かごしま総文(高校演劇全国大会2023)を観て

7月30日、私は午前4時を回ったころに起き、そんな寝ぼけ眼の状態で茨城から鹿児島へと向かった。初めて鹿児島に行くもんだから、不安だらけで。初めて一律料金のバスを使ったり、路面電車を使ったりと、なんとか会場まで到着することが出来、無事観劇できた。

結論から言うと、「バチバチに面白かった!!!」です。観に行って良かった。お金は無くなったけど。

私が高校生の頃は、こんな発想があっただろうか、こんな演技が出来ただろうか、こんな体力があっただろうか。生徒講評委員の方々も、とても高校生の感性とは思えない素晴らしい考察・討論をしており、大学生の私は圧倒された。最近の高校生はすごい。

この余韻が冷めやらぬうちに、下に感想をまとめます。ネタバレ注意!

1.立川女子高校「あのこをさがして」
かごしま総文いちばん最初の上演なのですが、なんと、観れなかったんですよね~~~~!!!どう頑張っても飛行機の到着が間に合いませんでした。生徒講評だけを聞いてましたが、めちゃくちゃ観たかった。いや~。

2.津曲学園鹿児島高校「本当の朝」
ここから観れました。なので個人的には「ここからだ!」という感じで。
自分が経験した卒業式も、周りのみんなは卒業することが当たり前だと思ってたけど、そんな事がないこと、そんな子がこの世のどこかにはいるんじゃないかと考えさせられた。何らかの事情がある人、それをどうにかしたい周りの人、何も知らない人。それらが本当の事を隠して平然と過ごせている日常が、なんともすがすがしく映ってたけど、これが現実なのだなぁ…と。本当の事を言わない方が何事もなく暮らせる、という事実を突きつけられたような気持になった。
周りの人たちは、なんとかしたいというのはどういうことなのだろうか、卒業させたいという気持ちは、主人公の女の子にとっては解決策なのか?というところについては、考えさせるようなところがあった。その女の子は卒業をしたかったのはもちろんだが、それよりも前に何とかしたいと思っていたところがあったんじゃないか、と考えた。だからこそのあの最後の行動だったのではないか、と。
あの好きだった男の子は本当の事を隠さずに何事もなくしたかったのかな、と思うと…。あのおちゃらけっぷりもまた考えさせられる。

3.水沢高校「空に響け!」
(出身ブロック(東北)なので、個人的に応援してます!)
でもその偏見無しでも、個人的には好きな作品だった。応援は、その人に応援したいっていう気持ちがあって響くものなんだなあと感じたし、そのためならちょっと泥臭い練習もできるんだなあと思った。けどそれを笑う人たちがいる。この作品では1人の女の子(主役)とその子と仲が良い女の子が主軸だったけど、主役の子がその子の事をちゃんと「かっこいい」って思ってるところも純粋で良かったし、だからこそその子の事を笑う人たちへの気持ちも募って、あの場で爆発したのかなあと。もちろん、思っていることを始めは上手く伝えられなかったかもしれないけど、その子に背中を押されて伝えられていて良かった。その子に応援される主役の子、そして主役の子も陰ながらその子を応援している、という構図も見えた。
最初と最後のセリフ、「空に響くのは、太鼓の音。それから…」というセリフが印象的だった。それからの先に続くものを考えた時に、声やそれぞれの思い、色々なものが交錯している様子が想像できた。
あと、ばんからがカッコよい!!よさこいがカッコよい!!踊りがとにかくかっこよかった。照明の効果も相まって、すごくよかった。惹きつけられた。応援の声もただ叫んでいるだけでなく、透き通るような、太鼓の音と一緒に空に響くような、そんな声だった。

4.網走南ヶ丘高校「スパイス・カレー」
生徒講評でも言われてたけど、カレーを作る工程の中でこんなにドラマが生まれるんだ!となった。そのカレーにもいろいろな思いがあって、それは人それぞれで。だからこそ口に出さないと伝わらなくて、結果的にぶつかり合って。そんな中でも、最後にカレーをみんなで食卓を囲んで食べるだけでそれがなんとなく伝わって、それも含めての「美味しい」という言葉なのかなと。それはおばあちゃんの味を完全に再現できたものではなく、その女の子が作った味になったかもしれないけど、それもまた、おばあちゃんの思いを引き継いで作っている様子を表しているように思えたし、だからこそ、その女の子の思いも自身の思い出も含めて、母親たちは涙を流したのかな、と思った。
子どもたちには分からない親の事情のようなものもそのドラマの中に垣間見えて、もう大人になってしまった自分はなんとも言えない気持ちになった。「そういうものなの」という一言が事情を全て丸めているのが、きっと高校生(子供)である人たちには受け入れられないことなのかな、という苦しさがあった。

5.大同大学大同高校「ヒッキー・カンクーントルネード」
初めの方でプロレス?のような全身タイツで出てきた時はめちゃくちゃコミカルじゃん!と思ったし、それが二人に増えた時はもう爆笑だった。ただ、その二人にある事情が少しずつ見えてきて、だんだんと緊迫したシーンになっていったように感じた。
「同じ場所を回っているだけ」というのは家に引きこもっている人も、外にでて働いているような人も、ほとんど同じはずなのに、なんでこんなに言われようが違うんだろう。家に引きこもっている人だって、なんらかの事情があるのに、なぜ家の外へ引っ張り出されなければならないのだろう。そんなことを考えさせられた。家の外へ引っ張り出そうとする人と、それは無理にしなくてもいいんじゃないかという人とのやり取りの中には、とても考えさせられるものがあった。
最後には妹の力もあってか、主人公が家の外に出ようとしていて、確かにこの人たちの言葉や動きで成長できたような様子も見られた。知らない人から何かをされるよりも、信頼できる妹からの言葉が信用出来ているような様子が、その主人公の特徴を表しているようにも感じた。

6.観音寺第一高校「事情を知らない風間さんがぐいぐいくる」
自分は転校をしたことが無いため、転校生への期待?のようなものはすごかったように記憶している。それはかつての転校生の人たちはどのように感じてたんだろう、と考えさせられた。転校生だから、楽しい思い出を作りたくない、というのは、高校生にとってはすごくつらいことなんじゃないかと思った。せっかく楽しい思い出が出来ても、離れてしまったらまた0から新しい思い出を作っていかなきゃいけない、という、その人ならではの辛さを経験したうえでのあの底なしの明るさだったのか、と考えると、とても胸が痛くなる。
特に今回出場している高校生たちは、自分たちと入れ替わって高校生になったわけだから、コロナ禍真っ只中の子たちである。きっとその子たちは、大学生だった自分と同じように、大きな行事もないままに成長してしまったんだろう。結局みんな転校生みたいなものだ、という言葉には、少し納得してしまった。
かざぐるまを回して遊んでいた4人がいたが、あれが4人にとっての1つの小さな思い出になっていたし、最後のかざぐるまは、今までとこれからの思い出の数々のように見えた。最後にみんなが自分の口でかざぐるまを回していたのは、自分ですこしずつ思い出を作っていく様子を表しているように思えた。

7.久留米大学附設高校「戯王【gi:oh】」
自分は「祇王」についてまったく分かっていなかったので、これがなぜ「戯王」というタイトルなのかについては、最後まで疑問に残っていたが、パンフレットや生徒講評の力を借りて、「そういう事かー!」となった。
演劇を通して伝えたい思い、マイクを通して伝えた言葉、音楽が代弁してくれた思い、そんなもので積み重なったドラマの最後に、ちゃんと本音で向き合い、手を差し伸べる、という流れがきれいすぎて感動した。最後の「不安ってそういうものじゃん!」がすごく印象的。でもそのくらいいつも感じることだし、些細なんだなあ、と改めて考えさせられて言葉でもあった。あの女の子の演技も相まって、すごく良いセリフだったし、印象に残った。
最後の構図はロミオとジュリエットの構図にしていたんじゃないかと思った。障害をどけて手を差し伸べる構図。なんか最初の方でもロミジュリの事が言及されていたような記憶(なかったらすみません)があって、「複線回収キターー!!」となった。
あとここでも女の子が踊ってた。みんな踊りが上手い。曲と演出と踊り、めちゃくちゃ惹きつけられた。

8.秩父農工科学高校「群白残党伝」
昨年も観た高校なので、期待しかなかったけど、個人的にはその期待を超えてきた感じがした。大々的で手のかかった舞台美術はもちろん、役者さんの演技も良くて、お金も時間も体力も全部めちゃくちゃ使われてる、まさにパワープレイな感じがしてすごくよかった。あの舞台美術はどうやってできているんだろう、どうやって運んだのだろう、そんなことを考えていた。
1つのそれなりに大きな事件の中の、1つの小さな屋敷の中での話だったが、そのなかでもいろんな人の事情や志、正義とかがぐちゃぐちゃに絡まって、それでもってなにもうまくいかず、何も変わっていない世の中や現実を突きつけられたような気がした。ここまで人の感情が大きくても、自分らはこの事件の事をほとんど知らないし、それが数多くの1つでしかなくなっているという現実もあった。
最後に死者のような人がたくさん出てきて、ど真ん中に女子高生が立つ。なんとなく、今後の世の中を背負っているような、任されているような構図に見えた。それがすごくきれいに見えたけど、実際は裏でとんでもなく泥臭く、沢山の人の命がなくなったりしながら、今の世の中が進んでいるんだなあと感じた。

9.城東高校「21人いる!」
この狭い地下室という空間に、おなじ演劇部の21人がそろうことが無かったという結末が切なかった。でも最後に残った人がTシャツを並べるところで、その中で21人がそろっている時間をその中で想像していて、でもそれは想像に過ぎない、という現実と理想が交互に混じる感じが見えて苦しかった。
何気ない演劇部の様子だったからこそ、その日常が早く過ぎていくし、それが少しずつ無くなっていくのが、観ている側としてもすごく怖かった。その無くなっていく要因が外の要因だけでなく、内部事情も絡まっている所がリアルで怖かった。
結局外の世界では何が行われていたのかが説明されなかったが、演出だけでもどんなことが行われていたのかが想像できたし、その演出にも圧倒された。人のうめき、点滅する光、騒がしい物音、それだけで壮大である事が伝わってきて、「ああ…(語彙力)」となった。「ボランティアに出る」という表現も、警告とかもやけに現代チックだったのが気持ち悪くて良かった。
最後に男の子が女の子と話している所、「わたし、やりたい演劇があるんです!」からの、男の子が部屋の扉を閉じる、という演出。やりたいで終わってしまったという現実が見えて、切ない気持ちになった。
全体的に個人的にめちゃくちゃ好き。個人的優勝。

10.三刀屋高校「ローカル線に乗って」
三刀屋高校も前回のものを見ていたので、期待していたが、これもまた期待を超えてきた。自分はまあまあ記憶力が良い方であると思っているので、前回主役を演じていた子がどの子か、すぐにわかった。ちょっと嬉しかった。
最初の車掌さんの前説で、場の緊張がほぐれるようなつかみがあったのかな、と思いきや、それが物語のいたるところで複線になっていて、それが回収されていくのが、みていて気持ちよかった。スマホをマナーモードにしていたので、本当に反省している。あれは電源をオフにしてみるべきだった。
戦争のアラートが流れた時には、全身に鳥肌が立って、「これからこの人が戦地に旅立つのか…」となった。その旅立つ人やその奥さんの人の、お国の言葉や考えに逆らって、桜やその人の事を思っている言葉や行動がすごく刺さった。こんな戦争の世の中でも、人それぞれの思いがあるんだなと感じた。
最後の演出で舞台奥全体に映像が流れ、曲が流れ、それだけでもすごく良いのに、最後の最後に旅立った人とその奥さんが、また電車の中で再開している所が見えるという演出がすごくよかった。個人的にはここまでで一番の感動ポイントだった。そのようなドラマがあっても、この電車は今の人にとっては、身の周りのものが便利になりすぎて、使われていないという事実、また、それでもなおまだ残っているという事実について、改めて考えさせられた。

11.滝川第二高校「リセマ達」
前年の青森中央高校をどこか思い出させるような描写だったが、話が進んでいくうちに青森中央高校と違って「あれ、だんだん良くなっていく?」という感触があり、不思議な感じがした。初めはソシャゲガチャで出るキャラが星3から星4に変わるという、100人中100人が良くなったと思えるような変化だったが、次第にそれは繰り返しをずっと感じている人達にとっては苦痛であったり、その変化によって辛い思いや悲しい思いをする人まで出てきたりと、必ずしもリセマラによってみんなが幸福になるのでは無いのだという事を実感した。誰かの尺度では良いと思っていても、また別の誰かの尺度では全然良くないということは、よく経験しているだけに、そのような状況を目の当たりにした時はとても苦しいものがあった。
繰り返すことによって大切な友達や機会を得たり失ったりするような状況を、つまりはリセマラしているような状態を、自分らは記憶から忘れ去られているだけで、今の状況になったことは偶然の重なりによって、はたまた必然によって、誰かの好みによって出来ているのかなあ…と感じられた。
すごく個人的な事だが、生徒講評を聞いている時にダッシュで来たのか、息を切らして役者の子たちが自分のそばにたまたま来た。「お疲れ様です」って言ったら、笑顔で元気で「ありがとうございます!」って言われた。嬉しかった。若い。キラキラしてた。眩しい。この頃に戻りてえ〜〜〜〜〜。リセマラリセマラ!

12.千早高校「フワフワに未熟」
昨年のとうきょう総文でもとても面白かったので、めちゃくちゃ期待してた。安定かつずっと見ていられる高校生の生の会話のテンポ感といい、内容といい、前年に引き続きめちゃくちゃ面白かった。めちゃくちゃ笑った。
前年はかなりシリアスな雰囲気になったりするシーンが多いように感じられたが、今年は比較的ふわふわとした、笑ってみていられるようなシーンが多かったように感じる。また、同じような会話、同じようなテンション、同じようなシーンがずっと続いていた。これは高校生の何気ない日常がずっと続いていく、気づいたら1年経っている、みたいな事を表しているんじゃないかと感じた。それにプラスして、コロナならではのマスクが見れらたり、活動規制によって感じていたストレスや溜まったものも感じられて、本当に現実味のあるものになっていた。生徒講評での「ドキュメンタリーみたいだった
」という言葉には納得させられた。
個人的にはどこかにものをよく失くす女の子に共感しかなく、そこのシーンが来る度に大爆笑だった。最後に水筒を誰かが返してくれるシーンでは、絶対に誰かのお世話になってしまう、という点もそうだし、隠されていたのでは無いか?という、少しブラックな考えも浮かんだ。
最後にマスクを外した後輩が来たシーンも、とても印象的だった。自分から見た今年入ってきた後輩も、そんな感じだった。ちゃんと笑顔が見えるし、ちゃんと声が届く。活動規制がない、ちゃんとみんなで見近で騒ぎ散らかせる!みたいな雰囲気が出ていて、青春全開!みたいなオーラを感じた。でも最後に椅子から降りた子もいたけど、落ちたのか、降りたのか……?とにかくめちゃくちゃ考えさせられる、正解のない劇だったと思う。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?