『猫さんの決断』No.10
会館は久しぶりに活気に満ちていた。
突如湧いた温泉の活用について、地域の重鎮達が集まり話し合いを始めた。猫さんとチョビヒゲ猫は自分達のしたことの判断がつかず、集会の輪を横切ったり、廊下をソワソワ、ウロウロした。
その様子を察した小野さんが、猫じゃらしで2匹を縁側に誘い出すと、パタパタと猫じゃらしを振りながら「面白い事になりそうだよ」と満面の笑みを浮かべ「あの沼に白蛇がいるなんて誰も信じないから」と、2匹の不安を払拭した。
それから数え切れない回数の話し合いを重ねるうち、湧き出たお湯の量はある程度落ち着き、沼の片隅から湧き出るのみで、あとは元の沼に戻っていた。それでも湧き続けるお湯に、半年ほどの会合を経て、町おこしも兼ねてささやかな足湯を開くことが決定した。
そこで、2匹の猫に白羽の矢が立った。
町には新しい紙幣が出回り、野口さんの1000円札を見かけることは少なくなった。それに伴いチョビヒゲ猫の元気もない。ずっとそばで暮らしている猫さんは、ある決断をする。
「番頭になる」
重鎮達は、2匹を足湯の看板猫としてPRしたいと小野さんに打診した。小野さんは嫌がったが、猫さんは二つ返事で承諾した。無気力なチョビヒゲ猫は断る覇気もなく、猫さんの決断に同意した。
2匹はさっそく番頭として、チャンチャンコを着て地域の施設を廻ったり、メディアに出たりと看板猫の役目を積極的に果たすことになった。
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