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『猫さんの決断』(最終回)

新紙幣がだいぶ普及して、旧紙幣は未対応の自動販売機に重宝はしたものの、徐々に見かけなくなった。しかし、チョビヒゲ猫は元気だった。

「カルマが解消されたのかもしれないね」

採れたての梨を足湯に持参した小野さんは、猫さん達を横目に、足湯に入りながらムシャムシャと自分だけ食べ始めた。

「それにしても気持ちが良いねぇ…」

日頃から、あくせく働く小野さんは、ゆったりと足湯に浸かりながら、ふぅと大きなため息をついた。チョビヒゲ猫と猫さんは、リラックスしている小野さんを見て、なんとなく安心した。

猛暑の中、チョビヒゲ猫がいっぱい集めた丸い玉に、白蛇が与えたご褒美は、労働という行為によって、過去のカルマがある程度解消されること、物品を売ることで得られる対価が、猫さんの収益になること、そして、この恩恵を活かすには、小野さんの知恵が必要不可欠だったこと…

新紙幣が世の中に浸透する頃には、チョビヒゲ猫はすっかり自我を確立していた。不思議な事に猫さんも、チョビヒゲ猫に野口さんを重ねることはなくなり、チョビヒゲ猫はチョビヒゲ猫であると、しっかり認識するようになっていた。

チョビヒゲ猫は、地域を良くする会議で活発に発言していた頃の様に、イキイキと暮らした。水が苦手な猫さんは、あまりにも人間達が気持ち良さそうにお湯に浸かるので、いつか自分も入りたいと思うようになった。

会館では、なぜか町内会や商店街からの差し入れが増え、足湯に来たお客さんから、頻繁にカリカリや、魚や肉の干物をもらうようになった。明らかに豊かになった猫さん達は、思うように食品が集まらず、やむを得ず停止していた地域猫活動を再開することにした。

足湯のPRに地域猫活動がリンクすると、瞬く間に噂が全国に広まり、会館には寄附金まで届くようになった。猫さんはこの状況に心底驚いたが、白蛇が猫さん達に返してくれた″価値″は計り知れないと、今日も勝手に売れていく手ぬぐいを見つめながら、感慨深く想うのだった。

おしまい
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