陸海空

 過ぎたる3月10日は陸軍記念日であった。という事はつまり、東京大空襲の日でもあった訳だ。
  ネット民の間でそれなりに人気があるように思えるコンテンツの中で比較的、現実をある程度反映したミリタリー的な要素が表に出てくるものの内で、陸海空の「空」が弱いのはなんでだろう、という問いをこの辺りから考えてみたい。

 陸海空のうち、まずは陸から扱おう。『星のカービィ』で言うところのハムスターだ。これは何と言ってもガルパンだろう。アマゾンプライムビデオのURLも貼っちゃう。
  ここでの陸というのは、つまるところは戦車だ。日本軍、つまり旧帝国陸軍の戦車は欧州のそれらと比べるとやや見劣りする。赤軍と第三帝国のガチンコ大戦車戦、みたいなものとは無縁だ。
 ガルパンが日本(というか旧帝国陸軍)の影が薄いのにも関わらず成立するのは、当時の同盟国であった第三帝国のイメージを借りているからだ。思い出して欲しいのは、主人公の乗っている戦車がそもそもドイツ製であるという事、最終回の対決も共にドイツ戦車によって繰り広げられるという点だ。
 誰が言ったのかは知らないが、ナチスの技術は世界一である。そして、その世界一の技術を持つナチと大日本帝国は同盟国であった。共にコテンパンに負けたけど。
 ここから導き出される結論はと言えば一つ。ナチの物は日本の物。これしかない!
 この故に、陸軍の不在は意識されないか、あまり問題にならない。ナチスの存在は、旧帝国軍というある意味では日本的な存在の象徴を代理する。この借用は技術的な物に限られる。アーリア人やら、当方生存圏やら、そういった思想的な物が関連付けられる事はない。現代においてナチのこうした思想の数々は完全にタブーであるし、そもそも日本人も人種としての大半はアーリア人によって管理されるべき劣等種に分類されるであろうし、そもそもそうした思想に馴染みがない。少なくとも、戦車を見て「戦車!強い!」と理解するのに比べればはるかに複雑だし、興味が湧かないし、そもそも要らない。
 ともかく実在した物の数々を、主役として、あるいは作品を象徴する存在には、それなりの存在感を持つ物の登場が求められる。

 では海。これはもうお分かりですね。艦これですね。今はあまり艦これの話を聞かないような気がしないでもないが、(代わりにアズレンに勢いがあるように感じられる)瞬間風速という意味ではやはりなかなかの物だったであろう。
 旧日本軍というくくりで見れば、陸軍に比べてもまだ海軍の方がマシだろう。何せあの世界のアメリカ軍と太平洋上で空母大合戦をやっているし(これはあの中国でも成し遂げていない偉業だ)、ビック7と呼ばれるような戦艦を保有しているという事は、今でいえば核兵器保有のようなもんだろう。潜水艦もちゃんとしていて、イ400は戦後アメリカに接収され、ミサイル発射潜水艦という発想の基となる物であった。これらに対するツッコミとして妥当なのは、結局戦争には勝っていないという事だろうがともかく、モノとしはちゃんとした物あったんだぞ、と威張る根拠としては十分だ。自国で調達できるのならば、わざわざナチを借りてくるまでも無い。

 問題なのは空。空となると日独共にろくな思い出はない。先に挙げた東京大空襲しかり、ドレスデンも廃墟にされている。旧日本軍に空軍なる物はないが、海軍のゼロ戦、陸軍の隼など、飛行機自体はちゃんとある。しかし、主役を張れるような航空機は無い。主役を張れるような航空機とは何か?それは重爆撃機だ。爆撃機それ自体なら、旧帝国軍にもナチにもある。しかし、「重」爆撃機となると話は別だ。ここでの重爆撃機というのは、四発爆撃機としよう。つまり、日本でいうB29、欧州大陸でいうB17、ランカスターやハリファックス等の四発重爆撃機で連合側は空爆を繰り返したのに対し、軸国は運用し得なかった。
 こうした存在を欠くがために、あるいはそもそも「敵」としてしか存在し得ないがために、空をモチーフとした物はあまり人気が出ないか、実在した物をそのまま登場させる事ははばかられる。あるいは、こうした理由から人気が出ない。
 さらに空とは異なり、少なくとも沖縄を除いて、海と陸は侵略の記憶とは切り離されている。これ故に、コンテンツの一部として組み込まれた物を拒否感無く受け入れる事が可能であるのだ。

 とまあ長々と言ったが、筆者自身別にこれが正しいとはあまり信じていない。ただ単にコンテンツとして面白い物が無いだけかもしれないし、多分そんなんだろう。

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