令和2年司法試験刑事系第1問設問2・3

0.はじめに

設問1が【事例1】で、設問2・3が【事例2】になります。【事例2】を読んだときに、「クロロフォルムや!授業でやったやつ!」みたいな某進研ゼミみたいなことを頭に思い浮かべてました(笑)

あと設問3は時間がかかるから、設問2は簡潔にするように気を付けました。

1.設問2について

甲に殺人既遂罪が成立しないという結論の根拠となりうる具体的な事実としては、①特殊な心臓疾患をもつA以外に対しては、生命に対する危険性が全くない睡眠薬をワインに混入した行為、②睡眠薬を入れた時点では、Aが死亡することはないと思っていた事実、③Aが特殊な心臓疾患を持っていたために死亡した事実、の三つをあげました。

理由としては、①(おそらく具体的危険説にたって)生命に対する危険性が全くないことから、殺人罪の実行行為として現実的危険性がない、②行為時に故意が認められなければいけないが、睡眠薬を混入した時点で故意が認められない、③折衷的相当因果関係説にたって、一般人も認識しえず、Aが特に認識していなかったので、因果関係がない、みたいなことを述べた気がします。

3.設問3

検討した罪責は以下の通り。

①D銀行に対する600万円の1項詐欺

②Aに対する600万円の横領罪

③2項強盗罪および強盗殺人罪

④中止犯(不成立)

⑤Aの時計を持ち去った行為について窃盗罪

①・②・⑤については、要件をきちんと解釈してあてはめをすることを心掛けました。①については、挙動による欺罔が、詐欺罪の欺罔行為に該当するのか、⑤については、強盗罪が成立しないことを前提に、窃盗罪を成立させました。

そして、③については、クロロフォルム三要件を示して、睡眠薬を購入させる行為(第一行為)と、眠らせた上で有毒ガスで殺害すること(第二行為)を一連一体と考えて、2項強盗罪の「暴行」にあたるとしました。

ここで難しいな~と思ったのは、クロロフォルムの三要件(第1行為が第2行為を行うために必要不可欠なものであったといえること、第1行為に成功した場合、それ以降の殺害計画を遂行する上で障害となるような特段の事情が存しなかったと認められること、第1行為と第2行為との間の時間的場所的近接性があること)のうち、甲が第一行為のあとに、殺害することが怖くなって有毒ガスを発生させることをやめたことが、特段の事情が存しなかったと認められるのか、という点です。

私の場合は、ここでの特段の事情が存しない場合というのは、外部事情として計画を遂行することに支障があったかどうかで判断するべきで、行為者の主観面を考慮すべきでないとして、甲が第二行為を遂行しようと思えば遂行できたような本件では、殺害計画を遂行する上で障害となるような特段の事情が存しなかったといえる、的なことを書いた気がします。

第一行為と第二行為を一連一体の行為とした場合には、設問2の問題点である、①実行行為の危険性と②故意の部分はクリアできます。また、③因果関係については、折衷的相当因果関係説ではなく危険の現実化の理論を採るべきとして、因果関係を認めました。

次に難しいな~と思ったのが、睡眠薬を入れる行為と有毒ガスを吸入させる行為を一連一体の行為としたものの、実際には睡眠薬を入れる行為をしただけで、2項強盗の「暴行又は脅迫」にあたるのかな…??という点です。

ここについては、一連一体の行為としてみなしてるんだから、第二行為に及んでなくても全体として考えるべきなので、2項強盗の「暴行」足りうる行為であるって書いたかな…?とりあえず結構無理やりだった気がする。

それで、他の構成要件である、「財産上の利益」を得た場合にあたるのか、というのも丁寧に認定しました。あと因果関係の錯誤にも簡単に触れました。

最後に、④中止犯については、Aは死んでるので認められない、っていう程度の記載だったと思います。

4.出題趣旨ー設問2

「3つの具体的な事実としては,①甲がAに飲ませた睡眠薬は病院で処方される一般的な医薬品で,Aの特殊な心臓疾患がなければ生命に対する危険
性は全くなかったこと(以下「①の事実」という。),②同心臓疾患を一般人は認識できず,甲も知らなかったこと(以下「②の事実」という。),③甲は,ワインに混入した量の睡眠薬を摂取させる行為によって,Aが死亡する認識・予見を欠いていたこと(以下「③の事実」という。)などが挙げられる。」

→まあこれはかいてるかなーって感じです。

「殺人既遂罪の成立が否定される理由として,様々な理論構成からの説明が考えられるが,まず,第1行為は実行行為に当たらない,あるいは,その段階で実行の着手が認められないとの説明が考えられる。例えば,実行行為性の危険性の判断に関し,一般人が認識できない事情を判断資料から除外する立場」

「第1行為とAの死亡結果との間に因果関係が認められないとの説明も考えられる。例えば,相当因果関係における相当性の判断資料に関し,行為時において一般人が認識し得た事情及び行為者が特に認識していた事情に限定する立場によれば,②の事実に着目したとき,Aの心臓疾患の事実は同判断資料から除かれ,よって,第1行為とAの死亡結果との間に因果関係は認められず,甲に殺人既遂罪は成立しない」

「甲に殺意はなかったとの説明も考えられる。例えば,③の事実に着目したとき,第1行為の段階によってAを殺害する意思はなく,これに必要と考えていた第2行為を行わなかった甲には,第1行為によって死亡結果を惹起する認識・予見がなく,よって,同罪の故意がない」

→これらが私のあげた三つの理由に該当する記述かと思います。他にも因果関係の錯誤とか、計画を一連一体と考えないとすると第一行為のみでは実行行為に着手したとはいえない、という理由もあるらしいです。

「解答に際しては,複数の事実を一括せず,1個の事実に対応する理由を逐一論じる必要がある一方,1個の事実に対応する理由は複数あっても良く,また,理論構成の根拠や他説への批判を論じる必要はなく,要点を簡潔に示すのが肝要である。」

→なるほどな~ってかんじですね。問題文でも「事実ごとに簡潔に述べなさい。」ってかいてありますしね。

5.出題趣旨ー設問3

①について

「1項詐欺罪の成否が問題となる。同罪の成立要件の検討に際しては,「人を欺く行為」(欺罔行為)の意義を正確に示した上で,具体的事実を摘示して当てはめを行う必要があるところ,本件については,甲がD銀行に対して有効な預金債権を取得していることを踏まえつつ,払戻請求を受けた金員が犯罪被害金か否かは,金融機関の職員において払戻し許否の判断の基礎となる重要な事項といえるか,甲が払戻しを請求する行為は,払戻しの客体が犯罪被害金ではないことを示す行為といえるか(挙動による欺罔),甲
には銀行に対して,払戻しを請求している金員が犯罪被害金であることを告知する義務があったか(不作為による欺罔)などについて,具体的に検討する必要がある。」

→この欺罔行為の意義、判断の基礎となる重要な事項といえるか、挙動による欺罔なのかなどの点は、学校でもちゃんと書けよと口酸っぱく言われてたので丁寧に認定した気がします。

「なお,仮に詐欺罪の成立を認めるとしても,同罪の客体は恐喝罪の被害額に限定されることになるため,設問1における結論と整合的な検討が必要になる。」

→これは考えてなかったです(笑)設問1で600万円全体に恐喝罪認めてたので論理矛盾することなくよかったです。

②について

「現実に600万円をCに交付した行為を「横領」と捉える場合,客体は甲が所持している現金ということになるのに対し,甲がCに対する弁済に充てることを決意して払戻請求を行っていることに着目し,払戻しを受ける行為を「横領」と捉える場合には,本件甲口座に預金として預け入れられた金員が客体ということになり,それが「自己の占有する他人の物」といえることを示す必要」

→銀行係員から払い戻しを受ける行為自体を横領ととらえてたのですが、それでもよかったんですかね?

③について

クロロフォルム三要件について「時間的場所的関係や使用した薬物の性質などについて当該判例の事案と比較することが求められる。」

→時間的場所的関係については、詳しく認定したと思います。たとえば、駐車場とA方は隣り合わせですごく近いので、Aを眠らせてX剤を取りに行く間に誰かに邪魔されることもないし、時間としても第一行為のあと第二行為を直ちに行う予定だったから密接している行為といえる、みたいな感じです。でも薬物の性質については述べてないです()

「2項強盗殺人罪は,・・・2項強盗罪の成立要件を満たす必要があるから,同罪の実行行為である「暴行」又は「脅迫」が認められるかについて検討する必要がある。・・・,「暴行」を肯定する論理としては,例えば,・・・気体を吸引させる第2行為を「暴行」に当たるとした上で,第1行為と第2行為を一連の実行行為と捉えることなどが考えられよう。」

→一応私が書いた理論構成でもよかったみたいです。

「「暴行」を肯定した場合については,本件の具体的事実関係において,甲が「財産上不法の利益を得」たといえるかについて,財産上の利益の意義を正確に示した上で,具体的事実を摘示して当てはめを行う必要がある。」

→これも大丈夫だと思います。

⑤について

「奪取意思が生じた時期が第1行為後であったことに着目すれば,昏酔強盗罪ではなく,窃盗罪の成否が問題となり,その客観的構成要件及び主観的構成要件の充足の有無を検討する必要がある。」

→これもいいですかね。

「ただし,甲に2項強盗殺人罪の成立を認める立場からは,客体が「財産上の利益」と「財物」との違いこそあれ,甲が侵害しようとした500万円の返還債務と腕時計はAの財産との点で重なり合いがあり,同一機会にこれらを侵害したことに着目し,上記行為について1項強盗殺人罪の成否を検討する余地もある。」

→?!(もちろん書いていない)

6.コメント

おそらく一番厚く書いたであろう、甲が怖くなって第二行為を行わなかったことについて、特段の事情があったかどうかで検討するべきではなかったんでしょうかね…?それが気にかかりますが、その他はおおむねいいかと。

大事だなーと思ったことは以下の通り。

・客観的・主観的構成要件、違法性、責任を丁寧に、すべてに検討すること

・論理的整合性に注意すること(できてないですけど)

・問題文の事実を、要件に対して具体的にあてはめをすること

なんか当たり前のように思えて、本番だとなかなか疎かになりがちですよね…特に一番最初の点とか。論理的整合性については、今回は運良く事なきを得ました。

点数がよかったのは、設問3で時間がかかりそうだと考えて早めに取り掛かり、大体の罪責はしっかり書けたことと、あとは事実のあてはめかなーと思います。


すっごい疲れました…皆さん記事書いているとき、こんなに苦労してるんですね((+_+))

次回は刑訴ですが、いつになることやら…(笑)





この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?