだろう。本文冒頭でもリンクを置いておいたが、実は前半戦でのレスター戦でもベルナルド・シウバが引き気味になるやつは行われている。あの時は2ボランチの一角としてだったが、理論的には似たような話。それまでの経験に基づいて、引き気味になることでスペースを創出するということを実行できたのは、ポジティブな要素として挙げられるだろう。意図的じゃなかったら、運がいい!!

来たる大一番を前にした試合で苦戦を強いられつつも、経験則で迅速な対応をし、勝利にまで繋げられた。サポーターとともに歩んだ4年目のペップシティは、自らの持つ経験によって、我々サポーターにも自信を授けてくれる。

トップ画像引用元
https://twitter.com/ManCity/status/1231270146989268996?s=20



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