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『イワノキツネ』№3

数え切れない程の尻尾を持つ黄金のキツネは、気を失ってもまばゆい程の輝きを放つので、チョビヒゲ猫は思わず部屋の照明をオフにする。

キツネは時折うめき声をあげ、とても苦しそうだった。苦しみに体をよじると、キツネの体から金粉のような輝く粉が床に散らばる。猫さんはそれを箒とちりとりでキレイにする。

固くった絞ったタオルでキツネの体を拭いた後、さすがに昼間の疲れもあり、2匹も程なくして床についた。防災倉庫は狭く、キツネのおかげでいつもよりも窮屈だったが、室内はこれまでにない清浄な空気で満たされていた。

翌朝2匹が目を覚ますと、キツネの姿は既に無く、かわりに防災倉庫の備蓄食料がすっかり無くなっていた。驚愕したチョビヒゲ猫は、血眼になって倉庫内の点検をすると、固いカンパンの缶を残し、ほぼすべての食料が無くなっていた。

責任感の強いチョビヒゲ猫は「迂闊に知らない者を招き入れるものではない!」と激しく嘆き、自分を責めたが、時既に遅し… 消防訓練の準備に訪れた近所のおえらいさんが、こんなタイミングにちょうど防災倉庫に立ち寄ったのだった。

おえらいさんは倉庫の棚を見て愕然とし、チョビヒゲ猫がいくら説明しても「やはり猫などに頼むものではなかったか…」と、全く聞く耳を持たず、チョビヒゲ猫は泣く泣く防災倉庫の鍵をおえらいさんに返すことになった。

猫さんは、これまでも似たような経験をしており、こういう時に発生する、猫と人間の齟齬が生み出す理不尽な状況には慣れていたが、面子を潰されたチョビヒゲ猫の絶望は、計り知れなかった。

「…あの性悪ギツネめ…!」

珍しく悪態をつくと、チョビヒゲ猫は何とかしてあのキツネを捕まえて、おえらいさんやご近所さん達の前に突き出してやる!と血気盛んに公園の木の皮をガリガリとはぎ、これまでにないほどの鋭利な角度になるまで爪を入念に研いだ。








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