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『イワノキツネ』第2部 №15

「沙弥島のワニなんだって」

集まった鳥達を食べるでもなく"沙弥島のワニ"は口を開けたまま、すっかりくつろいでいる。

"ワニ"の話によると、小野さんのように満ち潮であの岩に取り残される人間が年に5,6人はいて、大昔はそれを目当てにこの島まで来ていたが、今はあっちの島で常に人間からご飯をもらえるので、この島にはたまに歯みがきがてら見回りに来ているそうだった。

猫さんはとりあえずホッとする。ワニの言う「あっちの島」とはなんだろうと海を見ると、はるか彼方に確かにもう1つ大きな島が見える。しばらくその島を眺めていた猫さんは、冥界ドローンに写っていた奇妙な生き物は、今ここにいる沙弥島のワニではないかと気がつく。急いで小野さんにそのことを話すと、小野さんはチョビヒゲ猫と大狐は「あっちの島」にいると推測した。

「…そうか。しまった!」

ちょうどその時、浜から一艘の船が出航した。小野さんは愕然として、今出た船が今日の最終便であることを猫さんに告げる。猫さんは狼狽するも、小野さんは歯の掃除を終えた"沙弥島のワニ"に何か話している。猫さんは嫌な予感がしたが、予感は的中する。

「帰り道だから、乗せてってくれるって。」

…猫さんは基本水とヘビが大の苦手で、今出会ったばかりの、およそ安全とは思えないこの"ワニ"も、やはり正直まだ恐ろしい。

「こうして背中に乗るんだよ」

気分良く歯みがきを終えたワニが海に入ると、背中に小野さんがグイと乗る。ワニはザブンと少し沈み込み、スウッと浮かぶ。猫さんは、結局海もワニも怖いので、久しぶりに小野さんのリュックに入ることにする。猫さんが成長したのか、リュックはとても狭かった。ワニはそのまま潜水のように水面下で大きくうねると、凄まじい推進力で浜を出発した。

小野さんは中腰でなんとか上手にバランスを取ると、ワニはすぐさま最終便に追いつき、中にいた船の乗客は、波もないのに海を渡る謎の小野さんを見てワーワー言いながら、こぞってスマホで撮影していた。

あっという間に最終便を追い越して、やっとあっちの島へ上陸という矢先、島の山からさっきの島めがけて、冥界ドローンが飛んだ。

「あっ!」

…おそらく気を利かせたチョビヒゲ猫が、小野さんに向けて冥界ドローンを飛ばしたのだろう。冥界ドローンは、さっきまで自分達がいた、今はもう誰もいない島へと勢いよく飛んで行く。冥界ドローンの飛び立つ姿を、こちらの浜からむなしく見送りながら、ワニと小野さんと猫さんは、無事に島へと上陸した。



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