視能訓練士軍団誌6月号

【目次】
□斜視検査の検査手順
□内斜視の検査手順
□内斜視での斜視角変化
□シノプトの検査手順
□シノプトとTSTとの比較
□シノプトのスライドの作成
□眼位検査の固視眼
□DVD(交代性上斜位)と麻痺性斜視のAPCT
□機械斜視の場合のHessの有用性
□Hessの検査条件
□Duane症候群
□間欠性外斜視の片眼つぶり
□眼球運動障害のリハビリ
□小児の視力検査の声掛け
□視力検査の表記
□眼鏡処方のPD記載
□ORTのFDT実施
□多焦点IOLの術前検査
□コントラスト感度検査
□ピギーバック
□残像の機序
□網膜浮腫とレフ値
□OCT撮影でのCL装用
□FAFの説明
□視能訓練士協会への加入
□コロナ対策の換気について
□症例検討1
□症例検討2
□症例検討3
□症例検討4
□症例検討5
□多動の小児の検査


□斜視検査の手順

【質問】
学生の頃より斜視の検査の組み立てや方法には苦労している。というのも狭い学校という範囲でも、各教科の先生によって検査法が統一されておらず、実習試験でこの先生の前ではこういうやり方、という一種の対策をしていた。 資格取得後の見学や先生方の見聞きで伺うに、このように常に討論なされている印象と持っております。この統一は今後もやはり難しいかのかどうか聞きたい。生涯教育などの眼位指導や学会での告知で、大枠の統一を図れないかと思っている。 

〈回答〉
・2000年頃の視能訓練士協会誌に、「斜視検査等の結果の記載方法について」統一を呼びかける 動きがあったが、20年経った今でも記載方法でさえ統一されていないことを考えると、厳しい。 電子カルテである程度の統一の可能性は見込めたが、斜視検査を電子カルテの template 通りに入れるとわかりづらく、大きな検査コメントのような箇所にそれぞれ入れる施設も多いので、やはり難しい。 協会もどんどん入会者は減少の傾向であり、視能訓練士免許取得者の50%を切っている。今後も変わらなければどんどん減っていくだろう。なので協会が統一を図ってもそれは全国の半数に満たない状態となる。

・同じ施設に働いていた会員番号2桁、3桁の先生がお互いの検査についてバチバチに文句を言っているのを学生時代に聞いていた。大筋の考え方は二人とも同じだったが応用の部分で衝突していた。国内に視能訓練士が生まれたての時代はライバル意識がバチバチだったようで、根元の時点で流派がバラバラで統一は無理だと思う。反発する勢力が必ず現れる。学会でも発表者と質問者とで険悪なムード漂っている。 例えば抑制除去訓練などの視能訓練に関しても、意味ないとする意見もあれば、必要という意見もある。視能学が一版から二版に変わったとき、視能訓練の項目は内容が大幅にカットされてい る。二版にはそこを書いた先生の意見が書かれている。しかし過去問を解くために必要な情報は足りない、そして今も国試に訓練の問題は出てくるという矛盾がある。

□内斜視の検査手順

【質問①】
調節性内斜視と分かっている症例に立体視や眼位を先にする理由はどのような考えでそう思うのか。たまに耳にするが理論がよくわからない。

〈回答〉
・立体視は cover 等による両眼分離を避けたい、またはレフなどの近接や調節による日常眼位の破壊を最小にしたいから。眼位はこの場合 “第一眼位” のことだと思われるが、より日常の眼位 を出来るだけそのまま観察したいから。 

・屈折性調節性内斜視であれば完全矯正やそれに近い値で正位になるので、順番はどうでもいいと思う。他院にて眼鏡処方の例で完全矯正にしているか判別できないときは、調節がかかってくる可能性を考慮する。視力検査やレフはどう足掻いても調節がかかる。 眼位検査にしてもカバーやプリズムが近づくこと、調節視標を用いることで調節はかかるが、内斜視角のより最小の値を取るためにより調節の影響が少ない手順を取りたいと考えている。

【質問②】
調節性内斜視で眼位が破壊されるというのはどのような状況か。
両眼単一視が壊れて複視と いう事か、それとも斜視角が増えるという事か。
他院にて矯正状態が判別できないのであれば、そもそも屈折矯正から始めないといけないのでこの件は置いておくとする。“最小の内斜視角”というのが色々と Key だと思うが、そもそも最小の内斜視角を測定しなければならない理由は何か。斜視角も大切ですが日常両眼視の確認の方が 大切だと思われる。そして調節性内斜視に対してレフや視力を先にやる事による斜視角増加の影響というのは、何かしら報告や立証がされているのか。ただの想像の一人歩きじゃないか?というのが自分の意見である。


〈回答〉
・内斜視の最小斜視角を取る理由については、斜視手術を施行する場合大きな斜視角を取ってしまうと術後外斜視となる。両眼視がなければ尚のこと成長とともに外斜視傾向になるので、注意しないといけないのではないか。熟練者が測定すれば最小とまではいかなくても、術後外斜視を生じる程の斜視角の記載はないと考える。ただその意識が弱いと、カバーでどんどん大きくなった斜視角を取ってしまうことになる。そういった教育面での意識付けの意もあるのではないか。
検査順については検証したことないが、相談した方にそう教わりそのまま施行していた。(確かに 調節かかるなと納得したため)カバーする度に眼位が増加する経験を経て現在まで疑いもしなかった。

・内斜視云々の話ではなくて、間欠性外斜視などに対して当てはまると思うが、cover 等の刺激は日常生活の中には基本的に存在しない刺激で、それをすることによって、例えば両眼単一視が一時的に壊れて抑制がかかってしまったり、立体視がいつも(普段の日常)より不良になってしまったり、ということはあると思う。
比較検討したことがないし、そういった内容の報告も見た ことがないので、想像の一人歩きの可能性も捨てきれないが、可能性が考えうるならやればよい という考えでは。 こういった考えのもと検査の順番を決めてる施設は意外と多く、斜視弱視にかなり強い大学病院でもこういった考えでやっていたりします。これらは”日常的な見え方”を重視した考えから来るものだと思う。日常的には抑制はかかるのか、日常的にはどの程度立体視があるのかなど。そういった意味で、非日常の Cover を嫌う方が多いのではないか。
あと、小児は一度加わってしまった調節をなかなか解除しづらい場合がある。(何かの資料で読んだことがある気がする。真偽不明)と言う特性から、過度に調節が加わる可能性のある検査を後 回しにしたい、と考える方も多いのではないか。

【質問③】間欠性外斜視は確かにあると思う。実際に日常視の状態を評価するスコアもありますし、それ が治療方針に直結する施設も多くある。多くの人がそうそれそれ!と思われるのも想像できる。 ただ(内斜視含む)調節性内斜視で同じことが言えるのか?という所が疑問だった

〈回答〉
・内斜視なら最小斜視角を取るために SPCT と習って厳守していたが、学会では潜伏性も含めた全偏位をとるAPCTで検査を行っている施設も多いことに驚いた。確かに頻繁に固視交代する子のときには APCT の方が素早く、尚且つ小さい値を取れたりするので、そこは臨機応変に使うようになった(カバー繰り返しすぎないように一発で見極める気持ちで臨んでいる)。

・最小の内斜視角を測る意義について、おそらくこれも日常的な眼位に極力近い数値を知りたい と言う考えから来るものだと思う。プリズム処方する際に全斜視角よりも日常的な斜視角の方が 参考になるし、よくわからない eat up も怖いと思っている方もいるかもしれない。(実際の eat up はそういった類のものではないが)ただし最小の内斜視角を測ろうとすると毎回結構ムラが出る。 実際にオペ前や正式な論文報告等で必要な情報は、たとえ内斜視でも”全斜視角”である。  

【質問④】勿論、全例すぐに屈折検査ができるとは思っていない。しかし屈折矯正が合ってい ない可能性があるから、先に立体視および眼位を確認するという事だが、屈折矯正が正しくない 症例の得られた検査で治療方針が変わる(決められる)のか?というのが疑問である。 最小の内斜視角だが、手術前の検査であればそれは施設というか先生の方針なのでいいと思いますが、そうではないルーチンの中でやる意味合いは何か?検査の順番を変えてまで慎重に最小の内斜視角を測る理由がわからない。 例として、得られた値が先に斜視角を測った場合 10△、先にレフおよび視力を測った場合 15△ だったとする。これで何か方針が変わるか?斜視角云々でなく、日常両眼視の状態が大切だと思う。最小の斜視角が例え 15△だとしても両眼視があれば様子見ですし、最小の斜視角が10△でも両眼視がなければ(ほとんど有りませんが)プリズムを試してもよいという流れになると私は考える。

〈回答〉
・そこまでする理由は端的にいうと、それが自分のルーチンになってしまっているから。確かに眼位のデータだけで大きく治療方針は変わらない。最小を取ろうとしてもムラはあり、数 Δの誤差で何かを変えることはない。 オペをしないのに最小の斜視角を取ろうとする意味合いについてだが、実習生を引き受けるようになってからは手術を行う病院に就職する可能性も考えてのことである。そんな手順ではない施設が多いことは理解しているが、少なくとも前の職場は基本そのルーチンで行っている。 指導の際も、自分の考え方ややり方が正しいとは限らない、斜視に対する検査手順やアプローチは施設、個人で大きく異なる旨も念押しで説明している。 斜視検査や治療の考え方は、斜視の講義を誰に習ったかでも変わるが、同じ教員に習っていても 個人で受けとり方は大きく変わる分野だと思う。学生の内にばらついているものが、実習、就職先でさらに大きくばらつく。臨機応変も必要で今さら統一は無理だと思っている。 考察や臨機応変が苦手な人にいくつか基本軸として、シンプルに教えることの1つが"内斜視角は 最小をとれ"だと思っている。このチャットには学生さんも数多くいるので、そこをぶれさせたくないというのはある。両眼視の有無次第だから斜視角はある程度ばらついても大丈夫と捉えられ たりすると、その"ある程度"の受けとり方が人によって違い、とんでもない斜視角で検査結果を 出してしまう人もいるのです。最小って言っておけばそうとんでもない斜視角になることはない かなと考える。

・斜視角次第ではオペと考えるドクターも実際いる。日常眼位からはかけ離れ、過小または過大評価(いつもより悪く評価してしまうとの意味)をしてしまう可能性がある。そのため最小斜視角、ひいては日常的な眼位というの重視していると言う施設にお世話になったこともあった。そこでは、弱視を見逃さない、弱視を過大評価しない、と言う理由から、視力検査もかなり厳し目の評価をしていた。ドクターが勘違いしないようにとのこと(なんだそれ・・・とは思ったが)。
・協会誌の古い論文を見ると「手術量決定のために外斜視はできるだけ大きく、内斜視はできるだけ小さく」という表記は複数確認できたが、さも当たり前のように書いてあり理由までは分からない。この論文には検査の順番だと思われる記載があり、眼位検査は視力検査の前、斜視角検査は後に位置している。まずこの時点でレフが普及していたのかという謎がある。(レフについての検討の論文がこの数年後に存在する。)他覚的屈折検査は検影法が主体だったと思われる。そこで思ったのは、当時は仮にレフがあっても性能的に時間がかかっていたのではないかと。今よりも時間がかかり、雲霧機能も弱かった可能性があるので、レフは後回しにしないと…。という施設もあったと推察する。検査順に関しては、これ以外に論文内で書いてあるものは見受けられなかった。 1日で全てを一気に終わらせているかどうかも不明で、検査の順番と思われる論文には内斜視·外 斜視で分けるとは一言も書いていなかった。 固視検査に関しては直像鏡で、初診に行ったものや眼鏡装用や遮蔽の治療過程で行ったもののことを言っているのかと。これは固視検査の結果で弱視治療を優先するか、斜視治療を優先するかは変わる、と昔教え込まれた。 ここでいう手術は基本的に両眼視力を揃わせてから。整容的なものならその限りではない、という感じだったと思う。弱視治療優先はプリズム使用とかも含んでいる。ただ、片眼弱視であれば 膜プリズムが不完全遮蔽としても使える、と。

参考文献:久保田伸枝先生 1977 年 論文(どの論文かは明記なし)
・固視が良ければ弱視治療した上で斜視手術でいいと思うが、固視が悪ければ斜視手術を優先か?
・固視が悪ければ固視の安定が優先
・では固視が悪ければ、固視の安定をはかりつつ、弱視治療をして、その上で斜視手術の流れと考えて良いか。

□内斜視での斜視角変化

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