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『イワノキツネ』№7

「地域をよくする会議」に出席していたチョビヒゲ猫は、低迷している"猫との共生条例"の内容をもう少し地域に浸透させてほしいと、地域猫代表として発言した。

これまで日々のご飯はボランティアさん達の善意で賄われていたが、突然、地域の人達から文句を言われ、ボランティアさん達がその地域に出入り禁止になるという事態が起きた。ボランティアさん達はルールを守っており、食べ残しは毎日持ち帰り、自費で猫達に恐ろしい手術も施していた。

おかげで地域猫達の間では慢性的に餌の争奪戦が起きており、幸いチョビヒゲ猫はネズミ捕りが上手だったので、おえらいさんに拾ってもらえたが、特技のない猫達には死活問題だと述べた。

地域の人達は腕を組み、うぅむと唸ると顔をしかめた。確かに、最近猫達のケンカが増えているとおえらいさんが助け舟を出してくれて、とりあえず該当地域で聞き取り調査をすること、場合によっては調査結果をまとめて、行政へ提出することで合意を得た。

チョビヒゲ猫が珍しく上機嫌で倉庫に戻ると、猫さんはおらず、大きなキツネが備蓄食料を食い散らかしていた。チョビヒゲ猫は、このキツネがきらいだった。理由はわからないが、なんというか好きになれなかった。

チョビヒゲ猫は、平気で備蓄食料に手を出すキツネの腕を掴み、首を横に振り、勝手に食べてはいけないと諭すも、キツネは沢山の尻尾を振りかざし、棚の食料をバラバラと床に落として食べてしまう。チョビヒゲ猫はカッと頭に血がのぼり、全身の毛が逆立ち始め、もはや怒りが抑えられそうにない。

そこへちょうど猫さんが帰宅して、チョビヒゲ猫がキツネに飛びかかる事態は避けられたが、鋭く研いだ爪は既にむき出しになっていた。

「図書館に行ってきました」

のんきな猫さんに、チョビヒゲ猫が猛然とキツネの暴食についての不満を漏らすと、猫さんは冷静に"キツネが勝手に食べて良い棚"と"備蓄食料"を分けたという。

チョビヒゲ猫が"地域を良くする会議"に出席している間、猫さんは近所で解体したい屋敷神の祠を募集すると、3件の応募があり、早速おキツネ様が解体して、わずかばかりの賃金を得ていた。今、食べている棚は、キツネが自分で稼いだ分だと説明すると、チョビヒゲ猫は自分の早合点を恥じ、素直にキツネにわびた。

「それならそうと最初から言えばいいのに…」

バツが悪そうなチョビヒゲ猫を見て、キツネはチョビヒゲ猫に対して喋らなさすぎ、チョビヒゲ猫はキツネへの独特な思い込みがあると、猫さんは思った。

とはいえ、おキツネ様の所在が決まるまでは共同生活になるので、2人には仲良くしてもらわなければと、借りてきた沢山の書物をドサリとテーブルに置いた。




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