【鉄道編】ある日の車掌第7運行乗務

車掌平日第7運行乗務は、常北太田出退勤の日勤行路。

乗り出しが12電(上り第12列車)という、いきなりクライマックス。
前年までは小田急モハ1一党の4両編成だった、朝ラッシュのピークの列車。

出勤して、ロッカーを開けて、7の番号が入った乗務鞄を取り出して、携行品を確認。
当務の駅員さん(駅長の時もあり。点呼代行と、手動による「てこ扱い」があったため、当時の常北太田駅勤務は社員限定だった)による点呼を受け、点呼簿の所定の場所に捺印する。

ホームに上がって、車両確認。
鮎川寄り先頭が2005号車の2005+2215+2006の3両編成。
つい先年までは、営団地下鉄(当時)の銀座線を走っていた面々。

まだ、寒いのですべてのドアを開けず、一番改札に近いドアだけをドアコックで開放して、出発指示を待つ。

やがて、3番線の出発信号機の現示(表示)が「停止」(赤)から、「進行」(青)に変わり、
「出発進行、3番!!」
と喚呼する。

駅員さんの手によって、駅すぐの踏切が動作し始め、ジリジリ…という出発指示合図のベルが聞こえてくる。
「出発進行、3番!!動作よし!!」
と喚呼して、駆け込んでくる乗客がいないことを確認して、車内に入ってドアコックを操作してドアを閉じる。

運転台のパイロットランプの点灯を確認して、運転士がブレーキを緩め、マスコンのノッチを入れて電車が動き出す。
「お願いします」と運転士に一声かけてから、一番後ろまで車内を歩く。
その途中で、こちらを向いて見送っている駅員氏に敬礼を返す。

一番後ろの運転台に着いて鞄を置いてから、仕切り扉を開けた状態で車内放送用のマイクを握る。

「おはようございます、日立電鉄線ご利用いただきましてありがとうございます。
この電車は久慈浜、大甕(くじはま・おおみか)方面、鮎川行きです。
途中久慈浜には7時5分、大甕には7時19分、終点の鮎川には7時34分の到着予定です。車内は禁煙です。車内でのおタバコはご遠慮ください。
次は小沢、小沢です。お出口は左側です。」

元は名物だった4両編成だったということもあってか、この列車のスジ(ダイヤ)はわざと寝かせて(余裕を持たせて)遅延が起きないようにしてあるので、遅延の心配はあまりない。
最初の行き違い駅、常陸岡田で行き違い相手の7電(下り第7列車)が「やらかさない」限りは…。

小沢駅に着いてドアを開けて、踏切の動作を確認して
「進路よし!!」
と喚呼して笛を吹いてドアを閉める。

動き出した途端、ガクンと衝撃を受ける。

「まさかここでか??」

次の常陸岡田駅での行き違いの時に、7電と12電が行き違いの際、12電優先発車の指示があるにもかかわらず、7電運転士の先走りで同時に発車してしまい変電所がダウンしてしまうのは、たまにあり…

でも、定刻の運転ならば、7電はすでに岡田に到着しているはずなのに…。
岡田の変電所がダウンしていても、架線電圧は0にはなっていなくて、200Vあたりを行ったり来たりしてるから、MG(電動発電機)が回ればどうにか動くか…
今日7電は誰だったけ??遅れるようなスジ(ダイヤ)でもあるまいし??

這うような感じでどうにかたどりついた常陸岡田で、行違う7電から運転士たちが駆けだしてくる。
状況をこちらの運転士に説明すべく、車内放送用のマイクをインターホンに切り替えて、連絡すると…

「(7電の運転士は変電所の所定の操作をするのに)降りてたんだっぺよ!!だったらこっちは行くべ!!」
「了解っ!」

気が気ではないものの、こちらをこれ以上遅らせる訳にはいかないので、

「出発進行!!動作よし!!」

と信号喚呼して、踏切の動作も確認してドアを閉める。
再びのろのろと動き出すものの、せめてカーブ連続区間を抜けるまでに変電所が回復してくれれば…
7電の乗務員が駆けだしていったのは、常陸岡田駅脇にある変電所を復帰させるための動作をするため。
運転指令室でも状況は見ているはずなので、所定の動作をすれば指令室で、変電所を遠隔操作で復帰させることができる。

次の川中子(かわなかご)に向かってカーブで制限時速40キロ区間を抜ける前にせめて復帰してくれたら…
で、変電所は復活。ノッチがいつも通り動くようになったから、みるみる速度が上がる。

「お急ぎのところ、電車遅れまして恐れ入ります。久慈浜より先の各駅には時刻通り到着できる見込みで運転中です。次は川中子、川中子です。お出口変わりまして右側です。」

まあ、回復してくれたのであれば、久慈浜発車時点では定時には戻せるはず。
川中子の次の駅、大橋ではこの列車は行き違いはなく、次は久慈浜で9電と交換。

川中子を発車してから、鞄から車内補充券と釣銭入れ、車補用のパンチを取り出して、2枚の切符にパンチで穴を開けていく。
実は、小沢から南高野(みなみこうや)までの各駅から、大甕乗り換えでJR各駅への乗車券を発行する際は、1枚の補充券で発行することが規定上できず、大甕までの自社線内用の切符と大甕からのJRの切符、2枚発行しなければいけない。この作業を既にやっているということは、毎日この列車で、乗車券を買う人がいるということで、大橋の駅に電車が進入すると、いつもの位置にその買い手はいつものように立っていた。

「おはようございます」

と声をかけつつドアを開け、乗降確認しながら、

「出発進行!!動作よし!!」

笛を吹いてからドアを閉め、電車が動き出して出発監視が終わるか終わらないかのタイミングで硬貨で仕切りのガラスをコツコツ…

仕切りとを開けつつ、渡された硬貨を確認して、先程の2枚の切符を渡す。
顔なじみなので、大橋から大甕までの自線の切符と、大甕からのJRの切符を渡す。
と言っても、こちらは6日ローテーションなので、乗務変更でもない限りは週一回くらいしか会わない。

茂宮(もみや)、南高野と客扱いは続き、幾分遅れは持っているものの、次の久慈浜での行き違いは、こちらが9電を待つので所定では4分ほどの停車時間がある。

ほどなくして、9電がやってきて、9電の運転士が顔を出して、

「岡田け??」

と聞いてきたので、

「小沢出たとこで、やられました。7電なんで遅れてたんですかね??」

と返すと

「わかんね」

とだけ言われる。

久慈浜駅は上り列車に対しては、左急カーブにホームがあるので、出発反応標識(JRで言うところの「レピーター」。実は電車から外したテールライトの廃物利用でレンズを白色ガラスに変えたもの)が設置されていて、直接信号機が視認できなくとも、これの点灯で列車を出発させることができる。

「反応、進行!!」

笛を吹いてドアを閉め、全ての側灯の消灯を確認。
急カーブ上だから電車から離れて確認するも、うかうかすると冗談抜きで置いてけぼりを食ってしまうので、素早く乗り込む。

ちょうど、9電の車掌と目が合い…

「○○(7電の運転士)ちゃんけ~~??」

と言うので、

「そうです~」

と返すと、離れつつある9電の後部運転台で笑い転げている。

どうにか久慈浜を定時で出たので、以降は問題はなく進みそう。
しかし、このあと7電の遅れの原因が明らかになることに。

「車内混み合いまして恐れ入ります、日立電鉄線ご利用いただきましてありがとうございました、次は大甕、大甕です。お出口は右側です。
常磐線ご利用の方はお乗り換えです。
上り、水戸、上野方面へおいでの方は1番線へ、下り、日立、平方面へおいでの方は2番線へお乗り換えください。
乗り換え列車のご案内をいたします。
今度の上り普通列車上野行きは7時22分発、すぐの連絡です。
そのあと、同じく上り普通列車上野行きは7時37分発です。
今度の下り普通列車高萩行きは、7時46分発、そのあと平行きは8時4分発です。
どなたさまも車内にお忘れ物、落とし物ないよう御仕度ください。
間もなく大甕です。
大甕で、少々停車いたします。」

ここまで一気にマイクでしゃべると、列車は常磐線をオーバーパスして、大甕へ一気に下る。

今日の指令の当直は助役だから、顛末は訊けるだろう…
列車がホームに滑り込み停車を確認してドアを開けると、そのまま指令室になだれ込み…

事の顛末を聞いたら、7電の運転士は時刻を勘違いしていたそうで…
到着するや、指令室に入って話し込もうとしたら

「何やってんだっぺ!!これ(7電)は着発(すぐの発車)だっぺよ!!」
「んなことあんめよ??2~3分あるんでねえの??」
「ダイヤ見てみたらいがっぺ!!」

で血相変えて、飛び乗った由。

と、助役に一気にしゃべられて、
半ば呆れつつも

「じゃ、行くけ??」

と促され、発車のスタンバイをする。

「4番線から鮎川行きが発車します」

と、助役のアナウンスと出発指示のブザーが鳴る中、

「反応進行!!」

と、喚呼してドアを閉め、側灯の消灯を確認して動き出すのを確認する。
出発監視をしつつ、大甕駅の連絡窓口勤務の駅員さんたちと敬礼を交わす。

「この先しばらく揺れますので、お立ちの方は手すりや吊革にお掴りください。おはようございます、日立電鉄線ご利用いただきましてありがとうございます。
大沼、桜川方面鮎川行きです。
終点鮎川には7時34分の到着予定です。
次は水木、水木です。お出口は同じく右側です。」

この12電は、太田側からの乗り通し客が多い列車とはいえ、大甕でかなり乗客が入れ替わるのも事実。もっと車内放送を簡略化してもいいのかな??と思いつつ、いつも同じようにしてしまう。

水木は行き違いの出来る駅でホームは狭い。
何もこの路線に限った話ではないけど、どうしてもドア口に人が固まって動かない傾向がある。この列車ではそこまで、客を煽るような放送は必要ないけど、この次の大沼で行違う13電は嫌でもそれを駆使しないといけない列車。しかも、自分が乗務する可能性のある列車の中で唯一5回行き違いのある列車。

12電優先発車というのは、13電との大沼交換でも適用されるのだけど、要領のいい乗務員さんのコンビだと、タイミングを見計らって先発する。そうしないと、常磐線の上りに接続できなくなる(所定で3分)恐れもあるので、むしろそうしてくれるとありがたい。

大沼での行き違いを済ませると、あとは無人駅の河原子(かわらご。のちに有人復活)での集札と、桜川で無事に降ろすだけ降ろせば鮎川で降ろすのはそんな大事でもないので、一気に気が抜けたような感じに。

ただ、この後鮎川到着後、この電車を構内の一番奥、通称「ストップ」まで持っていかないといけない。

鮎川に到着後、鞄を下ろして手旗だけ持ってドアを閉めて一番前へ移動。
通勤ラッシュの中、踏切に入ってこようとする車を止めつつ、電車をストップまで移動させる。

ストップに電車が入って、運転士が非常ブレーキに入れたのを確認して、手歯止め(輪止め)をセットして、後ろから運転台に入って「手歯止め使用中」のプレートを置いて、2両目の運転室へ。
「MG」(電動発電機)と「CP」(コンプレッサー)の電源を落として、最後にパン下げのスイッチを押す。

余談だけど、昔の銀座線をご存知の方ならお判りかもしれないけど、銀座線は一部の車両を除いて、MGを搭載していなくて、コレクターシューがサードレール(送電用のレール)から外れると、室内の蛍光灯が消えて、窓際にある予備灯がほのかに光るだけの車内になる。
譲り受けた時に魔改造されてMGを搭載しているから、通常は架線停電でもない限りは室内灯が点かないことはないけど、電源を落とすこの瞬間だけは、銀座線の時のようにほのかに予備灯だけが付く車内になる…。


実は、一番前の運転台で、運転士が同じ作業をしていて、3両編成の場合は2か所それぞれで操作が必要な構成になっているので、立ち上げる際も同様に2か所で操作が必要…という何とも面倒な構成でして。

ストップでの作業を終えて、運転士と一緒に駅に戻る。
ぼちぼち、折り返し15電になる14電が上がってくる頃…。
15電→26電で常北太田往復して、その後はひたすら鮎川と大甕の往復。
(のちに全区間2両でのワンマン運転となりますが、私が勤務していた当時は大甕~常北太田間のみ1両での列車に限りワンマン認可で、2両以上で客扱いする列車は、全区間車掌乗務でした)
最後に37電で常北太田まで通し乗務して、そのまま乗務終了。

まだ、一日は始まったばかり…。



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