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『あらわれた世界』№9

「生きていれば誰しも何かしらの罪を犯す」

オシリスは黄金の盃に注がれたワインを口にして投げやりに呟いた。飲み物や供物を運んでくる者達はうっすらと微笑みつつも、その問いには答えない。オシリスはうなだれ、自分はいつこの任務から解放されるのかとベッドに倒れ込む。

「不当な審判を続ける罪は」

沢山の心臓を喰らい、オシリスの後ろで眠っていた奇妙な獣が、夜中に食あたりを起こし、オシリスの館にある巨大な庭で、消化しきれないいくつかの心臓を吐き出した。

オシリスの館で働き出した新人が、その光景を見て動揺するも、オシリスはそれを片付けないよう指示する。

しばらくすると、庭の隅から透明とも白いとも言えない2本足の何かが現れて、獣の吐き出したいくつかの心臓をガツガツと食べ始めた。新人が悲鳴をあげると、オシリスは大笑いした。

「メジェドは私の救いだよ」

新人は、獣の好物は悪人の心臓で、メジェドの好物は善人の心臓とパピルスのメモに書き留める。

オシリスはメジェドがキレイにした庭に出ると、大きなあくびをする。軽く手を伸ばしながら、ゆっくりと散歩をすると、夜風が心地よく、遠い波の音が穏やかで、少しだけ気が紛れた。

お腹が満たされたメジェドは、元の姿に戻るために海へ向かうと、ふと足に違和感を感じ、船着き場に置いてあった船の舳先に足をこすりつけた。ニャアと何か聞こえたが、メジェドはそのまま海へと還っていった。

船頭は、船に何かが乗りこんだと感知すると、機械が反応するように、キイキイとカイを漕ぎ始め、船は静かに孤島を離れていった。





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