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発売2年くらい経過記念! 内容公開

 こんにちは。この本を手に取っていただきありがとうございます。

僕は、整形外科10年目前後の、まだまだ『若手』と言われる時期の医者です。

そうです。安心してください!この本のターゲットとされている、みなさんとあまり変わらない年代です。だからこそ、その視点にたって、本を書こうと思います。

みなさん、骨折の手術は楽しいですか?
なかなか執刀させてもらえなくて、歯がゆい思いもされているかもしれません。
しかし、骨折の手術は一人ひとり全く同じ症例は存在せず、整形外科の手術の中でもっとも自由度が高く、若手の考えや発想が生かされやすい分野です。この本を読めば、万が一、執刀できなくても、もっと骨折の手術が好きになれます!

ぜひ、好きになってください!

まずお断りしたいのは、僕には手術の才能がありません。かなり早い段階で『才能はない』ということに、自分で気づいていました。なので、手術を全力で見て、メモをしまくって、言葉に変え、妄想しながら自分を鍛えました。

才能がないからこそ、手術前の計画をなるべく慎重に練って手術に望んでいました。

そんな僕でも、年々たくさんの手術を任せられるようになり、医局内で年間手術件数最多になったこともあります。
医局の中では自分のポジションも出来上がり、外傷についてはほとんどの症例について相談を受けるようになりました。

だからこそ言えます。

誰でも、一般的な骨折の手術はできるようになると思います。

その近道こそ術前計画です。
今回、本を書こうと思ったのはあるきっかけがありました。
自分よりも若い先生の指導をすることが増えたある日、ある質問を受けたのです。

『先生、なにを使って術前計画の勉強をされているのですか?』

この質問に衝撃を受けました。
術前計画の重要性は以前から感じていたし、後輩にも指導していたにも関わらず、
何か決まった本で、勉強した記憶がないのです。
教育機関でもある大病院で、年間200件近く骨折の手術をしているにも関わらず、なにを使って勉強してきたかも答えられない自分に気がつきました。

、、、ていうか、骨折の術前計画にのみ特化した教科書ってないよね?

ってことに気が付いたのです。
突然ですが、みなさんは骨折の術前計画に自身がありますか?
ちなみに、僕はありません。

ここからは、流行りの『evidence』ではなく、『art』や『tradition』な部分です。
単なる個人のやり方ですので、反対意見もあるかもしれませんが、一つの考え方として知っていただければと考えています。

忙しい先生方にも、短時間で頭に残るように、なるべく簡単に、重要なポイントを絞って書きました。

是非、先生方の診療のお役に立てればと願っています。



第1章  なぜ術前計画は大事か??

手術した結果が良くないと、インプラントにその責任を押し付ける医師がいます。
お恥ずかしながら、私も経験が0とは言い切れません。

しかし、2012年の骨折治療学会が行なった、インプラント破損調査委員会報告では
データが集積できた447件のインプラント破損の原因は、
骨癒合不良例に対する対応の遅れ
挿入抜去時のトラブル
インプラントの選択が不適切
インプラントの使用法が不適切

のいずれかに、すべて分類可能であったことが示されました。
(参考文献 : 骨折 24巻 No.1 2002 26-34 松下 隆ら)

すなわち、
インプラント破損は、インプラントが悪いのではなく、それを利用する側に問題があった
ということです。

医師は、このことを肝に銘じるべきです。
いくら優れた道具でも、その使い方を誤るといい結果は生まれません。
その道具を選択するのも医師の責任です。


第2章  実際の術前計画の立て方

術前検査として、当然単純X線撮影はしていると思いますが、それは適切な単純X線写真でしょうか?評価不能な画像では術前計画は立てられません。

術前の原則は、あくまで
Span(牽引)・Scan(検査)・Plan(計画)です。

 受傷時は痛みが強く、適切な単純X線像を得られないこともありますが、撮影を技師さんに任せっぱなしにするのではなく、自分自身が満足できるいい単純X線写真を、自分から積極的に関わりながら撮影してください。
よっぽど痛みが強く、適切な単純X線が撮影できない症例もありますが、創外固定で牽引した状態にすれば、大概、後日撮影できます。その意味でも、受傷時に短縮や変形が強い症例は、一期目に創外固定で牽引をかけることをお勧めします。

近年は、開放骨折や粉砕骨折に対して、受傷当日に1期的に最終内固定まで行なってしまうのが流行っていますが、粉砕・短縮が強い例で時間のない中計画を立てて、インプラントを用意するのはトラブルが生じやすい環境と言えます。
行うにしても、かなり慣れてから少しずつ手を出すほうが賢明です。


単純レントゲン写真にこだわることで、評価するために必要な画像を学ぶ事ができ、手術中にもその画像をすんなり透視で出せるようになります。
つまり、短縮が強い場合には、牽引をかけた単純X線像を撮影すること、創外固定で長軸牽引をかけた場合には創外固定後の画像検査も行うこと
が重要です。


ここでいう牽引はいわゆる、直逹牽引や介達牽引ではなく、創外固定での牽引や単純X線像撮影時にのみ経皮的に牽引することを指しています。

 
 短縮が強い症例では、単純X線撮影時にのみ、徒手的に牽引しどれくらい骨折部が整復されるのか?を事前に把握することで、非観血的に整復可能か?自分一人で対応可能か?助手は何人必要か?など様々な情報を得る事ができます。非観血的に整復可能であれば、一人で対応可能なことが多いですが、不可能であれば、助手が必要ですし、上司の手を借りる必要が出るかもしれません。

また、この作業で、用意するインプラントが変わる事があります。
一つ例として、短縮が強い、大腿骨転子部から転子下にかけての骨折線があり、ネイルでの固定を予定している症例を考えます。単純X線撮影時に経皮的に牽引して撮影すると、ラグスクリュー刺入部に骨折線が及んでいて、ラグスクリューの大腿骨外側挿入部の固定が期待できない場合には、長めの髄内釘を選択したり、遠位2本打ちを選択したりすることがあります。

このように、
短縮や変形が強い場合には、牽引して撮影することで多くの情報を事前に得る
ことができます。


実際の術前計画の例


1. 単純X線像、CTで骨折型を詳細に把握します。本当に詳細にみてください。
CTといっても3Dのみでなく、水平断、冠状断、矢状断を含めた3方向MPRを含みます。

★この症例はAO42-A1です。鋭い方は腓骨の近位にも骨折があることにお気づきと思いますが、ここは無視します。実際の手術のときにも無視しました。
また、実際には短縮があり、下腿遠位内側部が開放骨折になりそうでしたので1期目に創外固定をしています。創外固定後にCT撮影をして作図をしましたが、創外固定の画像はどうしてもハレーションを引いてしまうため、本書では伝えやすさを優先し、創外固定を設置していない画像で話を進めていきます。

(((本編でははここに写真が入ります)))

2. CTで、遠位骨片の『関節面から骨折遠位端』までの距離を計測します。
これもMPRをチェックして骨折の端を見つけます。

★この症例では、脛骨の関節面から内側の骨折線(青矢印)と後方の骨折線(赤矢印)の距離を測ります。


(((本編でははここに写真が入ります)))

この時点で健側単純X線像をトレースして反転したものに、骨折線を書き、3DCTを単純X線像に落とし込む作業をします。

★この症例では、単純X線像で見えている、近位の骨折線(3ページ後の単純写真の青線)は、脛骨後方にあることがわかります。つまり、手術中に後方の骨折線が合えば、単純X線正面像(3ページ後)での青線の骨折線が消えることがわかります。


(((本編でははここに写真が入ります)))


3. 使用インプラントをイメージします。プレート?髄内釘?創外固定?
プレートについては、設置する場所によっても、プレートが骨折部を架橋してスクリューを打つ量が変わってきます。また、短縮したままの状態でインプラントの長さを考えるのはナンセンスです。整復して短縮を解除した状態での距離を考慮してください。

適切なプレートの長さやスクリューの本数は他の本を参照してください。
この時点で軟部の問題、展開できる場所の問題を考慮することが必要です。

★この症例ではプレートを選択しました。
遠位骨片が大きいため、おそらく髄内釘を選択される方もおられると思いますが、僕はプレート固定を選択しました。膝関節への影響など、理由がありますが、この辺の議論は、今回しません。
2期目の手術時には軟部にはトラブルはなく、腫脹もコントロールされていたため、内側展開からプレート固定としました。整復後にAP方向に1.8mmか2.0mmあたりのキルシュナーで仮固定して、AP方向に圧着スクリューをラグスクリューテクニックを用いて挿入し、プレートを保護プレートとして使用する、、、くらいまでイメージしてください(この辺の詳細はAO法の教科書を参照してください)。プレートの長さは必ず短縮が取れた状態で考えてください。たまに短縮したままの骨折線にそのままテンプレートを当てている人を見ますが、それでは正確な長さが測れません。今回は、遠位骨片から近位方向へ伸びるながいbeak(次のページの図、黄色)は後方におり、プレートが当たる内側は骨折線が青矢印までの距離しかありません。なので、プレートをから遠位骨片のみに純粋に入るスクリューは青矢印の距離までとなります。骨折型やプレートの当たる場所によっても、近位、遠位の骨片に入るスクリューの本数は変わりますので、プレートの長さの選択にも影響がでます。


(((本編でははここに写真が入ります)))

このように、①骨折型、②展開と軟部の問題、③使用するインプラントは密接に関係していますので、ここの思考はいったりきたりします。(骨折型からは理想を言えば、このインプラントだけど、軟部が悪く、理想の場所に設置できないので他のインプラントを選択するなど。)
おそらくこの症例で遠位内側の皮膚が骨折部で穿孔し、プレート固定してもインプラント露出になりそうであれば、髄内釘を選択していたかもしれません。

4. 骨折の状態を見て、整復の指標と方法を考えます。近位と遠位の骨折部のどこを合わせれば整復されるかをみます。

★今回は単純骨折です。内側から展開した場合、骨折部のbeak(とんがり)がみえ、そこを合わせれば、きれいに整復されることがわかります。また、単純骨折で近位のかたまり骨片と遠位のかたまり骨片のみなので、そこをあわせれば全部が整復されます。

(((本編でははここに写真が入ります)))

ここで注意が必要なのは、長管骨の単純骨折の場合、狭い視野で一部分だけ合わせても、実は少しの角度の変化でアライメントが違ったり、見ている部分以外の骨折線がずれたりしていることがあります。
なので、実際の手術のときには、指先触診の確認でいいので、骨折線がピタッとあっていることを、骨折部をなるべく広範囲に触れて確認すること、膝関節から足関節まで透視でみて、アライメントがあっていることを確認します。確認方法は、ずっと透視を入れ続けると被曝が多いので、膝関節が水平になっているときに、管球をそのまま下腿遠位に連れて行って、足関節が水平になっているのを確認する方法があります。これはあくまで指標であり、OAがあったりする場合には多少膝関節が傾いているひとなどもいます。(正常でも膝関節はすこし内反している症例が多いです。)


5. 固定の順番は、骨折型や軟部の状態によっても変わります。また、体位は骨接合の部位、骨折型、軟部の状態など様々な因子に影響されます。例えば、足関節骨折つまり、AO44に分類される骨折では、腓骨の骨接合のみであれば、側臥位、仰臥位好きな体位が選択できますが、脛骨後果にも腓骨側の外側展開から手を伸ばそうとすれば、自ずと展開は側臥位に限定されます。

★今回の症例では、固定の順番は議論に上がりません。また、体位も、好きな体位(僕なら迷わず、仰臥位)でいいのではないかと思います。仰臥位でも、内側の視野が得られやすいように、この症例では左腰部に側板を当てて置いて、左下にベットをローテーションできるようにしておき、右下肢は股関節やや伸展位にして、右下肢が邪魔にならないようにします。(左下肢を開排位のようにして、患者の右に立って、内側アプローチをする) 



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