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『あらわれないせかい』№2

小野さんの『冥界人名録』によると、あのおじいさんには"ジサイ"と書いてあった。怖がっている猫さんを安心させようと、小野さんは軽い気持ちで調べたのだが、大変な存在をピックアップしてしまったと早速後悔する。

そんな事実を知らない後世の人達が、彼を"夢も希望もない…"と呼ぶのは、妙に意味が合致していて、なにかこの地域に昔から伝わるイワレがあるのだろうかと、小野さんは少し興味が湧いた。

とはいえ、深入りするにはややこしそうな案件なので、さすがの小野さんも会館へ行くのをためらったが、自治会館ではお偉いさんが"盆と正月"というミニ講座を地域の子供達向けに開催していた。子供達に混じって、片隅で猫さんが熱心にメモを取っている。

その様子を見た小野さんは、講座を経た猫さんは"ジサイ"も理解しそうだなと、黙って帰ることを諦める。案の上、久しぶりに脳が活性化した猫さんは、小野さんが話す"ジサイ"について、猫さんなりに理解をしたが、どうしても、もういない存在が今いることだけは理解出来なかった。

秋も深まり、トンボも虫たちも見かけなくなった頃、猫さんはこれまた奇妙な自然現象を目の当たりにする。それはなんとも説明がつかないが、猫さんは直感的にその現象を理解する。そして、あのおじいさんも、きっとそこにいるのだろうと確信する。

猫さんはそれ以降、チョビヒゲ猫におかしな体験について話したり、聞いたりしなくなった。小野さんは、最近猫さんが色々知りたがらないことを不思議に思ったが、案件によっては関わらない方がいいこともあるので、内心ホッとしていた。

しかし、程なくして猫さんは、そっと小野さんに最近自分が見た風景を打ち明けた。

"それは何万人も乗れるような巨大な黄金の船で、大空に浮かんでいた"







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