『猫さんの決断』No.9
チョビヒゲ猫は、会館に残った大小様々な玉を処分することにした。6個は持てないので、猫さんに2つ持ってもらい、チョビヒゲ猫は残り4個を手ぬぐいに包んで運ぶことにした。道路の照り返しが落ち着いた夕方は、散歩にはちょうど良かった。
道路脇の叢を掻き分け、横断歩道を渡り、少しの下り坂を下り、右に曲がったり、左へ曲がったりして、しばらく歩くと白蛇が住むあの沼にたどり着いた。
チョビヒゲ猫と猫さんは、あちこちから集めてきた様々な素材の玉をポチャンポチャンと沼へ投げ込んだ。すると、ゴゴゴゴと地響きが鳴り、大きな渦と共に白い蛇が現れた。
「お前らは何がしたい」
さすがに大小様々、珪化木やアンモナイトの化石等も含まれていたため、白蛇も困っている。
「価値ってなんですか」
チョビヒゲ猫は白蛇に問うた。
「金属に対しては希少価値だろう」
白蛇が答えると、チョビヒゲ猫は尚も質問した。
「歴史的価値においては」
白蛇はウウムと考え込み、それならばと、ぐるぐると高速回転して沼に再び渦を起こすと、沼底からフツフツと黄色い水が湧き出てきた。辺り一面に卵が腐ったような異臭がしたかと思うと、水面から湯気が立ち昇り、白蛇は忽然と姿を消した。
チョビヒゲ猫と猫さんは、白蛇に無理難題をふっかけた事で、美しかった沼を異臭のする汚れた沼にしてしまったと大いに後悔し、慌てて会館へ戻り、遊びに来ていた小野さんに急いで事の顛末を話した。小野さんはとても驚いて、2匹を急いで車に乗せると、改めて沼の様子を見に行った。
「これは…」
チョビヒゲ猫と猫さんは、取り返しのつかない事をしてしまったとオロオロ、ウロウロしている。
「温泉じゃないか」
小野さんは、沼に手を入れると、少し熱めのお湯に感動する。チョビヒゲ猫と猫さんは、白蛇に歴史的価値について問うた事を話すと、小野さんはクンクンとお湯の匂いを嗅いで、とても納得した。
「これは化石海水だよ」
「カセキカイスイ?」
「太古の海水だよ」
チョビヒゲ猫と猫さんは、水が苦手なのでその価値はよくわからないが、小野さんは沼に足を入れてみたり、車に積んでいるポリタンクに沼の水を汲んだりしている。
「成分を調べてみるよ」
本業の繁忙期も終わり、暇を持て余していた小野さんは、チョビヒゲ猫と猫さんを会館へ送り届けると、新しい課題を見つけ興奮したのか、大はしゃぎで帰っていった。
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