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「一打に秘められた危険性」 プレミアリーグ 第23節 マンチェスター・シティ vs クリスタル・パレス マッチレビュー

試合結果

試合結果:MCI 2 vs 2 CLY
得点者:39’ C・トスン(CLY)
    82’ S・アグエロ(MCI)
    87’ S・アグエロ(MCI)
    90’ フェルナンジーニョ(OG)
場所:エティハド・スタジアム
審判:グレハム・スコット
スタメン:下図
水色がマンチェスター・シティ 青がクリスタル・パレス

第23節 vs Crystal Palace スタメン

<前半> 〜「大外」という経由地〜

前節6得点の大勝を遂げたシティの今節の相手はクリスタル・パレス。エティハドでのパレスとの試合といえば昨シーズンの敗戦だと言うCityzenは多いはず。タウンゼントのセンセーショナルなダイレクトボレーは、今でもCityzenの脳裏に焼き付いている。

そんな苦い思い出を払拭すべく臨んだこの試合。展開はやはりシティのボール保持一色に。まずはシティのボール保持の局面を見ていこう。

シティ ポール保持 × パレス ポール非保持

シティのボール保持時のフォーメーションは前節と同じ3-1-6。左SBのメンディが大外の高い位置を取る一方で右SBのカンセロが3バックの一角と化すような形。WGが中に絞って6人が最前線に並ぶような形だった。

対するパレスはペナルティアーク辺りを最終ラインのCBが位置するような4-5-1を敷く。MFとDFのライン間のスペースを小さくしてコンパクトな形にし、「中央を閉めて外へ誘導」を大枠とする戦術をとった。しかし、4-5-1といっても左右が完全な対称ではなく、右SHのザハがやや高めに位置を取って、カンセロを監視するような役割を担っていた。

この日トップに入ったトスンは、要所要所でプレスバックをするものの、基本的には守備免除の立ち回り。守備組織がかなり低い位置に作られていたこともあって、シティはノーストレスで前進を行う。というわけで、パレスの低い位置の守備組織をどう攻略するか!が前半の命題であり、テーマともなった。

シティの崩しにおける主戦場となったのは左サイドである。右サイドではザハが内レーンに入ったカンセロの監視をしていたため、前進の出口が左サイドとなったわけだ。この前進の出口となる左サイドを有効活用したのが、ギュンドアンとフェルナンジーニョ。2人は左内レーンに入ってボールを引き出し、攻撃におけるエンジンの役割を担った。

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この左内レーンに2人が入ったことで、まず一つ、守備組織の綻びを誘う。この日右CHに入っていたクヤテがボールを持つギュンドアンを牽制するように前へ出る。すると「中を閉める」を守備における第一優先としていたパレスは、そこからの楔を入れられないように右SHのアイェウとアンカーのマッカーサーが内側に絞るようになる。これにより、大外で高い位置を取るメンディがフリーに。ギュンドアンはフリーのメンディを使う。「中を閉められたから外を使った」って感じ。

こうしてフリーで受けたメンディが選択した手段は「斜め」のボールである。内側に絞ったB・シウバがSBをピン留め。D・シルバはクヤテのカバーを行っているマッカーサーから浮いて一瞬フリーになる。ノープレッシャーで冷静にボールを捌ける状況にあるメンディは、その一瞬を見逃さずにD・シルバへ斜めの速いボールを出した。

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このD・シルバが、動く上での狙いとしていたのは、ペナルティエリアの角の「ニアゾーン」と呼ばれるスペースである。CBが出ていくにはリスクがありマークが曖昧になりやすいスペースであるこのスペースを活用した攻撃というのは、シティの攻撃パターンの定石となっている。この日もD・シルバがマークを剥がしながら左サイドのニアゾーンを狙って動き、メンディからボールを受けていた。

ただ、これがそのまま得点につながったかというとそうではない。パレスはトスンとザハを除いた8人がコンパクトに守備組織を組んでいるため、D・シルバにパスが渡ればすぐにパレスの選手らは囲うようにして寄ってくる。大外を経由するという手法も手数を要するため、パレスの選手たちにとっても準備をしやすい。ニアゾーンでのクロスやシュートは弾き返される結果となった。

ただ、シティがニアゾーンを活用する手法のみをとったわけではない。もう一つの手法として大外からのクロスが挙げられる。時として左大外の奥で受けたメンディが中央のアグエロやスターリング目掛けてクロスをあげることもあった。

このようにメンディがクロスをあげるという時はパレスの方も空中を使うクロスに対する身構えをするようになる。この時空くスペースがペナルティアーク付近のスペース、いわゆるバイタルエリアだ。大外のメンディがマイナス気味のボールを供給してそこからシュートを打つシーンは何度かあった。

というわけで、シティの攻撃方法はD・シルバを中心としたニアゾーン活用と大外からのメンディのクロスの二つ。いずれも左サイドからということもあってなかなかパレスの守備組織に綻びは生まれず、チャンスは作れなかった。

パレス ボール保持 × シティ ボール非保持

圧倒的にシティのボール保持の時間が長かったため、パレスの主な攻め手はカウンターに。ここからはそのパレスのカウンターをみていく。

この日トップに入った新加入のトスン。パレスのカウンターの起点はこのトスンである。ボールを奪ったらトスン目掛けてロングボールを蹴る。そしてトスンにボールを当てると同時にSHのザハとアイェウが裏を取る動きをする。パレスのカウンターの狙いはSBの裏で、特に左はザハとカンセロのマッチアップで質的優位となっている。トスンにボールを収めさせてそこを起点にSHにSBの裏を取らせるというのがパレスのカウンターの狙いだった。

しかし、これは若干の無理やり感が残る結果に。トスンがロングボールを収めて前を向くというのはトスンにかかる負担が大きすぎるのだ。守備組織が低い位置にあるためCHが出ていくには距離がありすぎるし、後ろ向きでCBを背負った状態からボールを保持して前を向くというのはそもそも難しい。トスンは何回かそれをこなしてはいたものの、構造上困難な形となってしまって、このカウンター戦術が機能していたとは言い難かった。

両チームともに攻撃の歯車が噛み合わず上手くいかない展開となったこの試合は、39分にコーナーキックを得たパレスが最初のシュートを沈めて先制点を奪取。0-1でパレスがリードした状態で前半を終える。

<後半> 〜中と外の使い分け〜

後半に入ると、シティは攻撃の配置を修正。前進の出口が左サイドとなって攻撃の起点が左サイド寄りになっていたために左寄りになっていたD・シルバの位置を中央のレーンに調整する。この狙いは「中央」と「サイド」の使い分けを簡単なものにするためである。

サイド攻撃(左サイド)

左サイドのメンディを見るのはSHのアイェウ。パレスの守備は「中央閉め」が第一であるため、このアイェウがつきっきりでメンディを見ることはできない。メンディは後半になって盛んに裏を取るようになり、配給役のフェルナンジーニョやギュンドアンからボールを受けた。パレスは「中央閉め」を基本としているため、ボールを受けたメンディはクロスが筋。左サイド奥深くから盛んにクロスをあげていった。

中央攻撃

基本が「中閉め」のパレスに対する中央攻撃は、狭いスペースの攻略が必至となる。配給役のギュンドアンなどからMFとDFのライン間に位置するアグエロ等に楔を入れてそれをスイッチにコンビネーションで崩していく感じ。シルバとジェズスの交代は、手前へ引いて叩くことが主のシルバよりも裏へ抜ける動きと手前へ引く動きを行えるジェズスの方が良いという選択だと考えられる。

「中央」の攻撃を見せておいて「サイド」攻撃を行う(またはその逆)という手法をとることで「サイド」攻撃をやりやすくするというやり方をとった後半のシティ。ただ、「サイド」攻撃は「クロスボールの質」と「相手の集中力切れ」が噛み合わないといけなく、確率論になる。というわけで、ひたすらクロスを入れなければならず、前述の二つが噛み合うまで待つ羽目に。今シーズンよく見るような試合展開となった。

ただ、この試合はその努力が実る形に。1点目はクロスボールの質に長けていたし、2点目の時のアグエロは完全にフリーになっていた。こういう場面で決めてくれるアグエロはものすごくありがたい存在である。

そんなこんなで逆転に成功したシティ。しかし、最後には恐れていたカウンターからの失点を喫する形となる。

前半カウンターで上手くいかなかったパレスだが、後半になるとそれを修正。ボールを奪ったら突破力のあるSHに預けてドリブルで敵を剥がさせるようになる。と同時に、前半はポストプレーヤー役だったトスンを裏抜け役に変更。敵を剥がして中央に向かってドリブル侵入するSHからのパスの引き受け役となった。

後半最後の得点もそんなSHザハの突破力を生かしたものである。カンセロを振り切ったザハはペナルティエリアへ侵入。ストーンズを交わしきりクロスをあげる。クロスボールは運良くフェルナンジーニョの足に当たり、ギリギリでパレスは同点に追いついた。

こうして試合は2-2で終了。昨シーズンの苦い思い出を払拭できずにゲームは幕を閉じた。

あとがき

なかなか苦しい試合となったこの試合。ここのところ調子を取り戻していただけに痛い結果となってしまった。

選手の多様性があるため戦術における選択肢の幅に長けているというのが今のシティに対する私の見解。大枠にある概念のもとで、選手の起用次第でその運用方法を変えて相手を攻略できるというのが現政権の強みではないかと思う。ただ、その大枠にあるポジショナルプレーという概念のもとでプレーしている以上、このシティというチームは超噛み砕いて言えば「ポゼッションサッカーの質で勝負するチーム」ということになる。リヴァプールのようななんでもできますよ!ってチームじゃなくてポゼッションなら負けないぞ!というチームが今のシティ。ペップはこのサッカーを極限的に追求しシティに落とし込もうとしていたのだと思う。

この試合の率直な感想を述べるなら「先制されると苦しい」である。それまでの試合展開にかかわらず、シティに対して先制点を奪取すればそのチームは攻撃を捨ててでも守備をするようになる。前述のようにシティが「ポゼッションの質が高い」チームだからこそ、それをくじくように人数を並べて必死で守備をするようになる。逆に言えば、それをされるとシティとしては八方塞がりなわけで、今節のようなクロス攻撃しか手段がなくなる。大外からのクロスボールはゴールの確率が高くなく、ターゲットとなる選手もいないため得点できるかどうかは相手の集中力に依存する。それは後手に回っているのと一緒で、それが苦しさを表しているように思える。先制されたら打つ手なしという今の状態で、格下相手にどのようにこれから戦っていくかを考えなければならない。シティというチームだからこそ一打には怖さが秘められている。今節はそんなシティの「脆さ」に警鐘を鳴らすような試合だったのではないだろうか。

トップ画像引用元
https://twitter.com/ManCity/status/1218548566702075904?s=20


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